第2話 入部を求める!!

 首輪をつけた男犬飼いぬかいけいの自己紹介は終わり、次は私だ。こんな男の後なんてやりにくいというか、こっちまで変な目で見られそうで怖い。だけど、ここは勇気を持って。


飯田いいだ華麗かれいです。趣味は演劇鑑賞で小さい頃からずっと好きでこの学園に来ました。よろしくお願いします。」


 パチパチと皆拍手をしてくれたが、犬飼の前より音が小さい気がする。やはり、犬飼に勢いを持っていかれたのだろう。嫌悪感を抱きながら自己紹介が最後までいくのを待つ。自分の意識を無に帰すかの如く時をまち、ただひたすらに【無】を極めた。そして彼女にとって待ち侘びた時間にして、脳内で慶賀したいほどの時がきた。


「はーい!みんなの素敵な名前や趣味が聞けて先生うれしいです!」

地獄の自己紹介は終焉を迎え、意識を戻す。そして先生は日程が書かれている紙をファイルからとりだし、指でなぞる。


「次は誰かに教科書などを取りにいってほしいのだけれど、誰かいってくれる人」


「はい!」


 真っ先に手をあげたのはあの犬男で目をキラキラさせながら先生に忠実に痛いほどの視線を送る。


「犬飼くんとあと2人ぐらいお願いしてもいい?」


「じゃあ、俺がいきまっす。」

「ありがとう河北くん。あと1人ね」

「じゃ、僕も」


「ありがとう漆原くん!。それでは犬飼くん 河北くん 漆原くんの三人はこの後選択A教室に。場所は二練の一階にあるから地図もあるしわからない場合は先生方に聞いて」


「はい!」


 その言葉が発せられたのちに鐘の音が響きわたって、授業がおわりをむかえる。そして彼ら3人組は知恵の結晶である学びの書物教科書を手に入れるため、選択Aに歩を運ばせる。


「それでは、皆さんまたね」

 担任は手を振りながら教室を出て行き教室は騒めきがおきて、雑然とした音が鼓膜を刺激して疲れる。


「うるさいなぁ、もう」

「華麗ちゃんもそう言わずにさ」

「ん?誰かと思ったらいずみんか。」


 話しかけてきたのは、小学時代の友人【みなもといずみ】初めて名前を見た人が源泉げんせんと読むのがテンプレとなっている。頭がいいので中学からは進学校に行っていたのだが、こんな所で出会うとは世の中狭いな。


「よかったぁ、知っている人がいて、そうだ学校終わったらお茶しない?」

「いいけど」

「やった!」


「ハァ、ハァ、重たい。んぬぅ、よいしょと」

「重すぎんだろ。」

「河北が迷うから時間ギリギリじゃん」

「うっせ!」


 知恵の結晶を手に入れた3人組が帰ってきてチャイムがなり、それと同時に担任もきた。


「席について、3人ともありがとうね!」

「いえいえ、お構いなく」


 担任はニコッと笑うと男子の心に矢が刺さった。だが、犬飼には刺さらない。


「犬飼くんたちがとってきてくれた教科書を後ろに回して名前を書いてね!」


 回された教科書知恵の結晶に名前を書く。ネームペンの匂いは少し癖になりそうな匂い。新品の教科書も何故かその匂いが癖になる。多分これは匂いフェチにしかやからないかもしれない。


「みんな名前かけたかな?次は入部届けの紙を回すからそのあと説明するからちゃんと聴いてね!」


 二週目の配布物


「みんなとどいたかな。それじゃあ、各部活について説明するよ!まず、この科に関係深い【演劇部】から、演劇部は『第一軍』『第二軍』『第三軍』に分かれているの。その中で第一軍の緋色の鳥は全国トップクラス。演劇部で数多の賞を獲得している紅将ヶ學園の誇り。」


 一息ついて


「そして、第二軍の創作企画班及び舞台製作班ね、この演劇は台本制作や舞台製作が主な演劇部何か物語を作るのが好きな子はこっちをおすすめするわ!あと、台本大賞もあるから将来的にも有利になれる可能性もあるわね!」


 話疲れたのか担任は少し汗ばんできている。演劇は重要なだけに念入りに説明しているのがわかる。


「続いて第三軍の紅の演劇。これはまぁ、頑張っている演劇部よ。うん。あ、それと演劇部に興味がある人は放課後第一多目的ホールにきてくださいとのことだから興味がある人は忘れないように!!」


 腕でおでこの汗を拭いてまた一息。部活紹介は運動部系から始まり文化系で終わった。その中で奇妙な部活もあるがそれは後々。


「もう決まっている人は書いてもいいし、見学に行ってからでも全然大丈夫だから、あと締め切りまでに出せなかった人は強制的に帰宅部になってもらうよ」


帰宅部だけは嫌だなと「演劇部」と書き終わった飯田。


「第3軍ってあれだろ。この学園の恥さらし的な部だろ」

「そうそう、スリザリンみたいな」

「紅は嫌だ。紅は嫌だ」

「くれな…」

「緋色の鳥ィィ!!」


 男子はいつものようにふざけあっている。第3軍紅の演劇部はこの學園で悪い意味で有名であり個性豊かな人格とされた者がこの3軍に入る。決して才能が無いなどではなくただ個性が成果の邪魔をしている。

