第22話 閑話 ショッピングデート前の日

「んんー……」


 ……そうか、ここにいるということは、多分疲れて寝てしまったんだろうな……。


 昨日はその後、モンスターを討伐し続けて、少し疲れてしまったのかは分からないが、窓のすぐ側で寝ていた。


「それにしても、なんかあたたか………」


 僕は、布団も暖房もなにもかけていないのになぜか僕の右肩のほうが温かかったのが気になって、横を見てみた。


「すぅ………すぅ………。」


 うん、……これは?


 今の状況をまとめてみることにしよう。慌てると、なんかいろいろとやばくなってしまいそうだから……。


 急に、また世界が変わって現代ファンタジーっぽい世界からラブコメっぽい世界になってしまったのかな?


 ……えーっと、簡潔に説明すると、まずは僕の横には楓さんがいる。


 うん……?


 それでいて、楓さんはすぅすぅと寝息を小さくたてて、少し笑っている感じで寝ている。可愛い。


 うんうん……?


 しかも、僕の方にもたれかかっていて、その楓さんの身体と……その、胸があたっている。あっ、晴れはもう触ってしまえば壊れるんじゃないか、ってくらいに柔らかい。


 …………。


 そして、僕が逃げようとすると楓さんの身体は倒れるし、起こそうとしても僕が楓さんの身体に触れるとかしないといけない。


 いや、声を出すという方法もあるが、起きてこの状況だといろいろ疑われるに違いない。


 ……どうしようぅぅ……


《えーっとですね……?》


 うわぁぁぁああああ!!! びっくりしたぁ! ナビゲーターのことをすっかり忘れていたよ。


《なんか悲しいですね……。》


「……」


 なんかごめん。


《いや、別にいいんですけどね。それで、この世界にはスキルがあるんですから、それを使えばいいんじゃないですか?》


 あぁ……! そっか。ここはラブコメ系の世界かどこかだと思っていたよ。


《どこのラブコメの世界に、モンスターがわぁわぁ叫んでいり、人を殺したりしているストーリーがあるんですか……。》


 まぁ……ね……?


《それで、たとえば結界を使えばいいじゃないですか。結界スキルの中に、物理結界と言うのがあるんですけど……。》


 ふむ……。それなら、僕の代わりに、楓さんは物理結界にもたれかかってくれて、僕は退けることができるようになるのか。


 よしっ。


「……《結界…物理》。」 


 隣にいる楓さんを起こさないように、そう小さくつぶやいた。


 そして、その物理結界に楓さんをもたれかけるように寝かせると、僕は一旦ここから出て、料理をつくりに行った。






 ドタドタドタドタ!!


 白いお米のご飯とか、玉子焼きとか、味噌汁とか、………そんな、朝ごはんの定番中の定番の料理が完成したとき、楓さんの寝ている方からすごい音が聞こえた。


「……なんだ?」


 そして、その音がしたとほぼ当時に、楓さんはこのキッチンに入ってきた。


「ご、ごめんなさい! 昨日、モンスター討伐で結構マジックポイントを使っちゃったりしたのか、千尋くんの部屋で寝ちゃった……」


 走ってつかれたのか、それともこの僕の部屋で寝てしまったのが恥ずかしかったのかは分からないが、タコを茹でたときのように顔を赤くしていた。


「いいよ!? 大丈夫、大丈夫!! 別に何も嫌とか思ってないから、むしろ嬉しかったっていう………じゃなくて、えーっと……えーっと……」


 ヤバイヤバイヤバイヤバイ……!


 僕は、さっきの興奮みたいなものを時間という最強の力によって抑えることができたのだが、またそれを楓さんに言われたことによって、再びその興奮やら恥ずかしさが舞い込んで、僕の頭の中を支配していった。


「……そ、そう……っ!」


 やっぱり、僕は楓さんと一緒に寝ることができて、嬉しいとか言ってしまったことが聞こえてみたいだった。


 それに、一緒に寝れて嬉しかったとか言ったことが楓さんは恥ずかしかったのか、その後に僕がちょっと言い訳っぽい感じにした否定も聞いていないようだった。


 ……まぁ、聞いていなくても事実は変わらないのだけど、でも、とりあえず否定しておかないと、楓さんにとっての僕の評価が下がってしまうのに、楓さんは聞いていなかったのか……。


 これで、もう僕の評価は、これからずっとだだ下がりになっていく気がするよ……。


 うっ……うっ……。


「嬉しい……嬉しい……嬉しい……か。へへ……へへへへ……ふへへへへへへへ……っ!」


 ん?なにか楓さんがおかしい気がする。なんかいつものような感じとも、少し鬱みたいになりかけたときの感じとも違う、何か変だな……。


「あのー……楓さん?」


「へへへへ………はっ!ごめんなさい、千尋くん。なんでもありませんから」


「そ、そう……? ……あっ、そういえば朝ごはんできたよ」


「あ、そうだね、食べよう、か!」


「「いただきまーす」」


 もぐもぐ。もぐもぐ、もぐもぐ……。


 それにしても、柔らかかったなー……。

 初めて……っていうか、まぁ思春期入ってからあの、あれが過失とはいえ初めて当たったっていうか、触れたんだけど……。


 すごい柔らかかったなぁ。


 僕は、思春期男子だからこんなことを考えていても問題ない、普通のことだ! と言い訳して好きにいろんなことを考えていると、思考がほとんど停止していった。


 そんなとき、楓さんが話しかけてきた。


「でも、私があんなところで寝ちゃって、千尋くんはどこで寝ていたの?」


「あー……うん。別にー、一緒に寝ていたんだよ」


「えっ……!? ど、どんな感じで……?」


「えーっとねー、僕の肩に楓さんの頭がのって、一緒に眠っていたって感じだったよ」


「え……!?」


「それに、その時偶然とはいえ当たってたよ、柔らかかったな、あの楓さんの胸」


「〜〜〜〜っ!? な、ななな、なななななななに言って……なにを言っているん……ですか…!?」


「はーはははーはははははー」


 もちろんこのあと、僕の思考がちゃんと冷静になってもとに戻り、いろいろ騒ぎがあったのは言うまでもない。


 あれは、……っていうかこの事件は、僕の黒歴史になりそうだ。本当に恥ずかしい。思考はあんまり停止しないほうがいいな。


 僕は、すごい反省した。


 でも、それでもなぜか一部分だけは楓さんのことを考えてしまっていたのだが、言ってしまうと黒歴史が増えそうなので、言わないでおく。





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