第107話 脱獄

「……ここも、違うか」


「そのようだね。……ここ、迷路?」


「「……はぁ」」


 互いにため息を吐く。


 僕たちは、なんとか自分の捕まっていた監獄から逃げ出し、辺りを彷徨っていた。


 ……そう、彷徨っていたのだ。


 ……一体どこだよ、ここ。


《まさか、あの黒く禍々しい結界、探知まで制限しているとは思いませんでしたね》


 だよね。とりあえず楓さんや成奈さん、メイドさんたちを探しに行こうと決めたはいいけど、探知が使えないから分からない。


 まさか、枷のほうじゃなくて結界にも制限されているとは思いもしなかった。


 それに、この監獄、入り組みすぎてる。至るところに道、道、道、道。しかも、すべて同じような外見をしているから見分けもつかない。


「……これ、とりあえずこの監獄から出てまずここがどういった所なのか見てから考えたほうが早くないかな?」


 と、顎に手を当てて祐希は呟く。


「……だね。闇雲に探していても、ただ時間を奪われるだけ。こんなことしている間に異世界人がもし来たりでもしたら地球は崩壊だよ……」


「……あぁ、異世界人。相変わらず、厄介な運命を辿っているんだね、ボクたちは」


 祐希は、ははは、と苦笑している。捕まっている間、僕はその異世界人のことは予め伝えておいたので知っている。


「……じゃあ、まず出口を探して、それからみんなを探すか。ごめんね、祐希まで巻き込んじゃって」


「いやいや。というか、ボクだって助けられたわけだし、嫌なわけないよ」


「ふふっ、ありがとう」


 なんて軽く雑談をしながら監獄の中を歩き続ける。相変わらずの道、道、道、で、進んでも変わることのない景色。混乱しそうだ。


「……ん、あれなんだろ?」


 途中いた魔族を避けながら歩くこと10分程、祐希がふとそんな声を上げる。


 祐希の指差す方向を辿ってみると、そこには扉のようなものがあった。


「……えぇ、よく見つけられたね、祐希」


 全然気付かなかった……。道と扉の色が同じだし、材質(?)も似ているから、ほぼ同化しちゃってるもん。


「まぁ、周りを注意して見ていたから、ね」


「さっすが」


 闇雲に歩いていた僕とは違うや……。


「じゃあ、行ってみるか」


「うん、そうしよ」


 と、会話を済ませ扉の方へ。


「……あっ」


「予想はしてたけど、やっぱりか。……──鍵が掛かってる」


 はぁ、と横からため息。祐希は、どうしたものかと、頭を悩ませている様子だった。


 つまり、この監獄からは鍵を持たない限り出られないということだろう。闇雲に歩いたということもあり、かなり歩いたことは確か。なのに、見つかった出口と思われるものはこれ一つのみ。


《でもまぁ、考えてみればそのとおりですよね。ここは監獄。対象の生物を閉じ込めるためにあるのですから。》


 だよねぇ……。どうすればいいとか、解決方法は思いつく? 出来れば、でいいんだけど。


《……ふむ。どうしたものでしょうか? 解錠のスキルがあれば容易いかもしれませんが……。それに、壊すにしても音が出ますし、なによりこの扉、鍵がない時に限り、絶対に開かない呪い、のようなものも掛けられていますし》


「呪い……」


 さすが魔王、といったところか。監獄とは誰かを閉じ込めるもの。


 閉じ込めるということは、何かしら理由があって動きを封じたい、または戒めたい、捕まえたいなどの理由があるのだろう。となると、どの理由にしてもやはり監獄に囚われている人たちを逃したくはないはず。


 当たり前といえば、当たり前と言えるのだが……そこまで用意周到にしなくてもいいんじゃ……?


 ……あっ、無理だわ、これ。


「呪い? 呪いがどうかしたの?」


「……あぁ、まぁ。この扉、鍵がない時には常に絶対に開かない呪いのようなものが掛けられているらしいんだ。そのせいで、力ずくも無理ってこと」


 詰んでる。どうみたって。


「……それ、どれくらいの強さ?」


 ふむ、と顎に手を当てたかと思うと、首を傾げてそう尋ねてくる。何か策でも?


「分からないけど……それを聞くってことはまさか?」


「うん、ボクの魔法の一つに、『解呪』というのがあるんだ。もしかしたら、解けるかもしれない」


「……ほ、ほんとに!? ……あっ、でも」


「……そう。解呪で出られると思うけれど、扉には鍵が掛かっている。多分千尋ほどの力があれば可能だと思うけど、音が鳴ってしまうから……ね」


 ……音が鳴ったら、多分大勢の魔族が押し寄せてくるだろう。一人であれば僕と祐希でなんとか倒せるが、二人となるときついし、三人以上になれば負けると思う。


 ……でも、方法がそれ以外ないのもまた事実。


「だい……じょうぶ?」


 僕は祐希に尋ねる。音が鳴る……それはここの状況でいえば死ににいくのとほぼ同等。怖くないはすがない。


「大丈夫だよ。どうせ、もう脱獄から逃げてる時点で逃げなければ捕まることは確定してるんだし」


「……ふふっ、だね」


 どうせ僕らは脱獄人。追われることくらい、最初から覚悟してる。

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