第4話

一人の男の子は激昂性質なのか、唯一男で泣きながら何かを訴えていました。二校、前半の課題曲で、八十年代前半に国を代表するヒットメーカによってつくられた誰しもが口ずさんでしまう歌謡曲。なだらかな曲調に誰しもが身に覚えのある切ない気持ちを巧妙な擬人法で表した歌詞。その曲を選んで歌った二つの高校の生徒らが泣き、悔しがる。


指定された自由時間の終わりが迫り、各校の生徒らは家族や友人に別れを告げ、控え室に戻り前半戦の結果を知らされ、後半戦の歌う順番を聞かされる手順。様子がおかしい、二校の生徒らはなかなか控え室に帰ろうとしない。家族らが、時間が迫っているようだからと促し、主催者側の係の大人が傷ついた他人の子供を親の目の前ということもあり、より一層、丁重に控え室に帰るようにと導く。


ホールからようやく歌い手の高校生らの姿がなくなった。しかし、泣いていた二校の家族らが腑に落ちないように「どうしたものか」と全国大会のこの一日のためにこれまでの夏休みを献上して頑張ってきた我が子の泣く姿に複雑な感情が生まれていた。親心というものなので理解の範疇なのだが、不機嫌な主催者側の人間が慌てふためいて右に左にとホールを駆け巡るのが気掛かり。五十代前半の音響責任者が梅干しのように真っ赤な顔をしている。


運営関係者が二校の顧問ではなく、部の部長先生に必死に説明している。一人の部長先生は冷静な対応でいるが、優勝に手が届くと予想されていた私立校の定年間際の部長さんは「納得がいかない」の一点張りで、後半の歌う順番の再考慮をするように係の人間にすごんでいる。前半で主催者側による音響の不備があり、選曲制度を取り入れ、歌謡曲を選んだ二校だけが、被害を受け減点された。歌い手も肌で体感できるほど不備だったということになる。


予定された各校の自由曲による後半戦は時間がきても始まらなかった。

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