難攻不落の優等生から「前世からずっと好きです」と告白された ~とりあえず友達から始めたけどグイグイ来るので、妹・幼馴染・後輩まで焦り始めてぼっちの俺に迫ってきたんだが~
第28話 幼馴染と後輩、すなわち両手に花
第28話 幼馴染と後輩、すなわち両手に花
弓道部の練習が終わり、俺・
それにしても、女の子二人と一緒に帰る日が来るとは思わなかった。
運動部男子たちからの激アツな視線に晒され、若干肩身が狭い。
とりあえず俺は、弓道部の話題を出すことにした。
「弓道部員同士なんだから、一緒にいるのは当たり前だろ?」という空気を演出するのだ。
──まあ、俺は「元」弓道部員なんだがな。
「茉莉也は弓道部に入って2ヶ月位だよな。部活は楽しいか?」
「あ、はい……先輩方は優しく教えて下さいますし……
「ええ、そう言ってもらえて嬉しいわ」
矢口由佳は柔らかな笑みで答える。
てっきり「ふ、ふん! 後輩に教えるのは当然なんだから! 別にあんたのためじゃないから勘違いしないでよねっ!」と言うかと思ったのだが、どうやら茉莉也にはそういう態度は取らないらしい。
「──でも、
茉莉也はポツリと呟き、うつむき加減になる。
彼女は部活動見学の時に、「百発百中の男」である俺の射を目の当たりにし、憧れて入部したという。
「憧れの先輩を追いかけてきたのに、蓋を開けてみれば辞めてました」っていうんじゃ、そりゃがっかりするよな。
茉莉也は上目遣いをしながら、潤んだ目で俺を見つめる。
「弓弦先輩、戻ってきてくださいませんか……?」
「そ、そんな目で見られても、期待には応えられないぞっ」
「あ、弓弦! 今
「デレデレはしてない! 無理難題を吹っかけられて困ってただけだ!」
まったく、由佳は失礼なことを言うな。
まあ……相羽茉莉也を女子として、ほんの少しだけ意識してしまったのは認めるが。
「わたし……かわいい、ですか? デレデレ、しちゃいますか……?」
「はあ、茉莉也まで俺をいじるのか……──ああ、小さくて可愛いよ。守ってやりたい系だな」
「わあっ……ありがとうございますっ!」
「ゆ、弓弦! 私はどうなのっ!? その、可愛いって思ってる……?」
「由佳は『可愛い』っていうよりも綺麗系だな。棘があるし手がかかるけど、ずっと眺めていたくなる薔薇みたいな感じだ」
「うえっ!? ──そ、そうっ……? ほ、褒めても何も出ないんだからねっ!」
由佳は若干ムキになりながら、ウェーブの掛かったロングヘアをくるくると指で回している。
弓道をしているときは邪魔にならないようにポニーテールにしているのだが、いつもは髪を下ろしている。
──あ、あれ? 下校中の生徒たちからの視線が熱いんだが。
そういえば俺、弓道部の話をしていたつもりなのに、なんで二人の容姿を褒めてたんだろう?
