第2話 鬼婆の末路

  神亀丙寅(西暦七二四~七二九年)の頃。紀州(紀伊国。現在の和歌山県、三重県南部辺りの事)の僧・阿闍梨あじゃり祐慶ゆうけい東光坊とうこうぼうが安達ケ原を旅している途中、日が暮れて、一軒の岩屋に宿を求めた。


 岩屋には一人の老婆が住んでいた。老婆は祐慶を快く招き入れ、桛輪かせわを使い糸を紡いで見せた後、薪が足りないので取りに行くと言った。その際、奥の部屋を覗いてはいけないと祐慶に言いつけてから出て行った。


 しかし好奇心から祐慶が奥の部屋を見ると、そこには人間の白骨死体が山のように積み上げられていたのだ。驚愕した祐慶は、安達ケ原に旅人を襲っては血肉を食らう鬼婆がいるという噂を思い出した。


 祐慶はこの老婆が件の鬼婆だと感づき、岩屋から逃げ出した。


 暫くして岩屋に戻った老婆は、祐慶が逃走した事を知ると、恐ろしい鬼婆の姿に変わり、猛烈な速さで追いかけてきた。

 祐慶のすぐ後ろまで鬼婆が迫っている。祐慶は旅荷物から如意輪観世音菩薩像を取り出して必死になってお経を唱えた。


 すると菩薩像が天に舞い上がり、光を放ちつつ破魔の白真弓に金剛の矢をつがえ、鬼婆を射殺した。


 こうして、鬼婆と化した「岩手」は悲惨な最期を遂げた。


 鬼婆を埋葬した場所を「黒塚」といい、これは現在の観世寺の寺内、阿武隈川の近くにある

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