ドラゴン
【ブライト】
「なるほどな。アインからそのドラゴンの調査をしてくれ……と言ってきたわけだな」
「はい。どうやらその件について国が関わっているかも知れないらしくて――」
「町が壊滅させられたのならその可能性はあるだろうな。確かにドラゴンは恐ろしい相手だが、しっかりとした知性を持っていて、そうそう襲ってくることはないんだ」
「つまり、国が理由があってドラゴンを怒らせた……と?」
「故意的に襲わせたのか、それとも偶然なのか……。その辺りも併せて調べて欲しいんだろうな。ルリカも一緒に来るのか?」
「はい。アイン様からブライトさんと行動を共にするように仰せつかっています」
「――それでアインはどうするんだ? また前みたいに現地で合流か?」
「いえ、今回は私たちだけみたいです。アイン様はまだ動かないといけないことがあるみたいで……」
「そうか……。一体何をしてるんだろうな――」
「私にはさすがに分からないです――」
「あぁ、そうだろうな。俺も正直分からない。でも、これが俺たちのためになるんだろう? ならやるしかないな」
「はい……。頑張りましょう……」
ルリカとブライトはお互い目を合わせながら頷いていた。
◇
魔女の森からかなりの日数をかけて、ドラゴンが現れたという町へとやってきた。
いや、町だったもの……というのが正しいかも知れない。
「ひどい……」
ルリカが口に手を当てて悲しそうな表情をみせる。
町は全壊しており、一部建物の跡がここにまちのあった証拠になっていた。
当然ながら生き残っているものは一人も居ない。
ブライト自身も今まで酷い状態の町は見たことがある。
しかし、ここは飛び抜けて酷い。
思わず目を覆いたくなる。
しかし、ギュッと唇を噛みしめてアインから頼まれた仕事を始める。
視界内にはドラゴンはいない。
町を壊し終えてから飛び去ったのか?
そして、国の兵と思われる人物がところどことに倒れている。
兵士が国民を助けるとも思えないので、こんなところにいるのは何かの理由があるのだろう。もちろんそれを聞くことはできないが。
「ブライトさん、こっちにまだ息のある人が――」
「よし、よくやった。治療を任せても良いか?」
「はい、畏まりました」
ルリカが息のある人に回復魔法を使っている間に建物を調べる。
たまたま燃え残っただけのようで、真っ黒になっている。
かなり高火力の炎が使われたようだ。
ドラゴンなら火炎を口から吐いてくるので、何もおかしくはなさそうだ。
「ブライトさん、先ほどの方が目を覚まされました」
「あぁ、すぐに行く!」
ルリカの言葉を聞いたブライトは調べていた建物から目を離し、倒れていた人へと近づいていく。
「助けていただいて本当にありがとうございます。お礼を言ってもいい足りないくらいです――」
「いや、気にするな。礼ならルリカに言ってやってくれ」
「わ、私は当然のことをしただけですよ……」
ルリカが慌てふためいていた。
しかし、それを気にせずに聞きたいことを聞く。
「それよりも一体何があったんだ?」
「それが私たちも何が何だか……。突然ドラゴンが襲いかかってきて、気がついたらこんな状況になっていました」
顔を伏せる男。
まぁ、仕方ないか……。
こんな状況なのだから――。
「そのドラゴンが襲ってくる前は何か変わったことがなかったか? 周りの魔物達が突然逃げ出したり……とか、国の兵が怪しげな動きをしていた……とか」
「そうですね……。兵士の方はこの町に何か探しに来られたみたいなんですよね。でも、突然ドラゴンが襲ってきましたので、懸命に戦ってくれていました」
兵士が!?
いや、やつらが国民を助けるはずがない。
つまり、そう考えると兵士達の目的はドラゴンの討伐にあったのか?
