冒険者の反乱

 予定通り、ジークフリードにギルドを任せた。

 おそらく、数日もしないうちに下位冒険者は彼の下に集うだろう。

 そうなったら、あとはギルド本部を攻め落として、その膿を取り出すだけだ。


 ただ、俺の方も少々問題が出てきている。


 自分で集められる金は全て巻物に変えていたのだが、それを使い切ってしまった。

 公爵家であるうちにはまだ金はあるが、自分の物以外は動かしたらさすがにバレてしまう。


 つまり、これ以上は俺自身フォローに回る以上のことはできないと言うことだ。


 まぁ、すでに反乱に加わった人数はかなり多い。

 ドラゴン襲撃から助けた町の人たちも協力してくれることになっているので、ほぼ国全体に今の活動が広がったことになるだろう。


 指揮をする俺があまり目立っていても仕方ないな。

 それなら俺ができることは貴族たちの動向を探るくらいか……。





 今日はユリング侯爵がこの領地に来るので、父の名代として迎えることになっていた。



 そろそろ時間か……。



 時計を眺めたタイミングで扉がノックされる。



「クロウリッシュ様、よろしいでしょうか?」

「あぁ、入れ」



 扉が開くとメイドが軽く頭を下げてくる。



「ユリング侯爵様がお見えになりましたので、応接間に案内させていただきました」

「あぁ、助かる。これから向かう」



 メイドに礼を言うと俺は応接間へと向かっていく。







 応接間に入るとユリング侯爵が席を立ち、頭を下げてくる。



「クロウリッシュ様、本日はお時間をとっていただいてありがとうございます」

「いえ、気にしないでください。それよりもせっかく来てくれたのだから、ゆっくりしていってくださいね」

「はい、ありがとうございます」



 なるべく好意的に受け取られるように笑顔を作りながら、ユリング侯爵が椅子に座ったのを見届けたあと、俺もその向かいに腰掛ける。

 そのあとは何の意味があるのか分からない、他愛のない会話をしばらく続けていた。



 そして、さりげなく今の国王についての話題へと会話を誘導する。



「そういえば、最近国王様がギルドへ高額の依頼を出してるみたいですね」

「クロウリッシュ様もお聞きになりましたか。金さえ払えば、どんな事も引き受けてくれる奴らのことを――」

「彼らも金には勝てなかった……というわけですか」

「当然ですね。金にもならないことをいつまでも続けられるはずがありませんからね。ただ、ギルドの抱える冒険者は腕の立つものが多いので、こき使うにはちょうど良いのですよ。ただ、今は急ぎの依頼は受け付けていないので注意してください」

「依頼は受け付けてない? どういうことですか?」



 初めて聞く情報に思わず聞き返してしまう。

 するとユリング侯爵は得意げに答えてくる。



「今は国王様の依頼で、上位冒険者はみんな出かけております。下位の冒険者なんて依頼を出す意味もないですからね」



 ユリング侯爵が笑い声を上げる。



「なるほど……。国王様が出した依頼というのは?」

「詳しくは分からないのですが、なんでも反乱分子の誅殺らしいですね。この国に逆らうなんてなんて愚かなことを考える連中です」



 ユリング侯爵が口をつり上げながら笑みを浮かべる。

 そんな彼を俺は冷静に見つめていた。



「反乱……ですか。確かにここでも暴動が起きましたし、少し不穏な空気にはなってますよね」

「またまた、クロウリッシュ様が反乱軍を相当する話は父上からお聞きしていますよ。私どももできることはお手伝いいたしますので、いつでもお声がけくださいね」

「……? あ、あぁ、そのときが来たらよろしく頼む」



 どういうことだ?

 父が俺に反乱軍を潰させようとしている?



 もう少し詳しい話を聞いておきたいな。



◇■◇■



【ジークフリード】



(冒険者を説得……か。難しいことを簡単に言ってくれる……)


 確かにジークフリードのことを慕ってくれている奴らもいる。

 しかし、基本的には交流のない冒険者が大半だ。


 確かに今のギルドの対応を不満に思っている奴らも多数いる。

 特に下位冒険者と呼ばれるCランク以下の冒険者達は、声をかけたらあっさり話に乗ってくれるだろう。


 でも、Bランク以上の冒険者が厄介だ。

 今のままでも十分に金を稼ぐことができている連中にギルドをよくするために……と話をしてもまず乗ってこないことが分かる。


 何か手を打たないといけない。

 しかし、そうなると一芝居打つことになるな。

 今、クロウリッシュ……いや、アイン殿が行っているみたいに――。





 まずは手始めに下位冒険者に当たっていく。

 当然ながらジークフリードがSランク冒険者ということもあり、少し警戒されてしまう。



「なんだ、ギルドの狗が何か用か?」

「ははっ、酷い言われようだな。まぁ、気持ちはよく分かるが」

「Sランクのあんたがこんな安い酒場どろだめに来るなんて――」

「いやいや、俺もよく利用するぞ。マスター、いつものを頼む!」

「あいよー」



 常連の注文の仕方に冒険者は少し驚きを見せていた。



「そんな……、俺たちは今まであんたのことを見ていないぞ?」

「まぁ、自分の立場くらい分かっているからな。俺がいたらゆっくり酒を飲むことができないだろう? だから人が少ない時間に来ていたんだ」

「し、しかし、ここで酒を飲むこととあんたの立場の件は別だ。ギルドの狗になっているあんたに――」

「……そのギルドを潰す算段をしたい。これ以上の情報は承諾してからになる」



 ジークフリードが声を落とす。

 すると、ザワついていた酒場の中に静寂が訪れる。



「……そ、そんなことを言ったらあんたも俺たちも消される――」

「誰にだ?」

「ギルドのトップ連中だ」

「つまりSランク冒険者と言うことだろう? 一人や二人くらいなら俺でも相手をできる。すぐに動ける連中は四人もいないだろう」

「やはり簡単に制圧されるってことじゃないか!」



 慌てて去って行こうとする冒険者。


 それを見てジークフリードはため息を吐く。



「やはり逃げるだけか」

「……なにっ!?」



 冒険者が振り返り、口を噛みしめる。



「何も手を出さないのならそれで構わない。ただ、少しでも今のギルドを倒したいという気持ちがあるのなら手を貸してくれ。本当なら俺が内部から変えようとしたのだが、力が足りなくてそれはできなかった――。それはすまなかった」



 ジークフリードが頭を下げると、冒険者達が少しザワつく。


 すると、冒険者の一人が立ち上がる。



「俺は……やるぞ! あんたのためじゃなくて、今の冒険者を変えるために――」



 その言葉を皮切りに酒場にいた全員が立ち上がり、参加することを決めてくれる。

 その様子を見てジークフリードは一安心していた。

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