さーん。

第1話

「………ここ何処……」


また…知らない天井。

辺りを見渡すと私の腕には包帯と点滴がつけられていた。


「‥…病院…?」


あ………私ナイフで……死のうとしたんだ……

あぁ、死に損なったのか。

これでもう藍ちゃんは私の前に刃物を置く事はないだろう。

一生あの鳥籠で生きていかなきゃいけない。

どうしてこうなったんだろう。

私は…ただ藍ちゃんが好きで…一緒に居たかっただけなのに。

どうして……?


ツゥーっと頬を涙が流れる。

どれだけ泣いても泣いても涙は枯れない。


ガララっ


「……目覚めたのか……?」


入って来たのは何処かで見た顔だった。

何処かで会った気がするけど、思い出せない。


「あ……なた…は?」


「あぁ、そっか。覚えてないよな。

俺は聡。藍の中学からの友達。」


藍ちゃんの…友達。

そういえば、藍ちゃんのそばにいつも居たような…

藍ちゃんは自分の事を全く話さない。

いつも私を気にして私の話ばかりだった。

だから私は彼がどんな風に生活してきたのか、どんな物が好きなのか知らない。


「藍…ちゃんも……来てるの…?」


「此処には居る。

だけど、姫様の前には……きっともう現れない。」


「どういうこと…?」


含みがある言い方。

それに姫様って………私の事?


「藍は今集中治療室に居る。」


「な……んで……」


事故?事件に巻き込まれた?

どうして、どうして藍ちゃんが…?


「何で…?そんな事わかってるだろ。

藍は、姫様が……いやもうこの際いいか。

アンタが生きがいだった。アンタの為に生きていた。

アンタの笑顔が見たい。アンタを幸せにしたい。

アンタのそばに居たい。その一心で動いてた。」


あぁ、久しぶりだ。この目は。

私に向ける怒りの目。憎悪の目。


「アンタは自分で自分の命を終わらせようとした。

そこまでして藍から逃げる選択をした。

藍は、アンタにとって自分が居る事が害なのだと思った。

だから………っだからっ…自分で自分を何度も刺した!」


藍…ちゃんが…自分刺した…?

なんで?どうしてそんな事をする必要がある。

私が、勝手に死のうとしただけ…なのに。


「自分が居なくなる事でアンタが幸せになる道を藍は選んだ。

この意味が…わかるか。

……わからねぇよな。アンタは昔からずっと逃げてるんだから。

藍に向き合う事もせず、自分の気持ちと向き合う事もせず、ただ流れに身を任せてた。

逃げたのだってその道が楽だから。そのレールを敷かれたからそれに沿って走っただけだ。

アンタがもっと向き合ってれば、アンタがもっと藍を分かっていたらこんな事にはならなかった!」


「っ……」


泣きながら拳を握りしめるこの人は…きっと藍ちゃんがとても…とても大切なんだろう。

だから私が許せない。だから私が憎い。


「確かに藍の愛し方はおかしかったよ。

アンタを手に入れる為に沢山の酷い事をした。

でも…仕方ねぇじゃんかよ。

アイツ……愛された事無かったんだから。

やり方が分かんねぇのに…何が正解かも分からねぇのにさ……どうしようもねぇじゃんかよ」


泣きながら顔を伏せる聡さん。

彼は、きっと私より藍ちゃんを知っていて理解してるんだろう。

私には踏み込めなかった一歩を…彼は踏み出せたんだ。


「藍は……アンタが好きで好きでアンタの写真を見るだけで笑う奴だった。

俺さ、アンタの話昔から聞いてたんだ。

いつも藍が言うんだ。アンタとの昔の話。

花畑での日々を…アイツ…よく話してくれた。

アンタが居なくなってからも正気を失ってからも

ふと正気に戻った時に言うんだ。

あの日に帰りたいって。自分が全てを壊す前のあの日に戻りたいって

その為ならどれだけ自分の体を傷つけてもいいから戻りたいって。

何でだと思う?」


「わ…から…ない。」


私には分からない。藍ちゃんがどうして私に執着するのか。

どうして…私なんかの為にここまでするのか…わからない。


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