第73話 練習試合
「じゃあ、始めるよ! よ〜い……」
……ふぅ……。よしっ、覚悟はできた。
「ドンッ!!」
そして、青年の掛け声とともに、死ぬかもしれないという、洒落にならない試合が始まった。
「…………っ!」
なっ……っ!
ドンという青年の声とともに、かなりの風圧が僕を襲った。そして、その時には青年は消えていた。
多分……見えない速さで走ったから見えなくなって、さらに風圧まで来たんだろう。
……って、そんな解説してちゃいけない。考えるひまなんてないんだから。
《鬼化》
そして、僕は鬼化によって強化された力……そして本能を集中して青年がどこにいるか調べる。
……しかし、見つけようとすればするほど、青年の存在が消えてしまっているようで、見つけることなんて不可能だった。
……え?
突然後ろに危機感知が反応した。それも、かなり大きい反応。今まで戦ってきたワイバーンや悪魔やドラゴンのときに感じたものよりも……もっと。
《逃げ足》《俊足》《空間操作》《転移》《体術》
避けられないと判断した僕は、ありったけの避けるスキルを使ってできるだけ急所を回避しようとし、空気操作や転移で空気圧を転移させ僕を運んで、そして体術で受け身をとった。
また、ユニークスキルである生への執着心は今でも使えるから、ある程度の攻撃なら死なないはず。
万全だと思ったんだけど、やっぱり青年の職業がレベル250を超えているだけあって、全然痛い。いや、もう痛いとかいうレベルじゃない。
「………くはっ……っ!!」
「へぇー……。小型のドラゴンくらいならこれだけで倒せたはずなんだけど。だから、人間だったら死ぬか……または君くらいなら肝臓やら胃やら潰れるくらいだと思ったんだけどなー。さすがだねぇ。予想以上だったよ」
ちょいちょい……。協力するはずなのに、なんでドラゴンを倒せるくらいの強さでやったんだよ。
ってか、多分この時点でもうろっ骨くらい折れてると思うよ?
「………ちょっとくらい加減してくださいよ」
「んー、これでも一応加減しているつもりだったんだけどなぁ」
「……これで?」
これでもまだ本気を出していないってことか。おかしいだろ……、力の差があり過ぎる。
「じゃあ、もう一度……っと。」
……また消えた。
怖い。避けることができなければ死ぬんだから。でも、怖くても恐れない。
だって、恐れてばかりなら死んでしまうんだから。だから、僕は全力で戦う。
「…………ん?」
ふと、なぜか青年の居場所が理解できるようになっていた。すごい速さで同じところを行き来しているのが分かる。
どういうことだ……? 僕は、ドラゴン討伐のときにも確かこんなことがあったのを思い出して、まさかと楓さんの方を見てみる。楓さんは、手を重ねて祈っていた。
そして、ステータスは前と同じように100倍されていた。
本当にどういうことなんだろう……
あとでとりあえず楓さんに聞いてみれば分かることだ。それより、今は集中しないと。
「……来た」
青年がこっちに向かってきているのが分かった。僕は、そちらの方を向くと体術を使った。
《体術…カウンター》
僕は、青年の攻撃にタイミングを合わせて、カウンターを使った。それ以外では勝てそうもなかったからだ。
今、100倍になっているけど、それでも勝てそうになかった。だから、利用することにしたのだ。
そうすれば、青年の攻撃が僕の攻撃によるダメージも追加するから、青年が放った攻撃以上のダメージがかかるはずだ。
「へぇ……」
でも……甘かったらしい。
「じゃあ。君のカウンターの、更にカウンターでもしようかな」
そう言うと……返したはずの攻撃が、また何倍にもなって返ってきた。
物理攻撃はアイテムボックスに収納できない。だから、せめて攻撃の波動だけでもアイテムボックスで収納して弱らせる。
だけど、やっぱり無理なものは無理。
「……ぅぅっっ……ぐぅぁぁっ!」
そして僕は、気付けば気を失っていた。
今まで、いろんな危機があったけどなんとか勝つことができた。しかし、負けてしまったのだ。
僕が、モンスターが存在するようになってから戦いで初めて負けた瞬間だった。
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