VS王国

 他のSランク冒険者も意外とあっさり倒されていった。

 ブライトが人外というので、かなりの強さを持っている前提で策を組んでいたのに、少しだけ拍子抜けしてしまう。


 ただ、その理由も案外あっさりとわかる。



「……ジークはまだ戦っているのか」



 ブライトのその一言で、俺もジークフリードの方へと視線を向ける。

 未だに目に見えなくて剣戟だけ周りに響いている。



 確かにあの二人を見ていると人外と言われている理由もよく分かる。

 二人の活躍を聞いて、そういった噂が流れていたのだろう。


 他の人たちはそこまで飛び抜けた能力を持っていなかっただけか。



 すでにギルドは落としたも同然だった。

 ギルドマスターも既に捕縛してある。


 ならば次に打つ手は――。



「よし、このまま城へとなだれ込むぞ!」



 チャンスを活かして、一気に国の膿も取り除いてしまうことだった。

 これで国の連中が反省して、正しい政治を行ってくれれば全て解決する。



 そうすれば後に残るのは平穏な暮らしだろう。

 あと少しで――。

 もう少しでそれができる……。



 思わず頬が緩んでしまうのを堪えて、冒険者やドラゴンたちと共に王城へと向かって走り出す。



「あと少しだな、アイン」

「――そうだな。ただ気を抜くなよ。まだ何があるか――」



 城の前にたどり着くとそこには既に貴族たちが私兵を集めて、待ちわびていた。



「待っていたぞ、反乱軍!」



 一番先頭で声を上げてくるのは俺の父だった。


 色々と不正を行ってきた張本人だから仕方ないだろうが。



「その程度の戦力で俺たちに勝てるとでも思っているのか?」



 冒険者ギルドを落とした以上、城に残されたのは碌に訓練もしてない兵士達。

 それこそ下級冒険者達ですら相手にできるのではないだろうか。

 そのくらいの力しか持っていない上に数は俺たちの方が圧倒的に多い。


 既に勝負は付いている気がするが、俺の父は不敵に微笑んでいる。

 何かの策があるのだろう。


 ただ、この状況をどうにかできる一発逆転の策なんて――。



 そこでふと嫌な予感がよぎる。



 ここまで圧倒的な戦力差を覆す方法……。

 将を落とすしかないだろう。


 つまりこの俺を――。

 そして、俺が抱えている爆弾が爆発してしまうと、反乱軍は浮き足立ってしまう。



 もしかして、俺の正体に気づかれたのか!?



 確かにかなり動いてきた。

 父なら気づいていてもおかしくない。



 でも、その場合はどうやって動く。

 一切俺の指示に従ってくれなくなるだろう。



 ――いや、それなら俺が指示を出さなければいい。

 よし、それなら早速――。



「ブライト、後はまっすぐ城を落とせば勝てる。変な気を起こさなければな。ただ、相手の策で兵達は浮き足立ち、俺は身動きが取れなくなる。後のことは任せたぞ!」

「ちょ、ちょっと待て! どういうことだ!?」

「それはだな――」



 詳しく事情を説明しようとした瞬間に父は口を開いていた。



「よくやった、クロウリッシュ。ここまで一カ所に反乱軍を集めてくれたら、あとは掃討するだけだからな」

「くろう……りっしゅ?」



 ブライトがゆっくり俺の方を向いてくる。

 やはり予想通りか……。



 俺は大きくため息を吐くとつけていた仮面を取る。


「はぁ……どうしてわかった」

「最近の金の減りやお前の不思議な行動を見ていたら簡単に分かったぞ」



 やはり、そこからか……。

 ある程度は隠したつもりなのだが、さすがは父親だ。



「お、おま……、貴族だったのか――」

「まぁな。公爵子息だ。だからこそ一切正体を明かすわけにはいかなかった」



 俺が正体を見せたことで反乱軍の中には動揺が走っている。

 これ以上俺がここにいては余計その動揺が広がってしまう。


 それなら今の俺にできることは――。



「約束通り、ブライト、後のことは任せたぞ」

「お、おい、アイン……いや、クロウリッシュ……だったか? お前はどうするんだ……」

「ここにいて、俺の存在のせいで負けてしまってはダメだからな。姿を隠させてもらう」

「ちょ、ちょっと待て。まだお前にはすることが――」

「いや、もう終わりだ。俺がいない方がこの革命は成功する。だからこそ、俺は去った方が良い」



 実際、今俺に向けて殺気を放つ反乱軍のメンバーもいる。

 これから混戦になるのだから、その隙に乗じて俺を殺そうとするやつが現れても何らおかしくない。


 身を守るためにはこの場に残りたくない。



「クロウリッシュ様、私はクロウリッシュ様にお供させていただきます」

「ルリカか……。仕方ないな。ただ、ブライトはこの兵の指揮を任せてあるからな。あとのことは頼んだぞ。俺たちの悲願のために……

「……っ!? あ、あぁ、わかった。なんとしても勝ってみせる!」



 気合いを入れたブライトの姿を見た俺は軽く手を振って去って行こうとする。



「はっ? ちょ、ちょっと待て、クロウリッシュ。お前は私のために反乱軍を集めたのではないのか?」

「……そんなことはありませんよ。むしろ倒されてしまったら良いと思っていますよ。私の平穏のために――」



 にっこりと笑みを父に向ける。

 すると、父は一瞬驚きの表情をみせていた。



「くっ、クロウリッシュめ! 謀りおったな! おいっ、お前たち。あやつを殺せ!!」



 父の命令で即座に俺へ向かって兵士達がやってくる。

 しかし、それに対してブライトも声を荒げる。



「お前たち! 今は城を落とすのが専決だ!! ここを落とせば苦しかった生活が終わるんだ! 一気に攻めろ!!」



 ブライトの鼓舞に反乱軍のメンバーが我を取り戻して、貴族の兵達とぶつかり始める。


 それをしっかり見届けた後、俺はルリカと一緒に場を離れていった。







 その後の結果はルリカに探らせて知ったのだが、無事に反乱軍は国を落とし、新しい国家を形成。

 ブライトが新たなリーダーとなったようだ。

 最後の最後までブライトは反対していたようだ……という話も聞いたが。

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