反乱軍

「く、クロウリッシュ様!? そちらのお方は?」



 館に戻ってきたら、使用人たちに驚かれてしまう。

 まぁ、突然少女を連れてきたら当然だろう。



「この子があの有名な魔女……と言うやつだ」

「く、クロウリッシュ様!? そんな危険な相手をどうして!?」

「どうしてって珍しいだろう?」



 これを押し倒すしか館にルリカを住まわせる方法はないかな、と思いにやら微笑んで見せる。



「なるほど……。そう言う事情でしたらかしこまりました。部屋は用意したほうがよろしいでしょうか?」

「あぁ、頼む」

「あ、あの、クロウリッシュ様? 私はその……、別に部屋がなくても――」

「そうなると俺の部屋に一緒に寝ることになるが?」

「そ、その、別の部屋ならありがたいです……」



 ルリカがシュンと落ち込んだ様子を見せる。

 いや、頬を染めているところを見ると恥ずかしがっているのだろう。



「それよりも今の国の状態を知りたいのだが――」

「国の……? どういうことでしょうか?」



 さすがに直接『国が国民から不満を持たれていると聞いたが――』とは聞けないか……。



「政策の評判とかそういったものだな。今後の参考になるかと思ってな」

「そういうことでございますね。ただ、あまり評判は芳しくありませんね。やっぱり国を襲っている大不況が原因でしょうか――?」

「大不況……? そんな風には見えないが――」

「それはクロウリッシュ様が公爵子息であらせられるからですね。実際は毎日食べていくのすら怪しい状況らしいです」

「――やっぱりそうか。それならいろんなところで反乱とかが起こってるんじゃないのか?」

「……やっぱりわかりますか。実はそうなんですよ。ご主人様が王都へ行かれているのもそれに対処するからでして――」



 なるほどな……。

 やはり国を襲う勢力はあるのか。



「この近くにもいるのか?」

「そうですね……。この近くでしたらクロウリッシュ様が連れられている魔女の集団が一つ、あと先日暴動を起こした集団が一つですね。少し離れた村々にも小粒の勢力がいるとは聞いております」

