第9話
「記念となるコンクールなんです○ね?それで他の部署から主任さんがいらして、インターナショナル校からの意向を何の配慮も無しに受け入れ、課題曲を選べる○うにしたのに腹を立てている時期がありました。でも、あの人もいい大人です、当日が近づくにつれて与えられた仕事をしっかりとこなしていたと思いますが…」と女は言った。
責任ある男は今季から抜擢され、柳田のポジションを奪ったことになる。年齢も二つ年下で、日頃から何かとこれまでのやり方を主張し、突っ張り続ける柳田とベテラン音響と反りが合わなかった。しかし、貴重なかな文字を借りられるようにしたのも裏で働いたのは責任ある男で、コンクールの規模を大きくし、大々的に宣伝した結果だった。しかし、形式上、柳田の手柄にして事を丸く収めるようにしていた。
課題曲の三曲制度に強く反発し、全校が同じ課題曲を歌ってこそ、神聖なる予選となり、伝統を守ることなり、選択肢が増える課題曲では審査員に与える印象が曲によって変わってしまい、問題が生じると突っ張り続け、前日まで納得がいかないと怒っていたのだ。
「改革なくして進歩はない」と責任ある男はどうして自分がこれほどやる気に満ち溢れた柳田という男がいる部署に彼の上に立つように配属されたか考え、自分の信念を貫いた。結果、大々的に宣伝し、インターナショナル高校らが喜び、強いバックアップのおかげでかな文字レンタルまでこぎつけ、それを柳田の手柄にしてやっているというのに、当の本人は自分の長年の合唱コンクールへの努力の賜物と吹聴していた。誰の言い分が正しいのかはさておき、責任ある男は消えた三文字の責任を問われ、さらに初の責任者として開催した合唱コンクールの歪みの修正をしなければいけない。大ピンチを公転できれば彼の評価はあがるだろう。
僻みが原因の事故で、柳田にはすでに十分すぎる配慮を配ってきた上での厄介事で、十中八九の人間が責任ある男の肩を持ってくれるだろう。だが、柳田の女は違う、心底惚れ、世間を見る事をやめた視野の狭い女は自分の男の器量がマックスだと思っている。その女から無遅刻無欠席だった仕事馬鹿な男が行きそうな場所を聞き出さなければいけない。言葉を選んで話す。
「柳田さんとの意見の相違は認めなければいけません。しかし、彼も私も自分の仕事に熱心だからこそ反発する部分もあるわけで、根底では強くつながっていたんです。ご理解していただけますね。時間が惜しい。彼の安否もそうですが芳長さんは今度のコンクールで国宝級のかな文字を文部省からお借りしている事をしっていましたか?」
「ええ。コンサートホールの仕組みは○くはわからないのですが…。あの人も大興奮していました。彼が担当で交渉し、管理する役目だと自慢げに話してくれましたから。あの人がそれを持ち去ったということですか?もしそうならば、少年少女らの晴れ舞台はあの人のせいで台無しになったというのですか?」不安な口調に語気の強い怒りが混じりだしたことに自分自身では気がついていない。
「い○、そうとは断定できませんし、コンクールは前半部が終わり、後半部の開始を待っているのですが、なにぶん、借りたかな文字が三つほど見つからず、担当だった柳田君ならばありかを知っているはずだとなりましてね。当然、彼が現場に来ていないのも問題です。価値あるかな文字ですから、文字らと共に誘拐された線も考えねばならない」
「誘拐ですって!!」
「可能性の話です。いまはすべての可能性を見据えて考えるべきです。同時に、少年少女らの努力を台無しする◯うな大人の集団では無いという事を証明しなければいけません」
「そうでし◯うとも。あの人ったら…あら本当だわ、言えない、聞こえない」
「そうです。心当たりありませんか?消えた三文字が戻ればいいのですが」
「心当たりですか?家にそれらしきものを持ってきた形跡もありませんし、そもそも仕事のものを私が掃除等でいじると怒られますしね。今度のかな文字に関してもなんども自慢げに説明されましたけど、いまいち、あの人が言っていることが理解できなくって。コンサートホールってそういう仕組みなんですか?私なんてど素人で、二十代の頃に好きなバンドの追っかけをしていたことがありますけど、彼らもそんな面倒な作業をしていたなんて想像もできませんでした」
「ええ、まあ、いろいろな方法はありますからね。じ○あ、家にあるという可能性は少ないんですね」
「でし○うね。まあ、鬱陶しい。ごめんなさい」
「いいえ。意識しても難しい」
「あの人は今朝、いつもの鞄を持って仕事に行くと言って出て行きましたわ」と女は言った。一番手っ取り早い可能性が潰れた。柳田が何らかの理由で「や・ゆ・よ」を会場から持ちだし、家に置き忘れたままたった一人のボイコットを決め込んでいるなら、内縁の妻に厳しく言って、三文字を至急コンサートホールに持ってこさせ、その後に柳田の所在と処分を考えれば済むと思っていた。しっかり者の柳田は価値を知っている三文字を肌身離さず共に移動している。
「週一、二回のパチンコ、物憂げになれる公園、あと銭湯くらいですかね。お酒も飲まないひとですから」
「当たらせてみます。それらの場所を教えてくれませんか」
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