第11話

「けつだんがはやい」


 決断が早い。早すぎる。

 ルータスは有能な騎士だから、一瞬一瞬で決めねばならぬことは、迷わずに決める能力がある。

 にしても。にしても、これは早すぎる。

 そして、私の新たな死因も浮上するよね。

 DEAD No.1、No.2と回避し、さあ国王と謁見し、No.3を阻止するぞ! と気合を入れていたというのに、No.4の出現である。

 No.4はきっと、私がセロ王子と恋に落ちて、ルータスに殺されるENDだろう。


「殺さないで……ルータスっ」


 ひゃーん! と声を上げれば、ルータスは、はて? と首を傾げた。


「もしかして今、イリー様はご自身が殺されると思っていますか?」

「え、違うの……?」


 今の流れ、絶対そうだと思ったけど。

 DEAD No.4が流れるところだったが、ルータスは首を横に振った。


「私がイリー様を弑することなどありえません」

「うん……。うん……。そう、だと、思ったんだけど……」


 ルータスなら大丈夫!キラッ。とかって思ったのに「殺しましょう」宣言をされたから、即揺らいだよね。ごめんね。


「私が殺すのは、相手の男性です」

「……いやっ、隣国の王子を殺すのはよくないよ!」


 よくないよ! いや、だれを殺すのもよくないが!


「イリー様が隣国の王子と交流を深め、自身の立場を強くすることは賛成です。だが、恋に落ちるとなると別です」

「う、ん……」

「【春の力】は特別です。それは王族のみに受け継がれる力。……その王族の中に隣国の力が交ざっては、今後の情勢が変わってしまう」

「そうなんだよね……」

「つまり、イリー様とセロ王子は生涯の伴侶になることは不可能か、と」

「うん」


 そう。そうなのだ。

 この国は【春の力】によって、支えられている。その力は王族の女性にのみ引き継がれ、だからこそ、【春の力】はこの国から持ちだされることはなく、代々、この国を潤しているのだ。

 【春の力】を持つ、王族の女性である私が隣国の王子に恋をする。

 もちろん、私はセロ王子の国へ輿入れすることは不可能。

 セロ王子は第二王子であるから、すべてがうまくいき、お互いが納得できれば、セロ王子がこの国に永住することは可能だろう。

 だが、それをすると、この国の王族に、セロ王子の血が交ざった王族の女性が誕生する。

 ……そのことが、後世の争いになることは目に見えている。

 隣国ムーオがこの国へと干渉できるきっかけを与えることになるだろう。

 私にそれが許されるとは思わない。


「私はイリー様には笑っていて欲しいのです」

「うん……」

「セロ王子殿下との恋。それが、イリー様の笑顔に繋がるのか。……私は難しいと考えます」

「……私も」


 そこは意見が一致している。


「ので、セロ王子殿下を殺しましょう」

「そこはちがうね」


 ここは意見が一致していない。


「ルータス。もし、そんなことがあったら、私は笑えないからね……!」


 大事なことなので、ちゃんと伝える。

 もし、恋したセロ王子がルータスに殺されてしまったら、結局はDEAD No.2のようなことになる気がする。


「『もういやだ……』って私が言っちゃうかもしれないからね……!」


 回避したはずのDEAD No.2の再来だからね……!

 それを伝えると、ルータスはやわらかく笑った。


「イリー様に気づかれるような動きはしません」

「やめて! そこで有能さを証明しないで!」


 笑顔ですごいこと言うな、ルータス。いや、いつもそうなんだけど。そして、たしかに私にバレずにできるんだろうけど……!


「そ、それにね、ルータス。恋に落ちるっていうのはね……その……っ」


 実は、話はこれだけではない。

 もっと言っておかねばならぬことがある。


「セロ王子だけじゃないの!」

「は?」

「わ、私はね、その、私を殺す人、全員と恋に落ちる可能性があるの……!」


 実はね!

 恥ずかしくなり、また、ひゃー! と頬を押さえる。

 一瞬、ぽかんとした顔をしたルータスは、またにっこりと笑った。


「全員、殺しましょう」

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