第14話 英理香との公園デート?

 2日後の金曜日。

 俺と英理香えりかは学食で、ともに昼食を取っている。


「明日、土曜日ですね」

「そうだな。英理香は何か予定はあるのか?」

「私は特にありませんね。弓弦ゆづるはどうですか?」

「俺も特に、これといって用事はないな」

「そうですか……」


 ここで、俺たちは一度沈黙する。

 常人であればここは遊びに誘う場面かもしれないが、俺はあいにくチャンスをモノにできない男だ。


 今から2週間もしないうちに、中間テストが始まる。

 俺は普段から勉強しているので、今の時期に焦って勉強する必要はなく、1週間前から本腰を入れるつもりだ。


 だが、英理香がそうとは限らない。

 どんな時も常に根を詰めて勉強している、という可能性だって否定できない。


 相手の事情を考慮するあまり、動けなくなってしまう。

 俺は英理香を遊びに誘う勇気がなかった。


 が──


「弓弦の家の近くに公園があったでしょう? 明日、そこで遊びませんか?」


 英理香が俺の沈黙にしびれを切らしたかは分からない。

 だが、遊びの提案をしてくれたのは、とても助かった。


 ちなみに俺の家の近所にある「公園」とは、全国的に有名な都市公園だ。

 その周辺にはたくさんの庭園や歴史的建造物がある。

 外国人にも人気の観光地で、遊びに行くにはぴったりだ。


 まあ、俺は地元民なのだが……


「誘ってくれてありがとう。じゃあ明日の9時に、駅前で集合しよう」

「はいっ!」


 俺たちは期待を膨らませながら、食事を再開させた。



◇ ◇ ◇



 翌日、土曜日の9時前。

 俺は駅前で、英理香の到着を待っている。


 一応自宅の最寄駅であるため、遅刻することはまずない。

 だが俺は万が一ということも考え、すこし早めに到着したのだ。


 早く来ないかな……


 自分の意思で早めに到着した俺が言うのもなんだが、人を待っている間はとても緊張するのだ。

 それが、「難攻不落」と呼ばれていた才色兼備のクラスメイト・悠木ゆうき英理香えりかが相手ならなおさらだ。


 まあ、それがデートの醍醐味かもしれない。

 ──デートじゃないけど。


 俺はスマホで公園について下調べをしながら、時刻をチラチラと確認する。


「──弓弦!」


 英理香の声が聞こえてきたので、俺はスマホをポケットに入れて出迎える。


「おはよう、英理香」

「おはようございます! わ、私……遅刻してないですよね……!」

「大丈夫、まだ10分前だ」


 英理香はとても申し訳なさそうにしていた。

 恐らく、俺よりも早く来て待つつもりだったのだろう。


 だが、相手よりも早く来ようと思ったのは、俺も同じだ。

 時間にきっちりしているところは、共通点かもしれない。


「じゃあ、行こうか」

「はい!」


 俺と英理香は公園に向かって歩を進めた。



◇ ◇ ◇



 駅から出たあと坂を少し上り、ようやく公園に到着した。


 公園内には、芝生や木が植えられている。

 整地された道では、多くの人々が散歩やランニングを楽しんでいる。


 駅から10分程度歩いた俺たちは、とりあえずベンチで休憩することにした。


「ランナーを見て思ったのですが、弓弦は普段運動はしますか?」

「いや、全然しないな。俺、運動は苦手なんだ」

「確かにそういえば、体育の授業のときは辛そうにしていましたね。たまに、ちらっと男子の授業を見ていましたが……」

「そうなのか。いや、恥ずかしいところを見せてしまったな」


 そう、俺は体育の授業が、他の科目と比べて苦手だ。

 成績は100点満点中60点程度と、平均程度である。

 他の成績が90点以上であることから余計に、「勉強しかできない陰キャぼっち」などと言われてきたのだ。


 英理香に醜態を晒したと思うと、少し恥ずかしい気分になってしまう。

 だが彼女は俺を笑うことなく、「いいえ」と首を横に振っていた。


「恥ずかしいとは思いません。誰にだって向き不向きはありますから」

「うーん……君に言われても、説得力皆無なんだが……」

「そんなことはないです──私の弱点、ご存知ですか?」


 英理香はいたずらっぽい笑みとともに、俺に問いを投げてきた。


 英理香の弱点、か。

 成績優秀・スポーツ万能・容姿端麗・品行方正。

 これが、俺が彼女に抱いている印象だ。


「分からないな」

「私の弱点……それは弓弦、あなたです」


 な、なんだとっ!?

 まったく、本人の前でそれ言うか……?


 英理香の目は若干潤んでいるようにも見える。

 なんだか恥ずかしくなってきたので、俺は次の場所に向かうことにした。


「さ、さあ、行くぞ! この近くには庭園があるんだ!」

「あっ……弓弦、顔赤~い……うふふ」

「いいから、行こう!」

「はーい」


 俺と英理香はベンチから立ち上がり、日本庭園へ向かった。



◇ ◇ ◇



「うわあ……綺麗ですね……」


 俺たちは今、公園近くの庭園にいる。


 様々な草木が整然と生えており、手入れが行き届いている事がわかる。

 花が咲き誇っており、見た目が色鮮やかである。

 パンフレットによると、5月の見どころはドウダンツツジとカキツバタだ。


 ドウダンツツジの花は白く、釣り鐘のような小さな花を大量に咲かせている。

 一方のカキツバタは池のほとりに群生しており、紫色の花びらが特徴的だ。


 大きな池や和風の建築物も相まって、庭園はとても美しく見える。

 英理香は景色を見て、うっとりとしている様子だった。


「やはり弓弦はセンスがいいですね」

「やはり、とはどういうことだ?」

「前世のあなたは時々、私に花を贈ってくださいました。今でもその綺麗さは、鮮明に思い出せますよ……」

「ちなみにエドガーが贈った花で、一番のお気入りは?」

「内緒です……ふふ」


 英理香は唇に人差し指を当てながら、いたずらっぽく笑った。

 恐らく、俺が前世の記憶を完全に思い出すまで、黙っているつもりなのだろう。


 まあ、本当に前世なんていうものが存在するのかは、未だ分からないが……

 この前やけにリアルな夢を見てしまった以上は否定しづらいし、かといって全肯定する気にもなれない。


「さあ、ぐるっと一周しましょう」

「ああ……そうだな!」


 俺と英理香は庭園を進み、草花や風景を楽しんだ。

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