魔女狩り
【???】
「はぁ……、はぁ……。こ、ここまで逃げれば――」
ヘクセルの森にある隠れ里が突然襲われ、そこから逃げ出した少女は必死に森の中を駆け回っていた。
襲われた理由はわからない。
多分、冒険者……という集団だとは思う。
軽装をしていて、剣や弓でいきなり襲ってきた。
お父さんもお母さんも私を庇って……。
少女の目に涙が浮かぶ。
しかし、それを拭い取ると再度逃げていく。
どこに逃げたら良いのか、はわからない。
でも、助けてくれたお父さんやお母さんのためにも足を止めるわけにはいかなかった。
はやく助けを呼びに行かないと……。
そうじゃないとみんな殺されてしまう……。
鬼の形相をした冒険者達の姿を思い出して、少女は身震いをする。
ただ、隠れ里にもそれなりの力を持った人はいた。
でも、そんな人たちも手に負えなかった……。
そんな人たちに勝てる人なんているのだろうか――。
――――――――――
「ここがヘクセルの森……か」
地図では見たが、目の前にすると想像以上の不気味さを感じる。
少し曲がっている木々が生い茂り、まるで来るものを拒んでいるように見える。
更にその木々が日光を遮っているので、どこか薄暗い。
「隠れるにはちょうどいいだろう?」
「確かにな。ただ、魔女なんて奴が出るらしい。油断はするなよ?」
「……それが、そんな奴は一度も見ていないんだけどな――」
ブライトは頭を掻きながら不思議そうにする。
「噂だとすぐに襲ってくるそうだ」
「――なるほどな。俺の力の見せ所だな」
力こぶを作り出すブライト。
その様子を呆れ顔で眺める。
「――いきなり襲うなよ。あくまでも噂は噂だ。動くのは自分の目で見てからだ!」
それに、この噂もあまり信じられるものではないからな。
「わかった。その辺りはアインに任せるぞ。俺は力を担当させてもらう」
「はぁ……、わかった。とにかくお前が隠れ家にしているのはどこだ? そこに向かおう」
「ここだぞ?」
ブライトは何もない、森の入り口を指さす。
……まさか、何もないここで野宿している、とは言わないよな?
不安を感じながら確認をする。
「ここ……というと、近くに建物があるのか?」
「まさか、建物なんてなくても寝泊まりくらいできるだろう?」
やはりそうだったか……。
俺は仮面に手を当てて、わかりやすく『呆れた』仕草をする。
「……まさか外で話し合いをするのか? 聞かれたらダメな話もするんだぞ?」
特にギルドにとっては俺たちは仕事を奪っていることになりかねない。
ブライト一人の時はさほど影響がなかったようだが、人数がふえていくにつれてそうもいっていられなくなるだろう。
ギルドに関しては妨害をしてくるとみて間違いない。
利己的なやつらだもんな……。
「……それもそうだな。でも、どうする? 一から建てるには時間がかかるが――」
「そうだな。もっと人数が増えてきたときに考えるか」
二人で話している分には警戒していれば良いだけだもんな。
「とにかく当面はブライトには情報収集を頼みたい。特にこの森についてだな」
「あぁ、任せておけ。徹底的に調べてやる」
ブライトが頼もしい声を返してくれる。
「それよりアインの方はどうするんだ? 俺と一緒にくるのか?」
「いや、俺の方は別の要件がある」
「別……?」
「あぁ、魔女討伐に国が冒険者を雇ったと聞いた。その辺りの探りを入れようと思う」
「大丈夫か? 危険じゃないのか?」
「問題ない。そっちは俺にしかできない仕事だからな」
公爵子息としての立場を使えば、情報を仕入れることは容易だろう。
さすがにおかしな行動は起こさないとは思うが、信用できる相手でもないからな。
詳細に調べておく必要があるだろう。
「よし、それじゃあ早速――」
各々行動を始めようとした瞬間に森の方からゆっくり近づいてくる人影が見える。
ブライトも気づいたようで、斧に手をかけていた。
