第2話
フッと彼は顔を上げ二カッと笑った。
涙は絶え間なく流れていて口角も震えていた。
下手くそな…作り笑い。
「アンタが…一番幸せそうに笑っていた時間だから……だってさ。
アンタは一度でも藍をちゃんと見てくれた?
一度でも…藍に向き合ってくれた?
なぁ………アンタにとって藍は何だったんだ…?」
「わ……たし……」
ガラッ
「あ、いたいた。
お前この部屋入んなって言われたろ?
それにその子目覚めたなら連絡しろよ!
知ってる?ほうれんそうって!!報告連絡相談!これ大事〜」
仄かに藍ちゃんに似た男の人。
でも全然違う。…彼じゃ…ない。
「それ由藍だけには絶対言われたくない!
行きます行きます
あ、アンタはまだ退院出来ないから。
医者が帰っていいって言ったら帰ればいいよ。
藍はもうアンタの前には現れないし好きに生きればいい。
あぁ、あと一個だけ。
アンタは悲劇のヒロインなんかじゃねぇよ。
アンタは舞台にも立ってねぇ観客だ」
そう言って彼等は去っていった。
私にとって藍ちゃんは何だったんだろう。
好きな人、憧れの人。どれも当てはまるしどれでもない、そんな気がする。
彼が言った事は、全て正しかった。
私は彼の愛に向き合わなかった。
身を任せて上手く泳いでいたつもりの魚だった。
だから、私は何も知らない。藍ちゃんの事。
いや……知ろうとすら…しなかった。
向き合えば私は彼を傷つける事があるだろう。
彼も私を傷つける事があるだろう。それが嫌だった。
私と彼の愛の重さの違いに気づくのが嫌だった。
幸せなだけの時間にずっと居たかった。
甘やかされて愛されるだけの時間に。
その裏にどれだけの苦悩があったかなんて知らないフリをして。
藍ちゃんが好きだ。
でも本当に…そうなんだろうか。
私は、愛して優しくしてくれれば藍ちゃんじゃなくても良いんだろうか
私は悲劇のヒロインに酔っていただけなんじゃないだろうか?
虐められ拐われレイプされ監禁され、これが漫画の世界なら悲劇のヒロインだ。
彼と話した事で、彼の話しを聞いたことで分からなくなった。
いつも、藍ちゃんは私の横を歩こうとしていた。
私はそれを分かっていながらいつも距離を開けて歩いていた。
藍ちゃんが一歩此方へ歩み寄る度私は二歩距離を開けた。
怖かった。愛されるのが怖かった。大切にされるのが怖かった。
親にも愛されなかった私が愛されるのが怖かった。
あの人達はいつも言っていた。愚図で馬鹿な私は誰にも愛されないんだって
役に立たない愚図はいらないんだって
ずっとそう言われて育った。
あの人達は私を決して殴りはしない。
誰かに分かるようなネグレクトもない。
ただ、私が居ないように生活するだけ。
思い出したように私を見てたまに罵倒するだけ。
私は居るのに…まるで透明人間になった気分だった。
目の前で話しかけても目すら合わない。
ピクリとも反応しない。
そんな家に居たくなくて私は散歩する様になった。
出来るだけ遠くへ出来るだけ時間をかけて私は歩いた。
外では、私は透明人間じゃなくなるから。
外でなら…私は私で居られるから。
藍ちゃんは私を好きだと愛してると言う。
私以外あり得ないと、私とずっと居たいと言う。
私はその言葉を信じられなかった。
自分に自信がなかった。
彼といる事で私の欠点は、見たくない部分はどんどん浮き彫りになる。
欠点だらけの私を周りは許さない。
彼の隣にいる事を許さない。
皆彼が好きだ。彼の隣に自分が立ちたいと思ってる。
でも、彼の隣に立つのは彼に相応しい人が立ってほしいとも思ってる。
それは決して、私の様に流されるだけの女じゃない。
私は………何がしたいんだろう。
もう分からない…分からないよ。
いつも、藍ちゃんが引っ張ってくれた
こっちだよって道を示してくれた。
暗闇の中の光だった。
だけど、彼は居ない。
私が望んだから、彼は私を自由にする為に居なくなった。
これが私の望んだ事……?
本当に?
分からない、何も分からない、分かりたくない。
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