第9話 アルレットのお買い物


「おはようございます、主様」


「おはよう、ライニャー」


ライニャーが仲間に加わってから数日経った。

今日は、まだクエストに行くのかも何も決まっていない、この時間ならアルレットも起きてるだろうから聞きに行ってみよう。


「アルレット、おはよう!」


「おはようございますショウタ様」


アルレットは既に寝間着から着替えていた、いつもだったら寝間着のままで廊下をうろついている時間なのに、


「どうする?今日もクエストやりに行く?」


「いえ、今日は冒険時に使う消耗品を買い足しに行こうと思うのですが、ショウタ様はどうなさいます?」


「他にやる事もないし着いて行っても良い?この町の事あまり知らないから何処にどんな店があるのか教えて欲しいし」


「分かりました、でも店がかなりあって紹介しきれないので私が普段からよく利用させてもらってる店だけになってしまいますけど、それでよければ紹介しますよ」


「助かるよ」


「いえいえ、ライニャーはどうしますか?とても眠そうですけど」


「実はわたくし、昨日の夜遅くまで起きておりまして寝不足なのです、なので申し訳ありませんがお二人で行ってきてください」


「徹夜って、一体何してたんだ?」


「まぁ色々ですよ」


まぁ行く気も無いみたいだし俺の部屋で寝かせとけば良いか。


「じゃあ、二人で行こうか」


「分かりました、それではライニャー行ってきますね」


「はい、お二人ともお気をつけて~。」


俺はライニャーに見送られながらアルレットの後ろを着いていく形で町に向かった。


=======


「此処がいつもお世話になっている主に魔法関係の商品を取り扱っているお店です」


最初についたお店の外観は雑貨屋さんっぽい感じだった、隣にも似たような物を取り扱ってる店があったが、そっちは秋葉原とかでPCのパーツを売ってるような感じの根暗な雰囲気の店だった、一体どんな物が売られているのか気になるので今度一人で来た時入ってみようと思う。

アルレットがドアを開け、俺もアルレットの後に続いて店内へと入っていった。


「えーっと、魔力石は、・・・ありました!」


「アルレットがいつも使ってるやつだ」


「そうですね、これは魔力石と言って名前の通りこの石には魔力が蓄積されています。

いつも魔力が無くなりそうな時、コレに蓄積されている魔力を吸収して魔力を回復させてます」


魔力版の乾電池みたいな物か。


「それに比べてショウタ様の使う魔法は凄いですよね、腰に巻いている魔道具に板を差し込めば何もない所から黒い鎧が現れて勝手に装着される、しかもただの鎧じゃなくて膨大な魔力が付与されている特殊な鎧、普通あれ程の魔法を使うにはかなりの魔力を必要とするのですがショウタ様ってどうやって魔力を補ってるんですか?」


「え、変身してる時に魔力使ってたの?!」


「知らなかったんですか?!・・・・、普通は魔力を消費すると体から力が抜けるような感覚がするんですけど、自覚が無いのだとすればショウタ様がとんでもないほどの魔力を持っている、もしくは使用者の魔力を消費せずとも発動できる程、魔力が蓄積されているのかもしれない(以下省略)。」


アルレットは何かブツブツ言いながら考え込んでる様子だった、店にいる店員や他のお客さんからの視線が痛い、ここは一度注意しておこう


「アルレット、ここ店の中だからあまり声出すと・・、」


「あっ、すみません少し考え込んでました。ショウタ様っていつも使ってる魔道具ってどうやって手に入れたんですか?勿論お話出来るのであれば教えて欲しいのですが」


「え、えーっとね(別に話しても良いのだが、異世界から転生したなんて話しても信じてもらえるか分からないし、ここは転生した事には触れないように話そう)、元々変身する機能は無かったんだけど偉い人が魔法で変身できる機能を付けてくれたんだ」


「その偉い人に私も一度お会いしてみたいものです」


「じゃあ、買い物の終わった事だし他の店にいこうか」


「そうですね」


今日のアルレットはいつもより知的な感じ、エンジニアである俺の父さんに話し方が少し似ていた。

もしかしたらアルレットもオタク気質なのかもしれないな。


「ショウタ様、気になるお店とかってありますか?」


「いや?特に」


あるにはあるのだが、根暗な感じの女の子が苦手そうな店だから行くのなら一人で行こうと思ってる。


「ショウタ様、あそこに女の子が泣いてるんですけどどうしたんでしょうね?」


アルレットの目線の先をみると道端に座りながら泣いている女の子がいた、周りをみても母親らしきひとは見当たらない、もしかして迷子か?


