第3章 転移者とナビゲーター編
第69話 別れの挨拶
「…………はぁ」
《なんなんです?》
「いやいや、死ぬかもしれないところにわざわざ行くやつってどこにいるんだよ」
《ここにいますね。》
………。そういえば聞いたことある。天才は馬鹿と紙一重だって。よーく理解した。
「で、まぁあんまり気はのらないけど、そこにいないとこの地球を知らないやつにとられてしまうっていうのは嫌だから……行くには行くけど」
《そうですか。まぁ、いいんじゃないですか》
うん。
「……じゃあ、楓さんのところと家族のところに行ってそっちのところに行くことを伝えるか」
もう日も昇っている。長い時間、魔法を使いすぎたらしい。ステータスを確認したところ、マジックポイントも大分消費していた。
そして、僕はまず楓さんに説明することを決めて、楓さんのところに向かった。
「あっ、起きてたんだ。おはよ〜」
楓さんは、僕のことを目をこすりながら確認すると、のんびりとした口調で挨拶した。どうやら、起きていたようだ。
「うん、おはよう。あのぉ……楓さん、もうそろそろ一週間くらいには出ようと思っているんだけど……いいかな?」
「わかった、もちろんだよ? それで今度はどこに向かうつもりなの?」
「それが……転移者のところなんだ。なんか、地球に来ているらしくて。ナビゲーター……えーっと、僕のユニークスキルは知っているでしょ。それの知り合いらしいんだよ」
「て、転移者!? ……ってことは、異世界人?」
目をキラキラと輝かせて、ワントーン上がった声でそう尋ねてくる。やっぱり、気になっているみたいだ。
アパートの中でなにもできなくて暇だったし、楓さんはいろんなラノベを読んでいたから、ワクワクするところはあるんだろう……。僕も、転移者がそんなやつじゃなかったら、喜んで会いに行ったんだけどなぁ。
「うん、簡単に言えば異世界人だね。でも、その人には問題があってね……」
そして、ナビゲーターが言っていたことをそっくりそのまま話した。この地球に迫っている危険のこと、そしてそれを阻もうとしているのがその会いに行く転移者のこと。……そして、やばいやつだってことも。
「うげっ…………それ、大丈夫なの?」
「うーん……正直どうなのか分からない……。けど、行かないと他の星の人にこの地球を取られるんだよ? 僕は、行かないわけには行かないよ。」
「……うん、分かった。準備しとく」
「でも、行かないという選択肢もあるよ? 死ぬかもしれないってわかるところにわざわざ行くのは嫌だと思うけど、それでも行く?」
「……嫌じゃないよ。だって、千尋くんがいるんだもん」
「そ、そう……っ?」
……そ、そう返されるのは予想外だった。ちょっとなんか……気恥ずかしいというか。
僕がいるから……か。……頑張ろ。
話を終えたところで、次は僕の家族と凛の家族をリビングに集めた。
「あのー……集まってもらった理由なんだけど、ここから出ようと思って」
「そう……。でも、なんでわざわざ外に出ようと思ったの? ここは凛ちゃんのお父さんのおかげでほとんどモンスターが入らないのに」
と、お母さんは不思議そうに返す。まぁ、そう考えるのが妥当だろう。
「そうだよ、お父さんの力があるから、ここは安全なんだよ?」
「でも……出るんだ。出ないといけないんだよ」
「出ないといけない? ……それって、どういうことなの?」
僕がここまで強く意見を押し通そうとするところに、何かあると悟ったのだろう。そう尋ねてくる。
僕は、どこまで言うべきか迷った。死ぬかもしれないってことが分かると、絶対に止められる。でも、行かないわけには行かないんだ……。
だから、僕は会いに行く人の性格は教えずに、その他のこと……つまりは、地球の今の状況を教えることにした。
「そう……。地球がそんなことになっているだなんてね……」
「うん……。だめ、かな……?」
「…………」
返ってきたのは沈黙。悩んでいるようだ。
確かに、死ぬかもしれないところへ行くことを許可することなど……出来るはずがない。
「分かった、許すことにします! 息子が世界を救った救世主になるんでしょ。見てみたいな?」
ニッと笑みを浮かべながら、お母さんは沈黙の末にそう答えた。
「お、お母さん……っ! ありがとう!!」
「でも、いつかは帰ってきてね。できるだけ私が生きている間に。一目でも救世主を見てみたいから」
「うん……っ!」
そして……ゆったりとした時を過ごし、いつの間にか一週間の時が過ぎた。
「……みんな、さよなら」
「うん、さよなら!」
「ちゃんと帰ってきてね!」
「うん、もちろんだよ」
「それで、きちんと高木ちゃんのことも守るんだぞ。千尋だけ帰ってきたりしたら許さんからな」
「うん……! 分かってるよ、お父さん」
そしてその後もいろんな話をして、区切りもついたところでお別れ。僕と楓さんは、転移者のいるところへ向かう旅に出た。
転移者というのだから、結構道のりの厳しいところに家を建てていたりするのかと、そう思って気を引き締める。
…………のだけれど。
「それで、ナビゲーター。その転移者ってどこにいるの?」
《……まさか、あいつが私につけた機能が、役に立つとは思いもしませんでした。私には、あいつ行きでしか使えませんが、転移魔法を使えるんです。ってことで、行きますよ。》
「…………え?」
《ほいっと。》
というナビゲーターのよく分からない掛け声とともに、一瞬で変わっていく景色。
え? ……いや、え?
ということがあって旅は終了し、転移者の家であろう人のところに着いたのだった。あまりにもあっさり着いたことに、僕は少し呆れていた。
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