父の帰還

 反乱軍のやつらに補佐官から取り戻した金を渡す。

 すると彼らは口をぽっかり開けて驚いていた。



「こ、この金はお前が準備したものか?」

「まさか。補佐官に税が多いことを話したら快く返してくれたぞ」

「……そんなことあるはずないだろ」



 反乱軍の男が思わず突っ込んでしまう。



「いや、補佐官にもらったものだぞ? こんな大金、俺が出す理由があると思うのか?」

「それは……そうだな。さすがにこれだけの大金を一度に出せるはずがないか……」

「そういうことだ。あと、税も少しだが安くなるはずだ」

「お、お前は一体……!?」



 男は驚きのあまり、聞いてくる。



「俺はアイン。この国を救うものだ!」



 言っていて恥ずかしくなるがここはグッとこらえる。

 すると、男は思わず息を飲んでいた。



「き、救世主様……だったのか――」

「どうだ、これで俺の力を信じてくれたか?」

「い、いや……、まだ魔物の方が……」

「アイン、しっかりと魔物を討伐してやったぞ!」



 ブライトがタイミング良く倒した魔物を持ってきてくれる。

 それを見て、俺はにやり微笑んでいた。



「どうだ? これでも何か言いたいことは?」

「い、いや、何もない……」

「では、俺がここに来た理由を教えてやろう」

「そ、そういえばあなたほどのお方がどうしてこんなところに?」

「それはお前たちに忠告に来てやったんだ」

「忠告……といいますと?」

「あぁ、お前たちは国に仇なす反乱軍として知られているみたいじゃないか」

「……反乱を辞めろといいたいのですか?」



 男達の視線が鋭いものへと変わる。

 さすがに今の内容だと許容出来る範囲を超えているのだろう。

 しかし、俺も引き下がるわけにはいかない。



「いや、辞めろとは言わない。ただ、お前たちだけが動いてどうなる!」

「しかし、このままだと俺たちは飢えて死んでしまう!」

「だからこそだ! 今は一致団結して動くときではないのか?」

「っ!?」



 男達は息を飲んで俺の方に視線を向けてくる。



「し、しかし、反乱なんて誰も加わりたくない――」

「いや、国民はみな困っている。だからこそ、今は一つの旗に集まるべきじゃないか?」

「しかし、誰が長を……」

「私がなろう! 私なら諸君も信じられるだろう?」



 手を差し出す。

 すると少し考えた上で男達は一様に俺の手をつかみに来る。



「よし、諸君の意思はわかった。これからは共に頑張ろうではないか」

「あ、あぁ……。それで俺たちは何をしたらいい?」

「当面は近くの村にいる人たちを誘ってくれ。くれぐれも貴族の連中と争うなよ。あと、先ほどの金で貧しいものに食い物でも買ってやるといい」

「わ、わかった」



 さて、これで領地近くは安全になったかな。

 すぐに反乱も起きなくなったわけだし、しばしの休暇が取れそうだな。



「よろしく頼む。私の方はまた当面単独で動かしてもらう。委細はブライト、お前に任せるぞ! うまく導いてやってくれ」

「お、俺!? わ、わかった、何とか頑張ってみよう」

「まぁ、やることは集まってきた民を鍛えて欲しいってことくらいだからな。無理はしなくて良い」

「あぁ、そんなことでいいのか。わかった、任せておいてくれ」

「さて、ルリカは俺と一緒に来てくれ」

「は、はいっ」



 ルリカを連れて俺は館へと戻っていく。







「んっ、なんだか騒々しいな?」



 館へと戻ってくると、館の中は少し騒がしかった。



「本当ですね……。何かあったのでしょうか?」

「あっ、クロウリッシュ様。おかえりなさいませ」



 俺に気づいた使用人の一人が頭を下げてくる。

 せっかくなので今の騒ぎについて尋ねてみることにする。



「あぁ、ただいま。何かあったのか?」

「えぇ、もうじきご主人様がお戻りになるようで、少しでも館を綺麗にしておこうと思いまして……」

「そういうことか……」



 思い返してみれば、確かにほとんど帰っては来ないが、たまに帰ってきたときはいつも騒がしかった気がする。

 ……ルリカは隠して置いた方が良さそうだな。

 それに親が帰るまで家を出ることができなくなるだろう。



「ルリカ、当面は部屋から出るなよ!」

「は、はい、わかりました」






 父が帰ってくると知ってから数日後、家の前に豪華な馬車が止まっていた。

 そして、そこから降りてきたのは荘厳そうな顔つきの男だった。


 俺の父親……ということだな。


