引きこもりという不遇そうな職業を持つ少年は、いつの間にか世界最強になっていた〜ある日突然ダンジョン化してしまった世界で〜
一葉
第1章 僕と楓さん編
第1話 日常という名の非日常が始まった日
「はぁ……」
この静けさを横切るように、なんの意味もなく閑散とした部屋にため息を溢す。
僕は自分が今住んでいるアパートの一室で、一人寂しく机とにらめっこ……対峙していた。
「……もう、23時を回ったか」
勉強机の上にポンッと置かれた小さなデジタル時計で時間を確認する。見たところ、長針はもう11を指しているようだった。
時間からもわかるとおり、もう深夜。開きっぱなしのカーテンからは月光が部屋に差し込んできていた。……そういえば、今日は満月なんだな。
「うぅ〜……」
そんな、今の僕にとってどうでもいいようなことを考えながら、僕は自分の通う高校で出された宿題を進めていた。
これだけ聞くと、僕は遅くまで頑張っている真面目な人みたいなふうに見えるかもしれない。が、まったくもって違う。
……逆なのだ。
僕の頭はほとんど動いていないのだ。深夜なので。ね?
……嘘です、普通に頭が悪くて問題が理解できないだけです。だから、宿題が終わらずに今まで続けていたのです。
「…………おっと」
くらりと眠気が襲ってくる。
普段から遅くまで宿題に追われている僕とはいえ、こんな時間にもなるとさすがに眠い。目を閉じたら眠ってしまいそうなほどだ。
「…………はぁぁ」
……コトッ。
気付けば手に持っていたシャープペンシルを机の上に落としてしまっていた。さすがにこの状態じゃ勉強できそうにない。
眠気を飛ばそうとエナジードリンクのある冷蔵庫に行くため少し足に力を入れてみる。……も、すぐに断念。力が入らなかった。
なんでこうまでして勉強するんだろ……。
「……あぁ、異世界行きたいなぁ。そうすれば、モンスター倒してレベル上げて、何故か知力まで上がってくれて……最高かよ異世界」
深夜テンション状態な僕は、普段だったら絶対に言うはずのないことをグチグチと言ってしまう。
いつもは普通の中の普通、平凡といえば僕のような人なんだけど、勉強に疲れると、その平凡すら保てなくなって意味不明な言葉を発するようになるのだ。
「……力が数値化されていて、努力が報われる世界だったらなぁ……」
僕は、そんなことを考えながら……というかもはや口に出して言いながら椅子にもたれかかる。
これが、僕の人生を変えてしまうフラグであったことに気づかずに。
……そんな時だった。
「……なんなんだ、こいつ? ハエ……いや、どちらかというとハチに見える気も……?」
いや、どちらかなんて関係無い。あれは、一体なんなんだ?
僕が椅子にもたれかかりながら天井をぼーっと眺めていると、僕の真上には、日本では……いや、それどころか全世界でもありえられないくらいの大きさの虫がブーンと音を立てながら飛んでいた。
「ひぃっ!? ……なんか気持ち悪っ!?」
それが少し不気味で、眠気が一時的に飛んだ。
驚くあまり椅子から転げ落ちる。僕は転んだ身体を起こし、横に偶然置ちてあったボックスティッシュをその虫に向かって投げつける。
バン……ッ!!
「はぁ、はぁ……。怖かったぁ……」
これは……この虫は、いったいなんだったんだろう?
