第十二章 第二回つぐみマルシェ実行委員会

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 運転している間じゅう、ずっと同じことを考えていた。

 良さんに教えてもらったこれからの店のこと、良さんと俺のこれからのこと。貼り紙を貼る場所を提供するだけでもマッチングといえばマッチングだけど、もっと積極的につないでいくにはどういう方法があるだろう。

 夢中で考えて過ごしたけれど、すぐにはいい考えが浮かばない。毎日店を開けて、閉めて、夜になると良さんと話して。

 そんな風に過ごしていたら、くるくると日々が過ぎていった。


 つぐみマルシェというかわいらしい名前の町のお祭りまで、あと三か月を切った。浦田商店も、実行委員会という大げさな名前で参加することになっている。

 今年からは母に代わって俺が行くことになり、初めての集まりに顔を出した。

 商工会が入る小さなビルの四階に、使い込まれた会議室がある。簡単な折りたたみテーブルと、パイプ椅子が雑然と並ぶ。

 一言挨拶しながらぺこりと入ると、どこか同じようなにおいがする商店主たちが集まっていた。

 俺と同じ二十代くらいの若造から、上は八十くらいのおじいちゃんまで。それぞれ何代も前から、小さいながらもひとつの店を受け継いで来た人たちだ。

 見えるものではないけれど、日に焼けた額やがっちりと筋張った腕の線それぞれに、ばあちゃんみたいな大きな力が宿っているのだろう。

 入ってすぐに、ポロシャツのおじさんが気づいて寄ってくる。ぺこりと頭を下げた。

「あっ、えーと、たしか……」

「つぐみの浦田商店の浦田です。母と交代しまして、今日からは私がお世話になります」

「そうだそうだ、聞いてるよ。御用聞きの浦田さん」

 なんとも愛嬌のある顔で、明るく笑う。四、五十代だろうか、反らすように張った背すじがとても若々しいおじさんだ。

 いち、にい、と集まった人数を数え、うんうんと頷きながらホワイトボードの前に行き、ちょこんと手を組んだ。

「はい、えー、みなさんお集りのようですので、始めさせていただきます」

 えへんと咳払い。テーブルからくはは、と笑いがもれる。十人くらいの町の会議は、のんびりした雰囲気だ。

「第二回、ふるさとマルシェの、実行委員会を立ち上げます。それでは、お手元の資料の……」

「やっちゃん、もうええから。座って座って」

「あ? そうかい?」

「ほうよほうよ。そんな堅っ苦しいこと、時間がもったいない」

 ふははは、と空気がわいて、和やかに落ち着く。左上をホッチキスで止められた紙束をパラパラめくった。日付が去年のままのページもある。

「えー、今年もだいたい去年と同じ具合でよろしいでしょうか」

 すぐに、俺のとなりに座っていた若い男が手を上げる。

「今年は外部からアイドルさんを呼びたいんですが、ステージを使う時間をいただけますでしょうか」

「ああ、それなら調整がいるな。まずは先方と打ち合わせして……」

 俺と同じようなポロシャツの若者は、あらかじめ用意していたらしき書類をさっと出す。つかつかと前へ行き、おじさんと二人で話し始めた。ホワイトボードの隅の方になにか書き始めている。

 こうなると、残された俺たちは見守るしかない。紙をめくる人、となりの人とおしゃべりする人、かかってきた電話に対応する人。

 みんなで話す場のはずだけど、なんというか、自由な会議だ。

 となりのおじさんがすすすと頭を低くして、顔を寄せてくる。

「あれ、すごいじゃろ。八百屋の三代目。かずくんいうてなあ、あんたみたいに何年か前に帰ってきて、やり手じゃわ」

 あごでしゃくりながら教えてくれた。ほおお、とうなると、うんうん、と頷いている。

「あの、前に立っている方はどこのお店なんです?」

「あの人はやっちゃん。商店街の文具屋のな、四代目よ。仕切り慣れとるじゃろ」

「へえ……」

 聞くと覚えがある。たしか、山本文具店。町の外れに大きなスーパーができるまでは、このあたりで一番の大きな店だったはずだ。

「かずくんが中心になってな、ほれ、金物屋のみっちゃんと、料理屋のせがれと……」

 おじさんはちらちらと目線で差しながら、次々に紹介してくれる。

 こんな親切はここだけかもしれないと思って、手元の紙に必死にメモをとった。

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