 それが転じてか頭のおかしい部と思われるようになっていった。


「男子静かにね。紅の演劇部は確かに実力はないかもしれないけど、入ってみれば楽しいかもしれない。それはいつか紅の演劇部が実力以上の部となる日がきっとあるから」


 格言を放ったとき授業が終わり今日の日程はホームルームと演劇部の集まりだけとなった。休み時間は源泉みなもといずみとどこの部に入ったか、放課後どこに行くかなどを話して切り上げた。



「ホームルームをはじめまーす!特に伝える事はないんだけど、明日の日程だけかな。明日は役員を決めていくのと、学年集会があるだけだから荷物は筆箱ぐらいかな。チャイムなるまでゆっくりしてていいよ」


 普通科演劇コースは名前の通り特出して演劇の技能を学ぶ、社会進出の最前線と言われている。


 大会には出ず技能を学ぶだけなので、大体クラスのみんなが演劇部に入り大会に臨む。


 いつものベルが鳴り響き下校の時がやってきた。演劇希望者はこの後多目的ホールに行かなくてはならないので、飯田も犬飼もそして源泉もクラス皆が向かいはじめた。やはり入る部は一緒といったバーゲンセールのおばちゃんたちのようだ。


「みんな落ち着いて!転ばずに!!」


 そういい教室には担任1人となった。静かになる教室に窓から隙間風が音を立てて寂しさを強調している。その頃、多目的では、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた入れ放題の落花生のような光景が広がっていた。


「ちょ、もうちょっとあっちいけよ」

「誰かが押してんだよ」

「ウェンペ ワタリ エパタイ!」※直訳 馬鹿者 愚かな人たち

「くっ、苦しい…」

「f○ck」


 様々な語彙が飛びかいグローバルな高校ならではの展望。多目的ホールの戸が開き第一軍の緋色の鳥の部長らしき人が現れた。


「黙りなさい!!」

怒涛の聲が鳴り響きあたりは鎮まり返った。


「これから、演劇オーディションを開催します。中に入って。」


 廊下に居たものは多目的ホールの中へ入るとそこはプロが使うような巨大な舞台に観客席は千を超している。ここはもう多目的ホールなどではなく舞台劇場であり、なぜ多目的なのか分からなくてなってくる。


「みなさーん、席へお座りくださーい!」


ゆるふわな先輩が生徒を誘導している。生徒が席に座ると先程の女が。


「よし、では貴様から行こう。こっちへこい」

「はい」

呼ばれたのは犬飼で、舞台裏に連れて行かれた。すると舞台裏から声が漏れて聞こえてきた。


「名前と出身校を答えろ。」

「犬飼啓。絢桜中学校出身です」

「犬飼ってことは犬飼グループの子か?」

「はい。そうですが」

「そうか、次に何故この部にきた?」

「生きがいを追い求めてきました。」

「生きがいとは?」

「ご主人様です!」

「…誰だそれは」

園南寺えんなんじ 琉奈るな先輩です!」

と答えたら部長かもしれない人がそっぽを向いて顔をしかめて小声で

「変な奴に好かれたものだな。妹も」

といったが、犬飼には聞こえていない。

「ん?なんです?」

「いや、なんでもない。犬飼、貴様は何か能力は持ってるか?」

「ゴキの能力と犬の能力を持っています。」


 そう発言すると部長と思われる人が密かに笑い不気味な顔を見せこう命じた。


「なるほど、犬飼。貴様の配属先が決まった喜べ第三軍紅の演劇部だ!」


「そこに園南寺先輩はいるんですか?」

「私も園南寺だが、まぁお前が求めている女子はそこにいる。」


 犬飼の目がきらきらと宝石の様に輝き出した。そして部長らしき人は(ゴキブリの能力とか使えんし気持ち悪い)と小声で発していた。犬飼はそのままルンルンと多目的を去っていった。


「どんどんいきますよーー!次は君!」

 指を刺した方向には飯田がいた。

遂に私の番がきた。ここで答えを間違えれば第三軍送りにされる。それだけはどうしても避けたい、今までの苦労を水と泡にさせたくない。


 席を立ち、舞台裏に行くとパイプ椅子と1つの机を挟んでもう一つのパイプ椅子に緋色の鳥の部長が腰掛けている。

 それはまさに面接官と受験者の構図である。


「名前と出身校を」

「飯田華麗です。出身校は龍河谷中学校です。」

「この部にきた理由は?」

「私は小さい頃から演劇が好きで習っていました。そしてこの演劇でトップクラスを誇る紅将ヶ学園の緋色の鳥で更に高みを目指したいと思ったからです。」

「次に能力は何か持っているか?」

「短期記憶です。」

「それ以外に他は?」

「ないです」

「では、どの程度記憶できる?」

「教科書や国語辞典などは全て覚えられます。」

「なるほど、ありがとう。君の配属先は…」


短いオーディションに不安を抱き冷や汗をかきながら部長の言葉を聞いた。


「紅の演劇だ。」


私はその言葉に意を唱えた。

「そ、そんな私の何処が悪かったんですか!?」

「聞きたいのか?」

「もちろんです!」

「君は演劇に対する情熱は凄く伝わってきた。だが、それだけに過ぎない。私は君の実力がわかる。本当に頑張ってきたのだろうね。だけどそれ以上に頑張っていれば緋色の鳥に入れた。」


「私の頑張りが足りなかった…」

「そうだ。これで君のオーディションは終わりだ下がりなさい。」


「まって!まだ」

何かを言いかけた後に

「副部長、連れて行け」

「はーい。可哀想だけど、これ以上言ってもよ」




 飯田は副部長に舞台裏から下ろされた。色んな意味で…


第二話 入部を求める!! 完

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