第2話 ナビゲーターと話した日

「んー……」


 僕は、カーテンから漏れ出ている光に照らされ、目を覚ました。昨日、閉じていたつもりだったんだけど、忘れて空けたままにしていたらしい。


「あ、やばい……! 昨日宿題ちゃんと終わらせないと……って、今日は休みだったっけ……。良かったぁ……」


ピーポー、ピーポー、ピーポー、


ウーーー、ウーーー、


プーー!プーー!プーー!


 それにしても、なんでこんなに外がうるさいんだろう。もしかしてだけど、近所で大きな事故でもあったのかな……?


 外から聞こえてくるのは、けたたましく鳴り響くサイレンだったり、クラクションだったりの音。


 ……って、こんなにもうるさい音がなんども鳴っていて、よく僕は寝続けることができたな……。


 でも、それ以上の音だったらさすがの僕でも起きそうだから、地震に気づかなかったってことではなさそうだよね?


 僕は気になってしまって、カーテンから外の世界を確認してみる。


 わぁー……。あれってゴブリンだよね。顔色っていうか、肌の色もそうだし、叫び声も人間からはかけ離れているし、ゲームでみたものと同じだし。


 ・・・・・・。


 …………は?


 いやいやいやいや、なんで!? なんでこんなところにゴブリン!?


 コスプレ……っていうわけでもないだろうし、それにリアルすぎるし……。背中にチャックも見当たらないしなぁ。


 ゴブリンらしき物体の姿は、あまりにも作り物っていう感じには見えないんだよな。


 それにしても、あれはなんだ……? ゴブリンが持っている包丁らしきもの。


 その包丁には、なにか赤い液体がついているんだけど、血だったりしないよね……?


 でも、血のり…………では、なさそう……。


 っていうことは、やっぱり……。


「な、なんなんだよ……、これ。ぐっ、おぇぇぇええ……」


 ちょ、ちょっと気持ち悪すぎる……。急に吐き気が襲ってきた。


 僕は、怯えて身体を震わせた。嫌だった。知っている人が死ぬのが。そして、自分まで同じように死んでしまうと思ってしまったのが。


 直接見たくなくて、薄目で他にも周りを見渡してみると、学校に向かう途中によく挨拶している人たちの死体とかも路上に血を流して倒れていた。


 そんな……


 不思議と涙がこぼれてきた。いっつも元気に挨拶をしていた人たちが死んでしまったのは……神様は理不尽なやつだって思ってしまう。


 でも、そもそもなんでこんなやつが現実に生命として生きているんだ……? こんなことがありえるというの自体おかしい……。


 僕は、まず近くにあったスマホを手に取り、今の状況を何か分かるかもと確認してみる。ここで引きずってなんていられない。自分の命も同じように大切だ。


「……っ」


 映らない。昨日充電をし忘れていた自分を憎む。……って、こんなことをしている場合じゃない。次だ、次。


 次にリモコンを手に取り、テレビを確認……が、


「無理……か」


 ……ついたと言えばついたのだけど、映っているのはザーザーと砂嵐のような画面。


「……そんな」


 じゃあ……ラジオはどうだ?


『ザーザー…ただ…ザー……ザー……ザーザーザー……家で……ザーザー…しましょう…ザーザー…ギャーー!!…ザーザーザー……ザー……ザー』


 ……こっちも全然聞き取れない。多分、家で待機とか、どこかに避難してくれとかいっていたのだろう。それにしても……最後の叫び声は……


 でも、こんな状況をして分かった気がする。


「……もしかして、世界がこんな1日もしないうちに、短時間で変わってしまったのか……?」


 ラノベだったりネット小説だったりでよくあるような、現実とはかけ離れたファンタジーな世界に。


 モンスターが現れて、そいつらが街の人々を容赦なく襲ってくる世界に。


 どうやったらこんなことになるのか、原理や理由は検討もつかないけど、多分そう言う事なのだろう。そうじゃないと……この状況に、説明がつかない。


「夢、ではないよね……」


 ほっぺをつねってみる。普通に痛みが僕のほっぺに襲ってきた。


 めっ……っちゃ痛い。ちょっとでも手加減をしておけばよかった。後悔。


 でも、まさかこんな世界になるなんて、こんな感じの物語は読んだことあるし、知っているけど、実際に起こるとは思ってなかった……。


 頭がこんな現実から背けようとしていて、全然付いていかない。


「ふぅー……」


 ……じゃあとりあえず、現実から目を背けようとしていて、まだあんまり良くわかっていないから調べないと。


 切り替えよう。……といっても、すべてはできないからできることだけ。


 まずは水道。……水がでない。じゃあ、電気は……電気も通ってない……。そして、ラジオやテレビが使えないことから通信設備も使えない……。


「こんなんじゃ……いつか……」


 水道でも電気でも通信設備でもいい。とりあえず、どれか1つでも使えれば未来への光が見えたのだけど……そんなものは存在しないらしい。つまり、簡単に言ってまずい状況だ。


