対談

 難民たちを一旦魔女の森へと案内した。

 そして、再び俺はドラゴンについての詳細を集めることとなった。


 何か国の思惑が動いているから仕方ないだろう。

 それを探らないことにはいつどんなことをしでかしてくるかわからない。



 それと、ようやくジークフリードと会う算段がついた。

 Sランク冒険者というだけあり、少し時間がかかってしまったが、これで計画もひと段階前に進める。



 意気揚々とジークフリードと会う予定になっている料理屋へと向かっていく。







「待たせたな」

「いえ、私も先ほど着いたところになりますので――」



 画面を外して初めて会うジークフリード。

 しかし、俺の正体は気付いていないようだ。



「いきなり呼び出してしまってすまないな。お前も忙しかったんだろう?」

「大丈夫ですよ。それよりも私にしかできない依頼とは一体?」

「それは――」



 俺が口出ししようとするとジークフリードが手でそれを止めてくる。



「その前に私の方からも一つだけ質問をさせてもらっても良いですか?」

「――なんだ?」

「今日は仮面をつけられていないのですね?」



 それを聞いた瞬間に俺は心臓の鼓動が止まりそうになるほど、驚いてしまった。

 しかし、ジークフリードがカマをかけてきているだけかも知れない。

 俺はなにも知らない風を装って、何食わぬ顔で答える。



「何のことだ? 仮面なんて付けたこともないが?」

「なるほどな。私の勘違いだったようだ」



 あっさり引き下がってくるジークフリード。

 その様子から完全にバレていると感じた。

 だからこそ、俺は彼に一つ尋ねてみる。



「それよりもお前はSランク冒険者だろう? 今の国……、いや、ギルドを見てどう感じる?」

「どう……とは?」



 さすがに抽象的すぎたか。

 もっと詳しく聞かないといけないだろうな。



「ギルド内ですら不正が横行している今の現状にSランク冒険者のあなたがどう感じているのかを聞いてみたかったのですよ」



 すると今度はジークフリードの方がジッと俺の目を見て、返答を考えているようだった。



「私は私のできることをしているに過ぎません。その上で困っている人を助けているだけです」



 困ってる人を助ける……。

 ジークフリードらしい回答だ。



「なるほどな……。困っている人を助ける……か。つまり俺たち貴族の敵となる……ということか?」

「滅相もありません。あなたの敵になるようなことはありませんよ」

「どうだかな……」



 俺が『貴族』と言ったのに対して、あえて『あなた』で返してきたジークフリード。

 やはり俺の正体も既にばれているようだな。

 だからこそ、俺はジークフリードにとある依頼を出すことにした。



「余計な話はここまでにしておくか。依頼させてもらおうと思っていたのは、最近町を滅ぼしたドラゴンの件だ」

「あのドラゴンは既に狩られていて、討伐はできませんよ?」

「そうらしいな。ただ、依頼は討伐ではない」

「ほう……、どういうことですか?」

「依頼はドラゴンに最初にけしかけた相手を調べて欲しい……ということだ」

「――どういうことですか?」

「その詳細を言わないと依頼は受け付けないのか?」

「いや、そんなことはないですね。何か事情があるのでしょうし、わかりました。お引き受けします」



 無事にジークフリードが引き受けてくれる。

 それなりに金はかかるが必要なことなのでそこは割り切るしかないだろう。



「あと、もう一つ。この依頼はギルドにも内密に頼む」

「――なるほど……。畏まりました。そちらの方も併せてお受けいたしますね」



 そう言うとジークフリードは席を立ち上がる。





 それからすぐにジークフリードからドラゴンをけしかけた相手の情報を仕入れることができた。

 相手は俺の父。

 しかも何故ドラゴン討伐を依頼したのかというと、単にドラゴンの肉を食いたかったから……という滅ぼされた町の人を馬鹿にしているかのような内容だった。


 さすがにこれを他の人に言うわけにはいかなかったが、それと同時にジークフリードからとんでもない情報が流れてくる。



『突然仲間を殺されたドラゴンたちが集団で襲いかかってきたらしい。さすがにこれを放置出来ない。すまないが、依頼はここで終了にしていただきたい』



 ドラゴンか……。

 さすがに集団で襲ってきたらこの国自体が危ういよな。



 ただ、ジークフリードが倒しに行ってくれるならこれ以上安心出来ることはない。

 でも、彼だけでも倒せるかどうか分からない。


 念のためにサポート出来るように動いていくか。



 俺自身はブライト達と合流して、ジークフリードから仕入れた情報を共有する。



「なにっ!? ドラゴンの集団が襲いかかってきただと!?」

「声が大きいぞ! さすがにこれを見過ごすことはできないよな?」

「もちろんだ! すぐに行くぞ!」

「……ブライトさんは血気盛んすぎます。このまま行ってどうなるのですか?」



 ルリカがブライトを窘める。



「――どういうことだ?」

「あのな……、どうやってドラゴンに攻撃するつもりなんだ?」

「それはこの大斧で――っ!?」



 ようやく気づいたようだった。

 ドラゴンは空を飛んでいて、そこから火炎を吐いてくる。

 いくら良い武器をもっていたとしてもそれがあたらなければ太刀打ちができない。


 前もってそれ相応の準備をしておかないと――。



「一応対処方法は考えてある。ただ、人数が必要だ」

「わかった。反乱軍に話を通しておこう。あとは……」

「以前助けた奴らとルリカの隠れ家の人たちにも話してみようか」

「わかりました。ではお父様とかには私が話を通しておきます」

「それと今回はSランク冒険者、ジークフリードと共闘することになる。冒険者憎しで襲いかかるなよ」

「わ、分かっている。相手は人外だからな。下手をするとこっちが全滅させられてしまう」

「では、準備ができ次第行くぞ!」




◇◇◇




 ドラゴンたちが襲いかかってきたのは以前、滅ぼされた町の北。

 王都内でも一、二を争うほどの大都市だった。

 しかし、町の中は既に阿鼻叫喚の状況だった。



「きゃー!!」

「ど、ドラゴンがどうして……」

「冒険者だ! 冒険者を呼ぶんだ!!」



 必死に逃げ惑う町人達。

 しかし、ドラゴンはそれを待つことなく、火炎を吐きまくっていた。



「はぁっ!!」



 襲ってきたドラゴンの一匹に対して、思いっきり剣を振り下ろすジークフリード。

 どう考えても届かないその攻撃で、ドラゴンが真っ二つに切られていた。



「な、何があったんだ!?」

「あれが人外の由来だ。なんでも剣戟を飛ばせるようになったとか訳の分からないことを言ってるんだ」

「とにかくそれなら飛ぶ相手を攻撃することができるな。それなら俺たちは攪乱をメインに一気に使っていくと良いぞ」

「――本当に良いのか? これだけの巻物を使わせてもらって……」

「もちろんだ。ここで金をケチる理由はない。一斉に攻撃をしろ!」

「わかった。行くぞ!!」



 ブライトが指示を出すと一斉に反乱軍の連中が巻物を使い、魔法を飛ばしていた。

 それに合わせるようにルリカの両親達も一斉に魔法を放っていた。


 とんでもない数の魔法。

 それがドラゴンの集団へと飛んでいく。



「……やったか?」



 爆発魔法による煙がだんだんと晴れてくる。

 するとそこには平然としているドラゴンの姿があった。



 ちょっと待て……。

 数による魔法攻撃が効かないなら俺たちの行動はむだだったんじゃないのか?

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