ドラゴン襲撃

「ドラゴンは魔法耐性があるから魔法は効きにくいぞ!」



 ジークフリードの声が聞こえてくる。

 しかし、皆の分の武器までは準備していないし、武器を持ったところで碌に訓練も積んでいない反乱軍のメンバーがドラゴンに対抗できるとは思っていない。



「もう一度行くぞ! 巻物の準備をしろ!」



 俺たちは再び巻物で魔法を発動させる。

 すると、さすがにドラゴンは一瞬怯んでいた。


 その隙を逃すことなく、ジークフリードは近くに居たドラゴンに斬りかかる。


 なるほど、こういう戦いをすれば対処出来そうだな。


 ただ、あとは巻物の量が足りるかどうか……。

 いや、そこは気にしている場合じゃない。

 全て使い切ってでもドラゴンたちは倒さないといけない。


 そうじゃないと町の人たちが襲われ――。


 いや、ちょっと待て。

 どうしてドラゴンが襲ってきた?

 仲間のドラゴンが殺されたからだな。


 それじゃあ、その仲間のドラゴンを殺したのは誰だ?

 ――俺の父だな。つまり、恨みがあるのはその辺の国民ではなく貴族たちということだ。


 ドラゴンは知性のある魔物だ。

 人の言葉も理解していると聞く。


 それならば説得もできるのではないだろうか?

 それに今回討伐出来たとしても、また別のドラゴンが襲ってくれるかも知れない。

 そうなるとじり貧だ。


 戦わずにすむなら試しておく方が良さそうだ。



「おい、そこのドラゴン!!」



 俺は大きな声でドラゴンたちに話しかける。

 するとブライトが慌て出す。



「お、おい、何をしているんだ?」

「決まっているだろう? ドラゴンと対話しようとしているんだ」

「相手は魔物だぞ! 喋れるはずが――」

『なんだ、にんげん』

「っ!?」



 ブライトは驚き跳びはねそうになっていたが、俺は腕を組み当然のごとく話をする。



「どうして、ここを襲ってきたんだ?」

『決まっておろう。我が同胞はらからを殺した罪、償ってもらうためだ』

「ならば襲う相手が間違っているだろう!!」

『――どういうことだ?』



 ドラゴンはゆっくり地上に降りてきて、俺の方へ視線を向ける。



「お前の同胞を殺したのは確かに冒険者やここに来る国民かも知れない。しかし、それを指示したものが別に居る。そいつは今も安全な場所で悠々と暮らして居るぞ?」

『ほう……、それは一体誰だ?』

「この国の王や貴族たちだ!」

『……それは事実なのか?』

「あぁ、間違いない。もっといえば、今回のドラゴン討伐の指示をしたのはヴァンダイム公爵だ! ドラゴンの素材が欲しいから依頼したとも言っていた」

『グムムッ……、確かにそれが本当なら悪いのは全部そやつと言うことになるが――』

「その真実を確かめるためにも俺に手を貸さないか?」



 共闘出来るのならこれ以上の戦力はない。

 特に巻物をほぼ使い果たした今、ドラゴンの力は魅力的だった。



『――その話、嘘であったら真っ先にそなたを食らい殺すぞ?』

「あぁ、構わない。では、それでいいな」

『……仕方あるまい。我が宿敵を滅ぼすためなら力を貸してやろう』

「ならこの場は引いてくれるか? 俺たちもこれから国に戦いを挑む準備をしているところだ。また連絡させてもらう」

『ならばこれをやろう』



 ドラゴンが一つの笛を渡してくる。



『この笛の音を聞いたら我が一門、その音の元へ駆けつける。これが共闘の証だ』

「わかった、ありがたく受け取っておく」



 ドラゴンが笛を渡してくるとそのまま去って行った。



「ふぅ……、これでどうにかなったな……」

「お、おい……、本当にあのドラゴンたちが俺たちの仲間になったのか……?」



 ブライトが未だに信じられない様子で聞いてくる。



「聞いての通りだ。後は一気に準備を進めていくぞ!」



 一発国を殴ってやれば不正のない国へと変わってくれるだろう。

 ただ、国の前に問題は一つある。



 俺はジークフリードに近づいていく。



「ジークフリード、少し良いか?」

「……なんだろうか?」



 ジークフリードの表情は読めなかった。

 何を考えているのだろうか?



「今のギルドのあり方をどう思う?」

「またその話か――。私はやれることをするだけだ」

「そのギルドのあり方が国民達を苦しめていると分かってもか?」

「……っ!?」



 唇をギュッと噛みしめるジークフリード。

 めずらしく表情が出たな。

 よほど歯がゆく思っているようだ。



「し、しかし、私がその分頑張れば――」

「……少しでも国民の生活は良くなったか? なにも変わらないのではないか?」

「……くっ、お前に何が分かる――」

「分かるわけないな。俺はギルドに所属しているわけではないからな。だからこそ、ギルドの今を変えられるのはお前だけじゃないのか? お前が動かないで他の奴が動くとでも思っているのか? ギルドの不正がなくなると思ったのか?」

「……っ」



 ジークフリードが言葉を詰まらせる。

 しかし、それでもまだ最後の決心が付かないようだった。

 だからこそ、俺は更に後押しをする。



「お前が行動を起こすなら俺たちも手を貸すぞ? ただ、ある程度はお前に手を貸してくれるんじゃないか?」

「――いや、Sランク達が全員敵に回るだろう。他の冒険者が全員集まっても彼らには勝てまい」

「それだけの力の差があるのか――」

「あぁ、私なら一人二人相手にはできるが、そこ止まりだ。残り四人のSランク冒険者を倒せる戦力さえいれば――」

「俺たち反乱軍を併せてもか?」

「あぁ、それでも厳しいだろう」

「ならばドラゴンたちの協力を仰いだらどうなる?」

「……それなら確かに可能性はあるだろう。ただドラゴンたちを使うとなると被害も大きくなるんじゃないか?」

「それは仕方ないだろう。いつかやらないとずっと被害は出たままだ」

「――少し考えさせてくれ。それにやるにしても冒険者達の説得が必要になる」

「あぁ、任せる。連絡はいつものやり方でいいよな?」

「それで構わない。また連絡する」



 それだけ言うとジークフリードは去って行った。



「さて、俺たちも――」



 戻ろうかと思ったのだが、ブライトやルリカがドラゴンによって壊された建物とかを直すのを手伝っていた。確かにそれも必要なことか……。



 俺も苦笑しながらブライト達の手伝いを始めていた。




◇◇◇




【クロウリッシュの父】



 国内の反乱について、国王様も心を痛めておった。

 やはり早く鎮圧しないといけないだろう。


 ただ、反乱軍を率いている人間の情報……。

 仮面の男……ということだが、奴の正体はどう考えても――。


 しかし、反乱軍の目的は当然ながらこの国を潰して革命を起こすことだろう。

 革命が成功すると当然ながら国王様と貴族は殺される。


 連中の目的がそれだもんな。

 ただ、反乱軍を率いている人間が貴族と知られたらどうだろうか?


 内部から瓦解していくのではないだろうか?

 ……もしかしてあやつもそれを楽しむためにわざわざ反乱軍なんてものを作ったのか?


 王国に灘なすものを一カ所に集めて、一気に叩き潰す。

 しかも、絶対勝てる状況を作った上で、裏切ってみせる。


 ふふふっ、あやつが考えそうなことじゃな。

 それなら私のすることはギリギリまで何もせずに、国が落ちそうになったタイミングであやつの正体を知らせるだけだな。


 くくくっ、今からその反応が楽しみだ……。

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