第68話 『あいつ』
「………で、魔法の使い方を教えてくれない、ナビゲーター?」
とりあえず目的の場所まで辿り着いた。ふう、と軽く深呼吸してから、僕はナビゲーターに対してそう尋ねる。
《はい、魔法というのは詠唱が大事に思われているようですが、1番大事なのはイメージです。》
じゃあ、イメージが1番大事なら、なんで詠唱というものが存在してるの?
《簡単に言えば、詠唱は魔法をイメージしやすくするための、……簡単に言えば補助、のようなものですね。》
なるほど、そういうことか……。まぁ、言われてみればそうだ。ラノベなんかでも、無詠唱という存在があるもんね。理解した。
《あっ、ちなみに言っておくと、無詠唱ならスキルを使わずともできますよ。イメージさえあれば、頭の中でスキルを念じさせすれば使えますから。》
おぉー……! ちょっとやる気でてきたかも。
《で、まず魔法とは……ですけど。魔法は、簡単に言うと火属性魔法も水属性魔法も風属性魔法も、すべて方法は同じです。それぞれイメージして頭の中でスキルを念じてください。はい、完成。魔法使えましたね。パチパチ》
おぉ……、……なんか雑。
《もう少し詳しく言えと? それなら……、イメージするときに完成形だけを思い浮かべるのではなくて、過程も思い浮かべるようにしたらいいと思いますよ? すると、より魔法を使ったときの威力や完成度が上がります。それほど、魔法はイメージが大事だということです。》
ふむ、過程もイメージ、ね。……まぁ、とりあえずやってみるか。
じゃあ、まずは火。
必要なのは、可燃物に、燃焼を手助けする支燃物、そして点火源だ。
イメージというからには、実際に燃えたという結果じゃなくて過程を考えないといけないんだよな。じゃあ、例でやってみるか。単語だけ言っても、それで完全にイメージできるかと言われたら、正直出来そうにない。
可燃物は……まぁ、木でいいか。支燃物は酸素濃度の高い空気、点火源は……静電気、かな。
そして、これらを完全燃焼させれ……
ドンッ……っ!!!
「……うぉっ!?」
……失敗したようだ。僕が火を生み出そうとしたところが、急にドンッ、と大きな音を立てながら爆発したのだ。
条件は完全に合ってるよね……あれ、なんでだ?
《……まさか、一回で成功するとでも思っていたのですか? そんなの、無理に等しいですよ。本来、魔法というのは一ヶ月間ずっと特訓しても使えない人も存在するくらい、難しいんですから。》
ふへぇ……。
でも、爆発したということは……おそらく、酸素の濃度を間違ったんだろう。もっと少なめにすれば……。
今度は、酸素濃度を下げて挑戦することに。
すると……
《火属性魔法》
「……よしっ、出来た」
今度こそ成功だ。
僕の目の前にあるのは、辺りを照らす大きな火。生活魔法とは比べ物にならない大きさだ。まぁ、空間操作で酸素を集めたときの生活魔法よりかは小さいけど。
《……二発、ですか? ……すごいですね。》
ナビゲーターは、ただ呆然としていた。
「……まぁ、この世界には科学というものがあるからね。原理さえわかれば、この通りだよ」
《さすがです。……これなら、もしかしたら……》
「もしかしたら……ってなに? もしかして、前に言っていた『あいつ』?」
《まぁ、そうです。……なんでそこは覚えているんですか? いつもはよく忘れているというのに。》
ん……? なにか言葉に棘があった気がしたけど……まぁ、気にしないでおこう。
それで、スキルにもいろいろとあるんだなって思ったから印象深くて覚えていたんだよ。
《そう……ですか。じゃあ、魔法が使えるようになったら行きますか? ……あいつのところ。あっ、先に言っておきますが……あいつはこの世界の人間ではありません。》
……は? 今、なんて……?
《だから、この世界の人間ではないんです。転移者なんです。そして、同じく私も。まぁ、私はあいつが私というスキルを作り出したから存在しているんですが。》
転移者……。スキルを作り出した……?
……ってことは、この地球がこんなのになったのは、その『あいつ』が原因なの? 『あいつ』が、なにか世界をこんなふうにスキルとかを作ったの?
《いえ、それは違います。誰がしたのかは知りません、最初に君に聞かれたときにそう言ったでしょう? だけど、予想はなんとなくつきます……》
だ、だれ……?
《……同じく転移者でしょう。それも、どこか大きい団体の。この地球という星は、今まで魔力という物質が存在しませんでしたよね。そのため、この星を自分のものにしようとしているんだと思います。》
……なんで、魔力が今までなかったら、自分のものにしようとするの? 魔力が転移者にとって必要なら、なぜわざわざ魔力が存在しない地球を……?
《……魔力は、使えば使うほどその星の環境が崩れてしまうのです。そのため、私がもともと住んでいた世界……異世界は崩壊が始まっています。まだ、序盤だからかたまに大雨が降る程度ですけど……。でも、だんだんその環境崩壊が危険視され始めているんです。そのため、国からあるクエストを出されまして。まだ安全な星を見つけたものは、かなりの財力を手にしたり、王族並の権力を得ることができるんです。》
「それで……こんなことになっているのか。でも、それはおかしいだろ。魔力を使い続けたら崩壊するって分かったのに、それでも新しい星でも魔力を流すとか……。自分だけでも助かりたいからか……? なんてやつだ……」
ナビゲーターに聞いたところ、魔力を使い続ければ星は崩壊していくんだけど、でも何億年という長い時間になるまで、そうそう崩壊しないらしい。
だから、どうせ地球に魔力を流しても自分が生きている間は確実に地球が崩壊することはないし、安全に暮らせるだろう……って、考えたんだろう。
「その……『あいつ』っていうのはその作戦に賛同しているのか?」
《いえ、ただ遊びにきただけです。それどころか、反対しています。そのため、事前にこの星に来てこっちの勢力として戦おうとしているようですよ。》
遊びにきた…………か。そ、そう……。
でも、転移者が地球の僕らの味方側にいるっていうのは正直ありがたいな。
「……決めた、行くよ。その人のとこ。まぁ、楓さんが嫌なら、それならそれで別の行き先を考えるとしよう」
《分かりました。……あっ、そうです。》
「ん? なに?」
《あいつは戦いが好きです。ドラゴン……それも、あなたが倒したドラゴンよりも強い古代種のドラゴンに素手で立ち向かって倒すほど、ね。それだけおかしくて、なのに強いんです。一種の変態です。多分、あなたも戦うことは覚悟してください。死なないことを祈ります。》
「…………………………は?」
なにその……戦闘好きそうだった、あの悪魔よりもやばそうな人……。
このあと使用した水属性魔法と風属性魔法は、どうしてかとんでもない威力になった。ドラゴンより強いらしい『あいつ』の攻撃をイメージしていたせいで、鬼化を無意識に使っていたのかもしれない。
そして、この付近にいるモンスターは全員死んでいた。地面もえぐれていた。そして、ついでに語彙力も記憶も吹き飛んだ。
正直言えば……気が気でならなかった。
(きちんと記憶は戻ったそうです。)
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