そんなことを考えていたのも束の間、なんとか倒すことができたのかその虫は消えた。
「…………え」
……そう、消えたのだ。死体が残るとかではない。なにか隠したい出来事があるからごまかしているわけでもない。
ただ、死体が光り始めたなと思ったら、突然消えてなくなってしまったのだ。
「き、消えた……?」
どういうこと? 勉強していなくても常識的にわかることだ。こんなの、ありえるはずがない……。
そう考えていると、突然ポトッ、と音がした。気になって周辺を見渡してみると、虫がいた場所のちょうど真下にはビー玉くらいの小さな石があった。
その石は、道端にどこにでも落ちているような石とは違い、どこか神秘的なものさえ感じる。
《経験値を獲得しました。青柳千尋のレベルが1に上がりました。》
《この地球において、初めてのレベルアップを確認しました。》
《ボーナスとして、スキル 解析を獲得しました。》
《この地球において、初めての討伐を確認しました。》
《ボーナスとして、スキル 鑑定を獲得しました。》
《この地球において、初めてのキラービーの討伐を確認しました。》
《ボーナスとして、スキル 洞察を獲得しました。》
「……へ?」
びっくりしてしまったあまり、声が裏返ってしまった。誰だってそんな反応になると思う。唐突にどこからか声が聞こえてきたのだ。
「だれ……? その、だれか、いるんですか?」
誰もいないはずなのだけれど、もしかしたらここにだれかいるのかもしれないと考え僕は尋ねる。
なにもないアパートに向かって話しかけるが、誰も声をかけない。なにもなかったら、声が返って来ないのは当然だ。当たり前のこと。
いや、悲しいやつだと思わないでくれよ?
……それにしても、さっきの機械かなんかの声、音声は本当になんだったんだろう?
「…………」
さっきの言葉、あれってゲームでよく流れているような音声だったよね。もし、その言葉が幻聴などではなく、本当の事なのだとしたら……。
「《ステータス》……いや、やっぱり、そうだよね。深夜テンションだからおかしくなってしまったか。そんなことを妄想していても意味な……」
そう言葉を言いかけて、でもやめる。目の前の景色に、俺は自分を疑ってしまった。
「えっ……え?」
『ステータス』と、そう告げた瞬間に、僕の前には透明のガラスのような画面が現れたのだ。
その画面は、僕の身体よりは小さくて、でも、僕の頭よりは少し大きい、それくらいの大きさの画面だった。
「な、なんだよ……これ……。ありえないだろ」
そして、そこにはこう書かれていたのであった。
名前 青柳千尋
人間 LV1
HP 10/10
MP 20/20
力 2
耐久 2
敏捷 2
器用 2
魔力 0
SP 5
JP 5
職業
無し
スキル
鑑定Lv1洞察Lv1解析Lv1
「……というか、まずなんでこんなものが現実に出てしまうんだろう?」
《この地球において、初めてのステータス確認を確認しました。》
《ボーナスとして、スキル 観察を確認しました。》
《スキル 鑑定、スキル 観察、スキル 洞察、スキル 解析が統合されます。》
《スキル 鑑定、スキル 観察、スキル 洞察、スキル 解析は統合され、ユニークスキル ナビゲーターを獲得しました。》
「えっと。何かいろいろ聞こえてくるけど、これは夢か……な? いや、うん。きっとそうだ」
こんなこと、ありえるはずがない。ありえてなどならない。
こんなの自分でも分かる。さっきは異世界に行きたいなどと夢物語を吐いていたが、きちんと現実は理解している。
モンスター倒して楽々知能を上げよう? ……は? 何を言ってるんだ? そんな異世界がもしあったとしても、そんなのごく一部の人間にのみしか不可能だ。
僕は、平凡の中の平凡。だから、……そんな世界にでもなりにしたら待っているのは絶望だ。
……それに、そもそもそんな世界自体ラノベなどの創作の世界でしかありえるはずがない。
言動がおかしくなったことによって、脳までおかしくなったのか、と思った。もしかしたら、いつの間にか寝てしまっていて、もう夢の中なのかも……とまでも。
僕の頭の中では、いろんな情報が交差していき、一向にまとまる気配がない。眠さで思考能力が低下しているのだろうと考え、僕は一直線でベッドに向かい布団に潜った。
これが現実ではないように、と手を合わせて祈りながら。そして、眠りについたのは、この緊張がだいたい安らいでいった1時間後のことであった。
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