俺も巻物に触れ、魔法を発動できるようにしておく。
すると、森の方から向かってきたのは白銀の髪を持つ少女だった。
ただ、ただ事ではなさそうだ。
少女の着ていた服は血で滲み、少女自身も満身創痍だった。
「ブライト、周囲を警戒してくれ!」
「あ、あぁ……」
何者かが襲ってくるかもしれない、とブライトに注意を呼びかけた上で、俺は少女へと駆け寄る。
すると、少女はそのまま倒れるように俺へともたれ掛かってくる。
「お、おい、その子は助かるのか!?」
「あぁ、任せておけ」
回復魔法の巻物を使用して、少女を治療する。
淡い光が少女を包み込むと、あっという間に傷を治していた。
ただ、よほど疲れていたのか、少女はまだ眠りについたままだった。
「アイン、どうやら追っ手はいないようだ」
「あぁ、わかった。とりあえずこいつが目を覚ますまで待つか」
少女を地面に寝かせると目が覚めるのを待つ。
◇◇◇
「あ、あれっ……、わ、私――」
しばらくすると少女が目を覚ましていた。
困惑した様子で俺たちの顔を見比べていた。
「ひっ、ぼ、冒険者……」
俺たちのことを冒険者と思ったのか、意識が覚醒すると悲鳴を上げていた。
「いや、俺たちは冒険者じゃないぞ? むしろ冒険者に反発しているものだ」
「――ブライト、お前は話をややこしくするな。それよりも一体何があったんだ」
勝手に冒険者に反発しているなんて思われたらどうするんだ……。
「ぼ、冒険者じゃないのですね……」
少女はホッとため息を吐いていた。
ただ、すぐに我に返り俺の服を掴んでくる。
「た、助けてください!!」
「あぁ、だから回復魔法を使っただろう?」
既に少女の体には傷が一つもなかった。
自分の体を見た少女は驚いていたが、すぐに首を横に振って言ってくる。
「ち、違います! 私じゃなくて、私の両親を――」
何かあったのか……。
よし、ここは動いておくか。
俺はブライトに視線を向けると彼も頷いていた。
「わかった。俺たちが力を貸してやる。どこで何があった?」
「えっと、森の中に私たちが住んでいる隠れ里があるのですけど、そこに突然冒険者が襲いかかってきて――」
「事情は把握した。隠れ里の人たちの救出と冒険者の撃退だな」
「よしっ、サクッと殺るか」
ブライトが腕を回している。
「いや、殺すな。とりあえず、その場所への道案内を頼んでも良いか?」
「わかりました。こちらです……」
少女が俺から離れると急いで森の方へと駆けていく。
それを追いかけようとしたときにブライトが告げてくる。
「おいっ、さすがに人を殺さずに冒険者を追い払う事なんてできないぞ?」
「いや、何とかなる」
むしろ俺が雇わなかった理由と同じだな。
いくら国から出されているかはわからないが、末端の冒険者なら俺でも十分に払えるくらいしかもらっていないだろう。
それならば買収してしまった方が早い。
そのためには俺の正体を冒険者に明かす必要があるが……。
◇◇◇
隠れ里までやってくる。
薄暗い森の中で唯一光が差す場所に、自然を生かす形で家が建ち並んでいた。
そして、周りにはたくさんのけが人。
ただ、冒険者の姿はそこにはなかった。
「お母さん、お父さん……」
少女が慌てて駆け寄った先に、少女と似た容姿をした二人が倒れている。
満身創痍で、怪我をしていない場所はないのではないだろうかと思えるほど。
すでに虫の息で、このまま放っておけば確実に命を落とすだろう。
仕方ないな……。見過ごすわけにも行くまい。
俺は再び懐から巻物を取り出して命が危うい人から順に治療していく。
◇◇◇
「あ、ありがとうございます。なんとお礼を言ったら良いか……」
「いや、気にするな。それよりも冒険者はどこに行ったんだ?」
「そ、それがルリカが逃げていくとそれを追いかけて……」
なるほど……。
よほど助けを呼ばれるのが嫌だったのか、それとも、元々この少女……ルリカが目的だったのか……。