 部屋から窓の外を眺めているとしっかりと目が合ってしまい、思わず顔を引っ込めてしまう。


 な、なんだろうか……。あの、全て見透かされているような目は――。

 さ、さすがに俺がアインとして動いている事実までは気づかれていないはずだ……。



 未だに冷や汗が流れ、呼吸が少し荒くなる。

 するとそんな俺を心配したルリカが声をかけてくれる。



「クロウリッシュ様、大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ない。心配してくれてありがとう」



 ルリカと話すと自然と心が落ち着いてきた。


 今のところ俺はミスをしていないはず。

 何もバレる要素はないのだ。

 俺が不自然な態度さえ取らなければ――。



 そんなことを考えていると使用人が俺のことを呼びにくる。



「クロウリッシュ様、旦那様がお呼びです」

「……わかった、すぐに行く」



 俺は部屋を出て、父親の部屋へと向かって行った。





「お父様、お呼びでしょうか?」

「来たか、クロウリッシュ。まぁ、入れ」



 父に促されるまま俺は部屋へと入った。



「最近、お前の活躍を色々と聞かせてもらったぞ」



 父のその言葉を聞いて俺はドキッとしてしまう。

 しかし、表情には出さないようにして聞き返す。



「一体何のことでしょうか?」

「この町であった暴動のことだ。お前が指揮して鎮圧してくれたのだろう?」



 あぁ、そういう話になっているのか……。

 俺は見ていただけなんだけどな。



「いえ、反乱を抑え、平穏な暮らしを作ることこそが公爵子息である私の仕事になります故に」

「うむ、さすが私の息子だ。ただ、それとは別に近くの補佐官より苦言も聞いておるぞ。遠方まで遊んで回っておると。出かけるなとは言わんが節度を守るように」

「はい、、わかりました。気をつけさせていただきます」



 軽く一礼をした後に部屋を出て行こうとする。

 しかし、父がまだ話しをしてくる。



「あと、最近この辺りに不穏な動きがあるらしい。反乱の目かもしれん。お前は何か知らないか? 仮面のかぶった男……という目撃談があるくらい何だが――」



 再び俺の鼓動が早くなる。

 ただ、それと同時にまだその程度の情報しか仕入れていないことに安心感も抱いていた。



 でも、完全に気づかれてしまう前に行動をしていかないといけないか。



「いえ、私は何も見ておりません。そんな白銀の仮面をかぶった男なんて――」

「――あいわかった。下がって良いぞ」

「はい、失礼します」



 なんとかやり過ごせたかな。

 俺は軽く頭を下げた後、部屋を出て行った。







「おかえりなさい、クロウリッシュ様。いかがでしたか?」

「あぁ、まだ気づかれてはいないようだが、少し危険だな。警戒はしておいた方が良いかもしれん」

「……大丈夫でしょうか?」

「そうだな……。このままだとちょっと危ういな。俺は気取られないようにしばらくこの館から動かない。予定通り、ルリカに動いてもらうことになるぞ」

「わかりました。どのように動かせてもらったらよろしいでしょうか?」

「今はまだ周囲の警戒くらいだな。ただ、今後の状況次第では直接現地に――」

「く、クロウリッシュ様。少しよろしいでしょうか?」



 使用人が慌てて言ってくる。



「なんだ?」

「すぐにお耳に入れておいた方が良いかと思いまして……」



 使用人は大きく息を吸って、呼吸を整えていた。


 一体どんな大変なことがあったんだ?



「実は……、この国の東にあるユーテンライム領が壊滅したそうです」

「か、壊滅!? 一体どうして――」

「ドラゴンが襲ってきたみたいなのですが、詳細はその……」



 ドラゴン!? いや、魔物がいる世界なんだ。ドラゴンがいてもおかしいことではないか……。



「平民の方がけしかけたとの情報もあります。クロウリッシュ様も重々お気をつけください」



 平民がドラゴンなんてけしかけられるのだろうか?

 むしろ貴族がけしかけた……といわれた方がまだ頷けるな。



 それだけ伝えると使用人は部屋の外へと出て行った。

 後に残された俺たち。



「聞いたな、ルリカ」

「はい」

「その領地とドラゴンについて調べるようにブライトに伝えておいてくれ」

「かしこまりました。ではすぐに行ってきますね」

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