「そうか……。それは早めに対処しておく必要があるな」

「クロウリッシュ様が直接当たられるのですか? さすがに危険では?」

「このまま放置しておくわけにもいかんだろう?」



 仲間に引き入れることが出来れば大幅な戦力アップが見込めるもんな。

 国に潰されるまでに動いておかないと。



「かしこまりました。では、兵や冒険者を雇えるだけ準備を――」

「いや、それもいらん。必要な兵くらい自分で集める。雑兵を集めて下手に内から崩されても困るからな」

「かしこまりました……」

「あっ、でも、一人だけ連絡を取って欲しい相手がいる」

「その方とは?」

「Sランク冒険者、ジークフリードだ――」



 それを告げたあとに俺はにやりと微笑んでいた。







 さすがにSランク冒険者と連絡を取り合うのは時間がかかるようだ。

 その間に村にいる反乱軍と接触をしておこう。



「あの、クロウリッシュ様? ブライトさんには連絡を取らなくて良いのですか?」

「あぁ、それも必要になるな。ルリカ、頼んでも良いか?」

「わかりました。すぐに連絡してきますね」

「俺の方も今晩から行動を起こす。あとから付いてきてくれ」

「はい、そのようにお伝えさせていただきますね」



 ルリカは一礼したあとに館を出て行く。

 俺も早速今夜から出られるように準備を始めて行った。





 近くの村へとたどり着く。

 その凄惨さは思わず顔を背けてしまうほどだった。


 作物も何も植わっていない畑。

 村の道にはガリガリに痩せこけた人たちが座り込んでいる。

 そして、俺の姿を見た瞬間にすがるように近づいてくる。



「な、何か食べ物を恵んでくれませんか?」



 さすがにそのまま放っておく訳にはいかないか……。

 そこまで食料は持ってきたわけではないが――。

 俺は手荷物から食料を取り出すとそれを座り込んでいた人に渡す。



「これだけしか渡せないが大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます。このお礼は必ず――」



 それだけ言うと必死になって渡した食料を食べ始める。

 その様子を微笑みながら眺める。



「そうだな、それなら教えて欲しいことがあるのだが――」

「なんなりと聞いてください。私にわかることでしたら――」

「それならこの村にいるという反乱軍について――」

「知らん!」



 さっきまでの雰囲気とは打って変わり、きっぱりと言い切ってくる。

 そのあまりの否定感から逆にこの村に反乱軍がいることをはっきり知ることが出来た。



「なるほどな……。ありがとう。この村にいることがわかった。早速探してみる」

「ど、どうして――」

「むしろ今の反応でどうしてわからないと思ったんだ?」

「――くっ、かくなる上は恩人だが、秘密を隠すために……」



 懐に手を入れてくる。



「まだまともに体調も戻っていないんだろう? そんな状態で俺に勝てると思うな。それに反乱軍をどうこうするつもりはない。ただ話がしたいだけだ」

「話? どういうことだ?」

「簡単なことだ。共に志を同じくするもの同士、挨拶をするのはおかしいことではあるまい」

「ま、まさか貴方様もこの国を憂いて……」

「あぁ、だから反乱軍がいる場所へ案内してくれ」

「か、かしこまりました。では付いてきてください」



 男に案内されて、俺は小さな小屋へと案内された。





 男に案内された小屋へと入る。

 するとそこには武器を持った数人の男たちがいた。

 彼らは俺が入った途端に睨みをきかせてくる。



「誰だ、お前は?」

「あぁ、突然の来訪、済まなかった。俺はアイン。この国を救う者だ」

「アイン? 聞いたことないな。お前たちはどうだ?」

「いや、聞いたことがない」



 ヒソヒソとはなしあう。

 しかし、俺の存在は知らないようだ。そもそも知られないように行動しているのだ。

 知っているほうが驚く。



「そうだな。むしろ隠れて行動していて知られている訳がないな。それよりやった活動を教えたほうが早いだろう」

「――いいだろう。聞かせてみろ」

「魔女の森で起こったことは知ってるよな? その程度の情報も入ってないとは言わないよな?」

「あぁ、冒険者が魔女を殺そうと襲い掛かったが、何者かによって防がれた、と……ま、まさか!?」



 ようやく気づいたようだな。

 俺はニヤリと微笑んで見せる。



「そうだ、あれは俺が止めた」

「いや、証拠が何もないだろ?」

「むしろ、俺が動いて証拠を残すとでも?」



 男たちがじっくりと俺のことを見てくる。

 しかし、俺は動じることなく腕を組んだまま留まる。



「……わかった。まずはその仮面をとってくれないか?」

「――それはできない」



 流石に反乱軍ともなると俺の顔を見て、公爵子息と判断することができるだろう。


 流石に顔を見せることはできない。



「なに? それだと流石に信用できないな」

「……わかった。見せよう」

「あぁ、顔を見せてくれ」

「いや、見せるのは顔ではなく俺自身の力を見せてやる。こんなところで燻っている原因を取り除いてやろう」

「……そんな簡単にできるものか」

「だからこそ、力の証明になるだろう?」

「――わかった。委細を伝えよう」



 そこで男から教えてもらったのは、この村が飢餓に陥った原因だった。


 それは信じられないくらい不作だった畑の他にも畑を襲う凶暴な魔物の存在と高すぎる税金があった。


 魔物は倒してしまえばいい。

 税金の不正は俺が直々にここの税を取り締まる補佐官に会いに行けばいい。

 おそらくひどい中抜きがあるはずだ。


 不毛な畑は今はどうすることもできないな。

 一時的に食料を与え、次の作物ができるまで耐えてもらうしかできない。



「なるほど、それを解決したらいいんだな」

「……っ!? そんなに簡単にできるわけが――」

「俺ならできる! 数日後にまた来る」



 それだけいうと俺は小屋を出ていった。







「よう、アイン。待たせちまったな」



 村の入り口に戻ってくるとブライトたちがちょうどやってきたタイミングだった。



「いや、気にするな。それよりもまたお前には働いてもらいたい」

「まかせろ! 何をしたらいい?」

「また畑に現れた魔物討伐だ。なかなか強力な相手らしい」

「お、おう、任せろ! アインはどうするんだ?」

「俺はもう一つの問題をどうにかしてくる」

「もう一つ?」

「あぁ、そっちは俺しか出来ないことだからな」

「……?」



 ブライトは首を傾げていたが、俺はそれ以上は言わなかった。







 早速俺は補佐官の館へと向かった。



「どちら様ですか?」

「ヴァンダイム公爵子息が来たといえば分かってもらえるはずだ」

「か、かしこまりました。こちらでお待ち下さい」



 速攻で応接間へと案内される。

 やはり公爵の名は大きいな……。

 改めて自分の立場について思い知らされる。



「お待たせいたしました。私はこちらの補佐官を仰せつかっております……」

「前置きはいい。俺が想定してるより多くの税を国民から取っているようだな?」

「はて、なんのことにございましょうか?」



 首を傾げる補佐官。

 しかし、そこで俺はさらに畳み掛ける。



「もう調べはついている。こんなに増やしてどうする! 国に調べられると俺が咎められるんだぞ!」



 実際はそんなことないだろうけど、ここは毅然とした態度で言うと、補佐官は少し表情を歪めていた。



「しかし、我々も必要なだけの税を取っておりますゆえに……」



 手をコネコネと動かしながら俺に対して小袋を渡してくる。



 ……賄賂か。

 つまり、税をあげていることは認めるようだな。



 まぁ、せっかくくれると言うのだからこれは返してもらっておこう。



 その小袋を受け取ると俺は補佐官に告げる。



「まぁ、勘違いということはあるだろう。あまりに高すぎる税だと咎められかねないと思っただけだからな。もう少し下げてくれたらそれで構わないんだ」

「ははーっ、かしこまりました。おっしゃる通りにさせていただきます」

「ではこれで俺は失礼させていただく」



 館を後にする。

 所詮口約束でどこまで下げてくれるのかはわからないが、でもその代わりに一部の金は取り戻すことができた。



 これで上出来だろう。



 あとはこの金を村の人に返して……。

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