聡side

電話が切れた後、俺は由藍に電話をしながら山爺を連れて藍の家へと行った。

幸いな事に結構近くに山爺と居た事で早く着くことが出来た。

部屋の中を見て俺は呆然としてしまった。


腹にナイフが突き刺さった藍、青白い顔で眠る姫様。

何だこれは。


「坊主!早よ動け!

時間との勝負じゃ!」


「あ、あぁ」


慌てて山爺の手伝いをしながら俺は由藍に電話したりと大忙しだった。

普通に救急車を呼ぶわけにはいかない。

この問題を表に出す訳にはいかない。


二人を送り出した後、俺は監視カメラの映像を見た。

ナイフを突き刺す瞬間、藍は泣きながら今まで見た事がない程綺麗な笑顔で笑っていた。

まるで、全てから解き放たれた様な顔で。


結局俺は藍の何者にもなれなかった。

藍の中はあの子でいっぱいで、あの子しか居なかった。

だからこそ、腹が立つ。

アイツは藍の中に居るのに、あんなに藍に想われてるのにひたすら逃げてるアイツが腹が立つ。

向き合う事もせず考える事すらせず逃げるアイツが腹が立つ。


藍は確かに愛し方を間違えた。

だけど、藍はアイツをちゃんと守ってた。

アイツの親からもアイツが本当なら払うべき借金からも。

藍が居なければアイツは今頃風俗で死ぬまで働いてるか臓器抜かれて死んでる

それを知らずに藍を傷つけるアイツが嫌い。

自分だけが悲劇のヒロインだと思ってるアイツが嫌いだ。


「聡ー、顔怖いぞー」


「しょうがないじゃん

俺は藍が大切でアイツの事なんて本当はどうでもいいんだから。

だけど、藍の頼みだから…嫌でもちゃんと最後まで面倒は見る。」


藍に頼まれたから。理由はそれだけ。

それ以外に理由なんてない。


「でもとりあえずは山は乗り越えたから後は藍の生命力次第かぁ…

……アイツ生きる気ないだろうなぁ」


その言葉に思わず足が止まる。

考えたくない。でも、わかってる。

藍は……死にたがってる。

自分の事を分かってるから、生きてる限り藍はアイツに縛られてるから

だから…藍は……生きるのをやめた。


「親父も珍しく泣いちゃってさぁ、愛人総出で慰めてんだよねぇ

唯一の血の繋がった息子だし、しょうがないかぁ」


ねぇ、藍。

俺は、お前にちゃんと何かをあげられていたかな。

藍がアイツが居ないと生きていたくないと思う様に

俺も……お前が居ないと生きていたくないよ


「俺達は、今やれる事をやろうかぁ

後始末もだけど、藍の頼み聞いてやんなきゃねぇ」


泣く俺の手を引いて由藍は歩いた。


藍の頼み、それを聞いたら……俺も藍の元にいってもいいのかなぁ


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る