ドラゴンの素材は人気で高額で売ったり出来る。
しかも貴族連中はそれをステータスに持っていると聞く。
なるほど……。そのためにドラゴン討伐を依頼して、結果的にドラゴンを怒らせて、この町が燃えてしまったんだな。
◇◇◇
ようやく父が帰っていった。
最初の一回以外は特に呼ばれるようなこともなかったので、無理にこの館に残る必要もなかったかなと思えてくる。
しかし、不穏に思われないことも大切だ。
父には特に不信感を抱かれなかっただろう。
これだけでも十分な成果だ。
「さて、そうなると今の問題点であるドラゴンのことを調べないとな。ルリカとブライトがどこまで調べてくれているか……」
調査を頼んでから早一月。
まだ帰ってこないところを見るとこの館からの距離はかなりあるらしい。
王都を挟んでちょうど反対に位置している町だもんな。
俺自身が動こうにも中々厳しいものがある。
しかし、父がいなければどうにでもなる。
今回は俺の影武者になってくれる人物を用意した。
見た目がなるべく近い人物……。
そいつにクロウリッシュを名乗らせている間に俺はアインとして活動する。
二箇所に人は存在できないので、自然と国からの調査対象に俺は外れてくれるわけだ。
影武者を用意できた以上、これからは積極的に動いた方が俺の安全が確保できる。
あとは、革命が成功しそうならアインとして。
失敗しそうならクロウリッシュとして生きていけばいいだろう。
一番ダメなのは俺の正体がバレてしまうことだ。
影武者には十分な金を積んだが、それでも裏切られる可能性を考慮して、俺が何をしているかの委細は教えていない。
もし、裏切られても、外で遊ぶために影武者を用意した……といえば簡単に信じてくれるだろう。
「さて、それじゃあ俺の方もドラゴンが出たという街は向かおう」
馬車を用意して、なるべく急いでもらった結果、普段よりだいぶ早く街へと辿り着いた。
しかし、またはかなり悲惨な状況だった。
「くろう……、いえ、アイン様。ここまでこられたのですね?」
「あぁ、用も済んだのでな。それよりもドラゴンについて何かわかったか?」
「はい、どうやらここに兵士の方も来られていたようです」
「ほう――」
また余計なことをしたのか。
思わずため息が出てしまう。
「つまり、兵士が余計なことをした結果、ドラゴンが襲ってきた……と。おそらく国の名だろうな」
「はい、仰るとおりです」
「それで助かった人間はこれだけか? どこかに逃れた……ということは?」
「本当にこれだけ見たいです」
ルリカの後ろにいたこの町の人たちは両手で数えるほどしか残っていなかった。
「そうか……。もっと早く気づいていれば助けに加われたんだがな」
「あなたたちは我々を助けてくれた。お礼を言いこそすれ、文句なんて言いようがないです」
怪我をした男が頭を下げながら行ってくる。
「そう言っていただけるとありがたいな」
あと一息か……。
「それでお前たちはこれからどう生活していくんだ?」
「どうしましょうか……? 今は何も考えられないです……」
まぁ、突然何もかも奪われたわけだもんな。
「それなら俺たちと共に来るか? 危険はあるが――」
「えっと、良いのですか?」
「あぁ、もちろんだ。ただ、やることは大変だぞ」
「なんていったって、国と戦っているのだからな。失敗したら死だ」
ブライトが俺たちの話に加わってくる。
すると流石に死という言葉に怯えてしまったようだ。
「直接の戦闘を任せることはほとんどないぞ。そこはこのブライトに任せておけ。どちらかといえば援護とか、裏方のサポートとかも必要になるからな」
「はい、それでしたら……。どうぞよろしくお願いします」
男が頭を下げてくる。
さて、俺が動かせる人間が増えてくれそうなのは良いことだな。
今後の活動の幅が広がってくれる。
とにかく、ここで住むことはできない以上、別の居住区を準備する必要はあるだろう。
……以前助けた村に連れていってあげるのが一番良いのだろうな。
「とりあえずここはいつ魔物が襲ってくるかもしれない。一旦避難しようと思うが構わないか?」
「はい、よろしくお願いします」
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