そんなことを考えているうちに、ついに駅に到着した。
改札を通り、いつものプラットホームに向かう。
「──あ、あの! わたし、こっちなんです……さようならっ!」
「ああ、バイバイ」
「また明日ね」
俺と由佳は、茉莉也と別れる。
どうやら茉莉也は、俺たちとは反対側の方面に向かうようだ。
俺は由佳を連れてホームに到着し、電車を待つ。
「──よ、ようやく二人っきりになれたわねっ……」
電車を待つ乗客はそこそこいるのだが、まあそれを言ってしまっては無粋というものだ。
「茉莉也がいなくなって、俺と由佳の二人っきりになった」という意味なのだろう。
「ああ、そうだな。それにしても、こうやって二人で帰るのは本当に久しぶりだな」
「そういえばそうね……小学校のときはだいたい
真央は妹だ。
幼少期からずっと、俺にベッタリだった。
だがそれと同時に真央は、由佳の幼馴染でもある。
そういえば、俺が由佳と会うときはだいたい真央も一緒だったな。
「あ、それにしても弓弦。今まで私とは一緒に帰らなかったくせに、なんで
「え……? 英理香から『一緒に帰ろう』って誘われたから、一緒に帰ってるだけだ。誘われてなかったら一人で帰ってたよ」
「そう、なの……──今日みたいに、誘えばよかった……」
由佳は残念そうに呟く。
彼女が俺を嫌っていないのは分かっているが、そんなに俺と一緒に帰りたかったのだろうか。
話をしているうちに、電車が到着した。
中にはたくさんのサラリーマンや大学生っぽい人々が乗っており、満員電車の様相を呈している。
俺たちは電車に乗り込む。
由佳を扉側に誘導したあと、俺は通路側に移動する。
痴漢防止のためだ。
それにしても、由佳との距離が近い。
今彼女と向かい合わせになっているのだが、彼女は背丈が高いほうなので、顔がどうしても近くなる。
矢車菊のような甘い香りがして、全然落ち着かない。
「ど、どうしたのよ弓弦っ……そんなに顔を真っ赤にしちゃって……」
「へあっ!? き、君こそ真っ赤じゃないか……」
「そ、そんなことないわよっ!」
──と言い争いをしているうちに、電車は動き出す。
たくさんの乗客を乗せた車内は、激しく上下に振動する。
いかにサスペンションで振動を軽減しているとはいえ、猛スピードで走る重量物にかかるエネルギーは相当なものだ。
「──きゃっ!」
車体がガツンと揺れる。
その衝撃でなんと、由佳が俺にぶつかってきた。
彼女は身体を支えようとしているのか、俺の身体に必死にしがみついている。
や、柔らかいッ……!
由佳は胸がとても大きいので、ガッツリ当たっている。
弓道の指導の一環でボディタッチをしていたときに柔らかな身体だと思っていたのだが、思った以上にふわふわしていて気持ちよかった。
って、違う違う違う!
幼馴染相手になんてこと考えてるんだ!
俺は平静を装い、由佳に気遣いの言葉をかけることにした。
「あ、あああああのっ! だ、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫……」
由佳はそう言うが、俺の身体から離れようとしなかった。
「何こんなところでイチャついてるんだよ」と言わんばかりの、乗客からの視線が痛いんだが……
「は、早く離れてくれっ!」
「し、しょうがないわねっ!」
由佳は不服そうに俺から離れる。
俺は気まずさから逃れるべく、スマホでネットサーフィンを始めた。
「ね、ねえ……私に抱きつかれて、どう思った……?」
ええっ……満員電車でするような話じゃないだろう……
か細い声で由佳に問われた俺は、色々と思い出してしまう。
「や、柔らかかったな……って」
しまった、変なことを口走ってしまった!
これはやばい、殴られるッ……!
「──この、変態……」
由佳は俺に、そう囁く。
吐息が耳にかかり、ゾクゾクしてしまった。
◇ ◇ ◇
20時前、外はもう真っ暗だ。
俺と由佳は、彼女の家の前にいる。
「今日は……その、ありがとう……弓道も教えてもらったし、一緒に帰ってくれたし……」
「ああ、これくらいはお安いご用だ」
由佳はスカートを掴んだり離したりしながら、もじもじとしている。
「明日も、頼むわね……それじゃあ」
「ああ、バイバイ」
由佳が家の玄関に入ったのを確認した俺は、自分の家に向かう。
ちなみに俺の家は、由佳の隣に建っている。
門をくぐり、解錠して玄関に入る。
「──お兄ちゃん、お帰り。今日は遅かったね」
「──お帰りなさい、弓弦くん……うふふ」
玄関ではすでに妹の真央と、そしてなぜかクラスメイトの英理香がスタンバっていた。
まるで俺の帰りを、待ち構えていたかのように。
真央は剣呑な雰囲気を放ち、英理香は人を殺しそうな笑顔をしている。
「な、なんで英理香までここにいるんだっ!?」
「今日は真央とたくさんお喋りしていたのですよ──弓弦が由佳と乳繰り合っている間に」
「乳繰り合ってなんかない! 弓道を教えてあげてただけだ!」
「冗談ですよ。私、ちゃんと分かっていますから……ふふ」
「私、お兄ちゃんがずっと帰ってこないから、寂しかったんだよ……? これからお兄ちゃんの部屋で、三人でお話しよ? ……ね?」
「はいはい……」
俺は靴を脱いで家に上がり込み、真央と英理香とともに俺の部屋に向かった。
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