第3話
八十年代後半、ミンミン蝉が命の主張をし、遠く西では将来の球界のスターになる怪物と呼ばれる球児らが白球をめぐって熱い戦いを繰り広げ、観客を熱狂させているある日のこと。
東京の代々木の一流ミュージシャンも利用するコンサートホールにも若い息吹たちが、地域代表という責任の重圧と向き合い、互いの声で覇権を争っている真最中である。北は北海道、南は九州からの各地域から予選に次ぐ予選を勝ち抜いた八校の高校生らのハーモニーの精鋭部隊らが、主催者の輸出需要でホクホクの国産の音楽機器企業が指定した課題曲をそれぞれ歌い前半部が終わったところ。
休憩を与えられた代表校の生徒らはしばしの自由を与えられ、正面ホールにて観覧に来ていた家族ら、友人らと会う事が許され、一気に張り詰めていた全国大会の緊張から解放され泣き出す生徒らもいた。他校のレベルの高さ、覚えのない興奮に体の制御の仕方がわからない。まさに、若さ溢れる無垢な感情の起伏と見て取れるが、泣いている生徒らはいい表しようのない悔しさがあるようだ。それもまた若さゆえ、自分を責める生徒らに後半の自由曲で挽回すればいいと励ましの声をかける保護者ら。
前半の課題曲と後半の自由曲の総合点でこの年の全国の頂点に立つ合唱校が決まる。前半は事前に行われた抽選によって歌う順番が決められていて、休憩時間中に審査員らが厳正なる審査で点数をつける。大会前から優勝候補校が二つあり、前評判通りの出来で、二校のどちらが後半戦のとりを受け持つか、審査結果を待ち望む。これらはこの年から取り入れられた新制度で賛否があったようだ。わからないでもない、後半の序盤で歌わせられる高校生の気持ちを害する結果になるし、勝敗を意識しすぎるコンクールの品性も問われましたが、試みとしてとりいれられた。さらにもう一つ、新しい試みとして取り入れられたものがある。それは前半の課題曲を三つに分けたこと。
コンクール参加校の幅の広がり、特に優勝候補と囁かれる学校には私立のキリスト校やアメリカンスクールなどが多くなり、日本語より英語の歌が得意とする生徒を考慮し、これまでの日本語の課題曲に絞っていたのでは全国大会の常連校となってきたインターナショナルスクール校に不利な前半戦が続いていた背景を改善する名目だった。選べる課題曲ということで、今年は二校のインターナショナル校が英語の歌を選び、他は別々の課題曲を選曲し前半戦を終えた。よくよく見てみると、泣いているのは同じ課題曲を選んだ二校の生徒に限られていた。辛辣に訴える姿は何を意味しているのだろうか。
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