「ちょっと話しかけてみようか」


俺は街中で泣いている女の子に優しく話しかけてみた。


「君、大丈夫?」


「お姉ちゃんたち、誰?」


お姉ちゃんなんて呼ばれたのはいつぶりだ?昔は女の子と間違われて妹の友達にお姉ちゃんなんて呼ばれたものだ、今は体が女の子になっちゃってるからお姉ちゃんで合ってるのだが、ってそんな昔話につかってる場合じゃない!


「えっとね、俺は吹雪正太で隣にいるのがアルレット、まぁ冒険家ってところだ」


「もしかしてお姉ちゃんって勇者倒したって言う「漆黒の英雄」様?」


「漆黒の英雄?」


「多分、ショウタ様の事だと思います、よく使われる鎧かなり黒い色ですからね」


「英雄って、勇者倒して英雄って言われるの何かおかしくない?」


「まぁあの方は、勇者って事を建前に色々好き勝手やってた偽り野郎ですから」


「偽り野郎って結構ひどい事言うな」


「まぁショウタ様と会う以前から偽り野郎の行いがあまりにも酷いものだったので他に新しく勇者を召喚するべきだという意見も上がってたんですけど、ショウタ様に負けた事実が伝わると別の勇者を召喚する事が決まったので、偽り野郎は勇者の特権を取り消されました。要するに勇者取り消しですね」


「勇者取り消しって、てか今アイツ何処で何してるんだ?」


「さぁ、ショウタ様に負けた日の夜から行方をくらましてるので私にも分かりません、自分より小さな少女に負けたことが相当辛かったんじゃないですか?冒険者としての実力は世界でもトップクラスだったのでギルドのクエストをある程度こなしていれば生活に困る事は無いでしょう」


・・・何となくだけど嫌な予感がする。とんでもない糞野郎だったが、アレでも異世界から召喚された勇者である事には変わりない、小説の主人公みたいにチート能力を手に入れて、もしもその力を俺達に向けてきたら・・・、いや考えるのはやめておこう。


「・・・お姉ちゃんたち、何をそんなにお話してるの?」


「ごめんね話し込んじゃって、それでこんな所で泣いていたけど何があったの?」


「私ね、お母さんとはぐれちゃったの・・、思い出したらまた怖くなっちゃった・・・。」


女の子はまた泣き始めてしまった。ヤバイ俺が泣かせたみたいになってる、泣くのをやめてもらう方法は何かないか?

・・・アレって、


「おいしいアイスクリームはいかがですか?冷たくておいしいよー!」


高校生ぐらいのお姉さんが台車を押しながら街中を歩いていた。

こんな所に何でアイス屋が?でもアイス食べさせてあげたら泣き止んでくれるかも!