……そうだ、今、『あれ』をしてみるか。


「《ステータス》」


 もし昨日の事が事実なのなら、出てくるはず。


 すると、予想通り……といっても、本当に出てきたことには驚いたが、ステータス画面が僕の前に現れた。



名前 青柳千尋

人間 LV1

HP 10/10

MP 20/20

力  2

耐久 2

敏捷 2

器用 2

魔力 0

SP 5

JP 5


職業

無し


ユニークスキル

ナビゲーター


スキル

無し



 ……やっぱり存在している。昨日のあれは夢じゃなかったんだ……。


「……って、あれ? なんか、昨日見たものとは違うような気がする……」


 あっ、そうだ。なにか統合してとかなんとか言って、他にも新しいユニークスキルがなんとかとか、言っていたような……?


 それにしてもなんだけど、ユニークスキルって、『面白い』って感じの意味じゃなそうだろ? なら、『ただ1つの』って感じの意味っていうことになるよな。


 もし面白いという意味なら、明らかにおかしい。こんな世界は全然ユニークじゃないから。


 それで、ただ1つのスキル……か。なら、結構良くて、チートかよ!? っていうスキルだったりするのかな……?


 この世界は嫌だけど、ユニークスキルによってはいい部分もあるのかも。


「まぁ、とりあえず確認だな。えーっと、基礎能力か。力、耐久、敏捷、器用、魔力……か。うん? 魔力!?」


 え……? なんでステータスの基礎能力のところに魔力なんて書いてあるの!?


「もしかしたら、僕、すごそうな魔法とかが使えたりするの……?」


 そして、そう思っていたその時のことだった。


《まぁ、使えるんじゃないですか? でも、今は使えないと思いますよ。魔力感知のスキルも持っていないですし、なにより魔力のところが0ですし。》


 ……は?


 僕の頭の中に、女性の声が聞こえてきた。


 最初は、幻聴だろうか? とか思っていたんだけど、僕はこんな喋り方をしたことがないし、まずそんな妄想もしたことないということから、この声の正体は僕じゃないと気づいた。


 ……それにしても、きれいな声だな。


 ゴホンゴホンッ、なんでもございません。なにも、考えていません。


《そうなんですか、照れますね。》


 げっ……


 うぅ……、頭の中のことは、すべてこのきれいな声の人に伝わってしまうのか。恥ずかしい……。


「……って、今どこから声が聞こえたの?」


《あぁ、ナビゲーターっていう名前のユニークスキルが私です。まぁ、ナビゲーターっていうのを簡単に説明すると、ナビゲーターというのは、導く者と思っておいて頂けたらいいですよ。ちなみに、どこからという問いですが、頭の中に直接話しかけているような感じですね。》


「ナビゲーター……? 導く者……?」


《はい、そうです。》


「は、はぁ……」


 でも、このスキル ナビゲーターは、わからないことをなんでも教えてくれるみたいなスキルと考えればいいのかな。


 なら、すごい良いスキルじゃない? さすが、ユニークスキルだね。ユニーク、ユニーク。


 そうだ、僕は今、この世界がなんでこんなことになったのか気になっていたんだよね。


「1番気になっていることなんだけど、なんで今世界に変わっちゃったの?」


《えーっと、分かんないです。》


「……え?」


《無理です。》


「は、はぁ……」


 スキルとはいわゆる機械のようなものらしい。きれいな声をしておきながら、返事は単調だ。感情が籠もっていないというか。


 ……まぁ、そこは置いておこう。


 ナビゲーターにも分からないのか。でもまぁ、ある程度がわかっているならいいかな。ナビゲーターというスキルを得ているだけでも、得と考えよう。


 そして、僕はこのスキルを使って、一緒に生活しようと決めたのだった。


 いつまで続くか分からないこの世界で、1人で居続けるのは嫌だ。だから、ナビゲーターという会話スキルを手に入れることができて、嬉しかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る