第13話
きっと、前世の私もそういう想像……妄想が好きだったのだろう。
乙女ゲームの記憶があるぐらいだから、そういうストーリーを検証したり、考えたり、自分で作り上げたり。
その経験が、今の私の力になり、「もしかして起こるかもしれない未来」として認識されるのかもしれない。
「イリー様が具体的に想像できたことであれば、現実として起こる可能性があるのでしょう」
「ということは、みんな死んじゃう未来も……」
「ありえます」
「いや、ありえたら困る」
真剣に頷くルータス。どうしてそんなに怯まないのか。私は怯む。怯える。
ダメ。皆殺しEND、絶対ダメ!
「私もその未来は困ります。イリー様が死んでしまっては意味がありません。回避しましょう」
「うん! うん!」
頼もしい! さすがルータス!
目を輝かせて、ルータスを見上げれば、ルータスはにっこりと笑った。
「イリー様には内密にして、全員殺しましょう」
「やめて! こっそりやるのは一番ダメ!」
笑顔でなんてことを言うのか……! また! また内密に行動しようとしている……!
ルータスなら本当にこっそりできてしまう、間違いない。
危険な行動を止めようと、ぎゅうと頭を抱きしめる。すると、ルータスはくすぐったそうに笑って……。
むぅ……。あまり効いてない……。
「では、私が殺さなくて済むように、ほかの方法を探りましょう」
「ほかの方法?」
「はい。ので、まずは――」
私の腕から顔を上げたルータスの水色の瞳がぎらぎらと光っていた。
「イリー様が全員に恋をする可能性とはどういことですか?」
「え、あ、う」
「――詳しくお聞かせください」
「……ひゃい」
その瞳に射抜かれながら、しどろもどろに答えを返していく。
私が
「あのね私の『前世の記憶』は私の視点ではなくて、次の春の王女の視点だって伝えたよね?」
「はい。その中でイリー様はすでに亡くなっており、それに関わったと思われる者たちがいるのですよね」
「うん。で、一つだけじゃなくて、いくつか『道』があるんだけど、どれを選んでもね、その……次の春の王女が恋した人はね……わ、私とも恋に落ちているの!」
自分で言っていて恥ずかしいし、なんだその設定は! と思う。だが、そういうゲームだったのだ。
プロローグの三行目で死ぬ春の王女。それを殺す乙女ゲームの攻略対象者。
攻略対象者はさまざまな思惑から春の王女を殺すわけだが、そこには必ず恋慕も絡んでいた。
春の王女と攻略対象者が、しっかりと恋人関係を成立させるわけではない。だが、そこにあった気持ちは、間違いなく恋愛なのではないか、と思わせるような心情の吐露や、回想などがあったのだ。
攻略対象者たちは自身が殺した春の王女への後悔や恋慕があり、それがあるからヒロインとの関係を深めていく。
罪と愛……。それがこの乙女ゲームのテーマだった。
そして、ヒロインが選んだ攻略対象者のルートによって、さまざまな死に方をする。それが、この私、春の王女イリラクシエルなのだ!
「だからね……。その、今、私がだれかを好きっていうわけじゃないんだけど、出会ったら、そういう気持ちにもなるのかなって……」
まだ、ルータス以外の攻略対象者には出会っていない。
話に出てきた隣国のセロ王子にも出会っていないし、実際にどんな人物かはわからないのだ。
でも、出会ってしまえば、もしかして――
「わかりました。……では、イリー様。イリー様は私を好きですか?」
「うん。好きだよ」
ルータスが水色の目で私を見つめる。黒い髪はさらさらと揺れとてもきれい。いつも私を守ってくれる大好きな騎士。それがルータスだ。
だから迷いなく答えると、ルータスはそっと目尻を下げて笑った。
「さすがぽわぽわイリー様です。なにもわかっていらっしゃらない」
「なっ!」
失礼! 主に突然失礼! ちゃんと好きと答えたのに、まさかぽわぽわと言われるなんて!
むっと怒れば、ルータスはくすくすと笑いながら私の頭を撫でた。
「イリー様が恋愛を考えるのは、もっと先ではないでしょうか」
優しい声と頭を撫でる気持ちのいい手。
宥めすかすようなそれに、あっというまにほだされていく。
「……それは……そうかも……しれない……」
「出会えばすぐに恋に落ちる、ですか。イリー様には起こりそうにはありませんね」
ルータスにそう言われ、むぐっと息を呑む。
たしかに今の私が、
恋しちゃうかもー! と盛り上がった乙女心があっさりとしぼんだ。空気がぷしゅーと抜けていった。
「イリー様の『前世の記憶』では、恋をすれば殺されてしまうということですね?」
「うん……たぶん……」
「それはきっとそれだけの心のやりとりや、関係性ができたがためにイリー様を殺すチャンスができたということかもしれません」
「なるほど」
「幸いなことにイリー様には『前世の記憶』があり、関係性が深くなりそうな相手がわかっている状態です。その優位性を確保し、警戒していれば、早々と関係性が深くなることはないか、と」
「たしかに……!」
ルータスの言葉にほうほうと頷く。
つまり、だ!
「私が恋愛しなければ……死を回避できる?」
乙女ゲームの世界に転生しておいて、恋愛拒否なんて悲しいが! しかし自分の命には代えられない!
見つけた答えにぱぁぁと顔を輝かせれば、ルータスがにっこりと微笑んでいて――
「そうです。イリー様はだれとも恋に落ちません。イリー様に男性は不要」
……気づけばこれ、ルータスの男性排除ルートになっているような?
はて? と首を傾げる。
ルータスはそんな私の頭をまた優しく撫でた。
「だれとも会わない、関係性を築かないというのはイリー様のためにもよくないでしょう。ですが、深い関係になる必要はありません。セロ王子も警戒しつつ、浅く浅く付き合っていきましょう」
「うん」
たぶん……それが一番いいだろう。
私の目標はこれ!
――だれも好きにならない。だれにも好きにならせない!
「では、イリー様。お時間です」
そうして、陛下との謁見の時間がきた。
プロローグの3行目で、すぐ死ぬ王女に転生してしまいました しっぽタヌキ @shippo_tanuki
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