「すいませーん、アイス一つお願いします」


「えーっと、味はバニラ、チョコ、グリンティー、チョコミントの4つあるけどどれにするかな?」


「じゃあバニラのシングル一つで」


「じゃあ2ラキナンだね」


ラキナンはこの国で使われている通貨で、1ラキナンで大体日本円で言うと100円ぐらいの価値がある。

バックから財布を取り出し、中から2ラキナン取ってアイス屋のお姉さんにそれを手渡した。


「はい、これで」


「2ラキナン、丁度お預かりします」


そういうと台車のなかから小さめのカップを取り出しそこにアイスと小さめのスプーンを乗っけた。


「ご注文の品です」


渡されたカップには丸い形のアイスがちょこんと一つ乗っていた。


「ありがとうございます」


「それでは、またのご利用お待ちしております」


そういうと、アイス屋のお姉さんはまた台車を押しながら何処かへと歩いて行った。

俺は少女の元へと戻りさっき買ったばかりのアイスを手渡した。


「コレ食べてみ」


「コレ、何?」


「アイスっていう冷たいお菓子だ、コレ食べればきっと怖い気持ちもきっとなくなるよ」


「わかった、食べる」


少女は初めて見るアイスに少し戸惑いながらもスプーンで少しすくって、小さい口にアイスを入れた。


「コレ、冷たいのにおいしい!」


食べ終わる頃にはすっかり笑顔になっていた、やっぱり笑顔が一番かわいいな


「エルフィン!こんな所にいたのね、心配したんだから」


「お母さん!」


どうやら母親を見つけたようだ、無事に見つかって少しホッとした。


「娘の面倒を見て頂いたようで有難うございます、そしてご迷惑おかけしました」


「いえいえ、見つかって何よりです」


「それでは失礼します。エルフィン、ちゃんとお姉さんたちにお礼言って」


「お姉ちゃん達ありがとー、それじゃあ、ばいばーい」


「はぐれないように気を付けるんだよ!」


「はーい!」


あの親子が帰る姿を見送ると安心したのか疲れが少しどっと来た。

俺も自分の母さんの顔を思い出して、少しだけ家が恋しくなった。


「・・・ショウタ様」


「ん?どったのアルレット」


「私もアイスって言うお菓子、食べてみたいです」


「・・・ゴメン、さっきのアイス屋さんもう何処かに行っちゃった、また今度見つけたら二人で食べようね」


「そ、そんな~!」


=======


城に着くころには日が暮れていた、帰ってきてすぐにメイドさんに呼ばれて晩飯食べにいつもの部屋に向かった。

そして今はいつものように3人で晩飯を食べながら今日の出来事について話してた。


「アイス、私もアイス食べたかったなー」


さっきからずっとこんな感じだ、とても王族とは思えない程ごねてるな。

まぁ、正直子供っぽくて可愛いけど。


「今度見つけた時は一番でっかいサイズ奢ってやるから、機嫌なおせよ」


「本当ですか?!絶対ですからね!」


「分かってるって、てかそんなにアイスって珍しいのか?」


「珍しいも何も初めて見ましたよあのお菓子、逆にショウタ様はアイスを食べた事あるんですか?」


「勿論、じゃないと小さい子に食べさせようとしないだろ普通」


そんなにコッチの世界じゃアイスは珍しい物なのだろうか?

晩飯を食べ終えたので食器をメイドさんに下げて貰い、デザートのフルーツを待っていると王様が話かけてきた。

初めて会った時は信用ならんとか戦いを挑んできたけど、最近はなんだか優しくしてくれる。

もしかしたら根は優しい人なのかも知れない。


「ショウタ殿、少しいいか?」


「何でしょう、王様」


「各国の王が集まる会議があるのだが、そこでお主の事を話す必要がある」


「何故ですか?」


「勇者を倒した者が現れたとなれば各国が警戒する、最悪の場合ショウタ殿の命を狙う者が現れるかもしれない、だからショウタ殿の使う魔法などを説明した上でショウタ殿を危害を加えないと条約を結ぶ必要がある、そこでお主の使う魔法の事をこの紙にまとめて置いて欲しい」


「・・・分かりました」


「それと全ては書かないでくれ、3割程度書いてくれればよい」


「え?全部じゃなくて?」


「全て書いてしまうとそれはそれで敵にお主の手の内が全てバレてしまう可能性がある、あくまでも我が国はショウタ殿を独占するつもりは無いと他国に伝えられればそれでよい。」


「分かりました、それで明日のいつ頃までに渡せばいいですか?」


「朝の5:00だ」


「・・・へ?」


「本当は朝にこの事を伝えなかったのだがな、その時には既にお主は出掛けておってな、遅い連絡になって申し訳ないが頼んだぞ」


「無理無理!俺はまだこの国の言語書けないんですよ?そんなすぐに書けと言われても無理ですよ?!」


今が大体20:00ぐらい、寝ずに書けと?こんな幼い女の子の俺に徹夜して書けと?!


「確か日本語とやらなら書くことは出来るのか?」


「日本語でしたらなんとか・・。」


「恥ずかしい話だがこの城には日本語を使える者はおらぬ、申し訳ないがこの辞書で翻訳しながら書いてくれ、私も明日の準備があるので部屋に戻ってやるべき事を終わらせてくる。それでは頼んだぞショウタ殿!」


そう言って王様は俺の目の前に分厚い辞書を置くと部屋から出ていった。

これからの地獄を考えると自然に目に涙が浮かんだ、俺は視線をアルレットに向けて助けを求めた。


「えっと、ファイトです、ショウタ様!!」


「そ、そんな~!!」


こうして俺の眠れない夜が始まった・・・。

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