事情はわからないが、とにかく冒険者はそのままにしておくわけにはいかないな。
「ブライト、ここを任せて良いか?」
「あぁ、それは構わないが、アインはどうするつもりだ?」
「俺は冒険者を探してくる」
「……さすがにそれは危ないだろう? これだけの人数を怪我させたんだぞ」
俺たちの周りにはまだ二桁を上るけが人が倒れている。
それだけ危険な冒険者がこの辺りに居ると言うことだ。
「いや、問題ない。大勢いた方が迷惑だ」
「そうはいってもな……」
「それにここにまた冒険者が襲ってきたらどうするんだ?」
「……っ!? それもあるのか。――わかった、ここは俺に任せてくれ」
「あぁ、任せた」
よし、これでどうにかなったぞ。
あとは仮面をとって――。
「わ、私も付いていきます!」
次の行動を考えていたときにルリカがギュッと手を握りしめて叫んでくる。
「い、いや、それは――」
さすがに予想外の声に俺は少し動揺をしてしまう。
しかし、すぐに落ち着きを取り戻して、軽く咳払いをしてから答える。
「さすがにこれから向かうところは危険なところだ。そんなところに何の力も持たない君を連れて行くわけにはいかない」
「大丈夫です。私、魔法が使えますので戦力にはなると思います」
なるほど……、それなら確かに戦力には……って、今回は説得と買収に行くだけだから戦わないんだが……、それを言っても仕方ないんだろうな。
「……わかった。それなら道案内だけ頼む」
「はい、わかりました」
笑みを見せてくるルリカ。
◇◇◇
隠れ里を出て、森の中を探していると案外簡単に冒険者と出会うことができた。
ちょうど里へ戻ってこようとしていたようだ。
「お前……、誰だ!?」
「はぁ……、それが人にものを聞く態度か? お前たちこそ誰なんだ?」
「俺たちはBランク冒険者の『
魔女……か。
どうやらルリカのことを指しているらしい。
でも、全くそんな風に見えない。
適当に言われているだけなのだろう。
詳細は後から聞くとして、今はこの冒険者達の方が問題になるだろう。
俺は冒険者達だけに見えるように仮面を外す。
すると、彼らは驚きの表情を見せていた。
「俺はクロウリッシュ・フォン・ヴァンダイム……といえばわかるか? 一応ここのすぐ近くに住んでいるのだが――」
「き、貴族……」
「だ、だが俺たちはしっかりと依頼を――」
「あぁ、それはわかってる。しかし、私もこの子が気に入ったのだ」
「ふ、ふぇ!?」
ルリカが隣で顔を赤くしているが、この際無視しておく。
「どうだろうか? 君たちへの報酬は私が払う。それでこの場は引いてくれないか?」
「で、でも、この人たちは私たちの家族を怪我させた……」
「確かにこいつらは実行犯ではあるが、命令したのは別の奴だ!」
「……っ!?」
ルリカが驚いた表情をする。
すると、冒険者の一人がゆっくりと口を開く。
「この依頼の報酬、金貨十枚と違約金、金貨一枚。それがもらえるならこの場は引こう」
「り、リーダー!?」
冒険者の一人が驚き、リーダーの方へと振り向く。
「よく考えろ。これから死に物狂いで襲ってくる奴らを相手にして、怪我もせずに抜けられると思ってるのか? それならばここで金だけもらった方がいいだろ?」
「た、確かに……」
ヒソヒソと相談し合っているのだが、声が大きくてこちらにはまる聞こえだった。
「それでどうするんだ?」
「あぁ、受ける。受けさせてくれ!」
「ならこの金を受け取るといい。その代わり、もしそれで去っていなかったら直接ギルドに抗議させてもらうからな」
「わ、わかった……」
金貨を渡すと俺は一睨み効かせておいた。
こういうときこそ、貴族の名前を有効に使わないといけないからな――。
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