第15話 公園での昼食と休憩

「そろそろ腹が減ったな……英理香えりか、コンビニに行こう」


 12時過ぎの公園……

 英理香と過ごす時間は楽しくて、つい時間を忘れてしまったようだ。


 英理香は俺の言葉を受けてか、ニッコリと笑った。


「実はサンドイッチを作ってきたのですが、よかったらいかがですか?」

「ありがとう、いただくよ──どこかレジャーシートを敷けるようなところに行こう」

「はいっ!」


 俺たちは公園を進み、丁度いい芝生を見つける。

 そこにレジャーシートを敷き、座って荷物を置く。

 シートは、寝転がるために俺が持ってきた大型のものだ。


 英理香はランチボックスを開ける。

 そこには、綺麗にカットされたサンドイッチがたくさん入っていた。


 カツサンド、ベーコン・レタス・トマト (BLT) サンド、ツナサンドなど……

 どれも定番メニューで美味しそうだ。


「英理香、これは朝早くから作ってくれた、ということなのか?」

「はい、弓弦ゆづるに喜んでもらいたくて……」

「そうか……本当にありがとう。いただきます」


 好きな女の子──といっても友達としてなのだが──が、俺のために作ってくれたサンドイッチ。

 俺はその気遣いに感謝しつつ、まずはカツサンドに手を伸ばす。


 食パンの甘みと、肉や脂の旨味、中濃ソースや塩コショウといった味付け。

 それらが見事に組み合わさり、とても美味しい。

 また、千切りキャベツが食感にアクセントを与え、さらに清涼感をもたらしてくれる。


「うまい!」

「ありがとうございます! 嬉しいです!」

「英理香は料理が上手だと思うんだが、学校には弁当を持っていかないのか?」

「平日の朝は忙しいですからね。やはり普段は学食が一番です」

「そうだな。学食なら温かい食事が出てくるし。メニューも色々選べるからな」

「そうなんですよ。今日のお弁当の具はどうしようかな、なんて考える必要もなくて楽ですし、温かくて美味しいんです」


 俺と英理香は食事の話で盛り上がりながら、サンドイッチを食べていく。

 カツサンドだけでなく、BLTサンドやツナサンドも同様に美味しかった。


 そしていつの間にか、ランチボックスからはすべてのサンドイッチが消失していた。

 正直言って、もっと英理香のサンドイッチが食べたかったところだが、ないものねだりをしても仕方がない。


「ごちそうさまでした。めちゃくちゃうまかった」

「ふふ……お粗末さまでした」


 英理香は俺に微笑みかけた後、白いハンカチを取り出た。

 そして俺に少しだけにじり寄り、口元を拭ってくれる。

 ハンカチからは、エリカの花の香りがほんのりとした。


「ソース、ついたままですよ」

「ありがとう……でもよかったのか? 洗うの大変だろう」

「大丈夫ですから、気にしないでください」


 英理香の気遣いに、俺はとても嬉しかった。

 ハンカチを汚してしまったという罪悪感よりも、好きな女の子に恋人みたいなことをしてもらって嬉しかったという喜びのほうが勝っている。


 ──って! あああああ……

 なんてこと考えてるんだ、俺……


「顔が赤いですね〜。ドキドキしましたか?」

「そ、そんなことはないぞっ!」


 英理香はケタケタと笑っている。

 その表情や仕草に、俺は本当にドキッとしてしまった。


「そ、そんなことより、しばらく休憩しよう」

「はい……ふふ」


 俺はランナーが走っている様子を、ただボーッと眺める。

 俺が今見ているのは長身痩躯の男で、ウェアからして本格的にやってそうな雰囲気を放っている。

 俺も毎日ランニングしていれば、あの男のように走れるのだろうか。


「すー……すー……」


 ふと、俺の肩に何かがぶつかってきた。

 その方を見やると、そこには英理香の頭があった。


 彼女は寝息を立てており、眠っている様子だ。

 顔を覗き込んで見ると、とても無防備な表情をしておりそそられる。

 それに、手入れがきちんとなされている髪からは、とても甘くていい香りが漂っていた。


 うおおおおおおおおおっ! めちゃくちゃ可愛い!

 えっ! 俺、これからどうすればいいの!?


 横に寝かせようにも、一度でも英理香に触らないといけない。

 触りたくないことはないし、むしろ触りたい。

 だが、下手にやらかすとセクハラ認定されてしまう。


 かといって、肩によりかかられている今の状況は、あまりにもマズすぎる。

 体温を感じてしまうし、甘い香りがするからだ。


「えっ……!」


 俺があたふたしている最中、英理香が体勢を変えてきた。

 なんと、俺の膝の上に頭を乗せてきたのである。


 ──これは……必殺技・膝枕ッ!?

 なんという高度なテクニックだ!


 英理香は朝早くから、俺のためにサンドイッチを作ってくれたんだ。

 このままにしておいてあげよう。


 それにしても……髪、綺麗だな……

 撫でたい……


 そういえばこの前見た夢でも、英理香に瓜二つのエリーズの頭を撫でてあげた。

 その時はとても手触りが良くて気持ちよかったな……


 ──これはヤバい。

 俺はとりあえず、子どもたちの遊んでいるところを観察することにした。

 英理香との間に生まれた子は、さぞや可愛いだろうな……


 ──って、子供はマズい!

 なにその気になってるんだ、俺!


 俺は心を落ち着かせるため、草木を眺めることした。



◇ ◇ ◇



「う、ん……」


 1時間後……


 俺の膝枕で寝ていた英理香。

 彼女はどうやら目を覚ましたようだ。


「おはよう、英理香」

「おはようございます……まさか気持ちよすぎて、本当に寝てしまうとは思いませんでした……」

「ん? なんか言ったか?」

「えっ!? ──いえ、なんでもありませんよ……うふふ」


 まあ、英理香がスッキリしたのならそれでいい。


 それにしても英理香、目が覚めたようだけど、全然起きないな。

 少し太腿が痛いのだが……


「あ、あのー……英理香さん、そろそろ起きましょー……?」

「もう少しだけ、このままでいさせてください……今日は朝早かったんですから……」


 それを言われては、俺はなにも言えない。

 とりあえず、このままにしておくことにした。


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