第20話 同級生と話した日

「な、なんで千尋がこんなところにいるんだ?」


「それは……」


 少し気まずいような空気が流れていた。すごいここにいるのがきついんだけど……。隠密スキルで逃げてしまいたい。


 それにしても、あんまり話したことなかったなぁ。普段話していない人と話すのって、すごい緊張する……。


「そうだ、青柳。なんで君はここに来ていたんだ?」


 佐藤先生が、変な空気を察し、なんとか変えようと紛らわせるように話しかけてきた。


「えーっと……」


 どこまで話していいべきか……。なにか僕にとって不利益になりそうなこととか不味そうなこととかある? ナビゲーター?


《まぁ、楓さんのことと私のこと、アイテムボックスのことは隠したほうがいいですし、あと運び屋自体のことも隠したほうがいいかと。》


 それは……なんで?


《第2職業を持っていたらいろいろとやばいですからね。それにあと、レベルは10未満ということにして、スキルも10未満ということにしたほうがいいかと。》


 あー……なるほどね。じゃあ、ナビゲーターの言うとおりにしたほうがいいだろうし、そうするか。


「えーっと……実は」


 そして、僕は同級生と先生に向かって、さっきナビゲーターに言わない方がいいと言われたこと以外の出来事を伝えた。


「そんなことがね……」


「そうだっ、私達のところに来ない? そこなら避難した人とか、あと生徒や先生もいるから安心だと思うけど」


「そうだね、それが良いとおもうよ」


「……いや、ごめん」


 僕は、流されないようにあらかじめ決めておいたことを言う。学校に行きたいっていうのもあるけど……でも。


「そういうと思っ……えっ!?」


 みんな、僕はこの提案を断らないと思っていたのか、すごい驚いていた。まぁ、安心だっていうのに断るとは思わないもんな……。


「なんでだ……?」


「そうだよ、千尋くん。学校だったら警備の人がいるから安心だし、食料も食料班とかがいて集めたりするから……っ!」


「でも……ごめん」


「……そう」


「でも、俺たちのせっかくの提案を断ったんだから死ぬなよ。勝手に死んでいたら、本当に寝覚めが悪くなりそうで嫌だ」


「うんうん、知り合いが死ぬって……なんか嫌だよね。……そうだっ、たまには学校に来てね?」


「うん、分かったよ」


 なにか、こんなに心配してくれる人も結構いて、嬉しかった。でも、やっぱり学校にはいけない。


 楓さんをひとりにしておくのは、パーティでもありお隣さんでもあり同級生でもあり、いけないことなんだと思うし。


「じゃあ、さよなら」


「おう、死ぬなよ」


「バイバーーイ!」


「それでは、また」


「じゃあ、青柳。またいつか学校で会えるといいな」


「はい」


 それにしても、このモンスターが存在するようになった世界なのに、みんなはまだ元気だったんだな。


 なんか、良かった。こんな世界になっても笑っている人がいてくれると、他にいる学校にいる避難民も元気が出てくると思うし。


「じゃあ、もうちょっと食料とかを集めてから楓さんのもとに戻るかな」


《そうですね。》


「……ふぅ。よしっ。《アイテムボックス》《アイテムボックス》《アイテムボックス》《アイテムボックス》《アイテムボックス》《アイテムボックス》《アイテムボックス》……」


 じゃあ、これくらいで帰りますか。


 そして、僕は家に歩いていった。そして、アパートの中に入ろうとすると、隣の部屋の扉がキーっと音を立てながら開いたかと思うと、楓さんが出てきた。


「あ、ただいま」


「おかえりなさい。どうだったの?」


「あ、うん。いろいろと食料あつめる事ができたよ。コンビニの裏の方とかいろいろと意外に置いていたし」


「へぇ〜! でも、そんなに集めてもいつかはくさっちゃうんじゃない?」


「あ、ナビゲーターに聞いたんだけど、アイテムボックスのレベルを今6まで上げたんだけど、そしたら今時間の進み方が6分の1になっているらしいよ」


「へぇ、相変わらずのチートだね」


「まぁ、時間まで遅らせることができるようになっているとなると、違うよ……とは、言えないな」


「ふふっ。千尋くんはすでにチートだっていうことをやっと認めたか」


「……まぁ、このアイテムボックスに対してだけだよ。……いや、このスキル量に対しても、それは認めるけど」


「ふふっ」


「ははっ」


 その後、晩ごはんを食べる。今日の献立はまた豪華なものとなった。まぁ、モンスターが存在しているようになって初めてアパートを出たり、無事に帰れたり、ご飯が集まったり……。


 いろんな記念があるからなんだろうな。


 僕は、モンスターが存在してくれたからこそのものもあるんだな、と思ってしまった。


 そして、自分勝手ではあることなんだけど、楓さんと出会えたことに、小さな運命まで感じていた僕だった。

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