第17話

彼女が居ない毎日は、俺の心をどんどん蝕んでいった。

切望し絶望し発狂し怒り狂う。

自分でも自分が分からない。自分で自分を止められない。


彼女は自分を守る為に俺から離れた。

彼女は俺が彼女のレイプを指示し浮気した糞男だと思ったから、だから書き置き一つで出ていった。

見せられた写真は本当に良く出来ていて本人で無ければ普通に信じてしまいそうな完成度だった。

それでも、俺は言って欲しかった。

怒りでも悲しみでも何でもいい。俺にぶつけて欲しかった。


でも、彼女は俺には何も言わず全て一人で抱えていなくなった。

朝が来る度に絶望して、夜目を瞑る度願う。

また彼女と居れる様にと。


彼女を迎えに行くのは簡単だった。

場所もわかってる。合鍵も手に入れてる。

本当は…すぐに連れ戻す事もできた。

それをしなかったのは、何でだろう。

自分でもよくわからない。

ただ、怖かったのかもしれない。

俺は彼女に嫌われたくない。

だけど、俺がする行為を彼女は受け入れられない。

一方通行の愛は膨れ上がって爆発する。

その時…俺は彼女を傷つけないと言えるだろうか…?


そんな事をグタグタと悩みながら彼女を迎える籠を準備した数年だった。

久しぶりに見た彼女は、俺を見て怯え、恐怖した。

その時…どうにか保っていた理性が切れた気がした。


そこからは流れる様に事が進んだ。

彼女を鳥籠に入れて彼女が気絶しても抱き続けた。

体中に噛み跡やキスマークをつけても彼女を拘束しても俺は安心出来なかった。


俺は分かってたんだと思う。

もう一度彼女を手に入れたらどうなるか。


「ら………ん………?」


腕から血を流して真っ白な顔で眠る蘭。

腕からは骨が見え隠れしていた。


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「藍?姫様と居るのにごめんな。

ちょっと話したい事があんだけど………藍?どうかした?」


「聡………蘭が………死んじゃう」


呆然と蘭を見ている事しかできなかった。

女の力であそこ迄切るなんてどれ程勇気がいるか

痛みに弱い蘭が此処までするなんてどれ程の事か理解したくなくてもわかる。


「はぁ!?どういうこと!?」


「蘭が…自分で腕を切った

いつ切ったのかわからない……でも……蘭の血が……沢山…出てる」


赤く染まるシーツ。

真っ白だった蘭の寝間着も真っ赤に染まる。


「今から山爺連れてそっち行くから止血して!!

藍!!出来るよな!?お前がしっかりしないと姫様助けらんねぇだろ!?」


そう言われたのに俺の体は動かない


「聡……俺が蘭を助けて良いのかな…?

だって蘭は俺から離れたくて死を選んだんだ……

それを邪魔する権利……俺にあるのかな…?」


分からない、分からないんだ……

俺は蘭が欲しい。きっと生きてる限りその欲は消えない。

蘭には笑っていて欲しい。蘭には…………幸せでいて欲しい。  

だって、俺は蘭の笑顔が……大好きなんだ。


「あぁ………そうか。

答えは簡単だったじゃないか……

聡…蘭の事頼むよ。」


「おい!藍っ!!?」


電話を切って藍の腕を止血する。


「蘭、好きだよ。大好きだよ。

俺は蘭しかいらない。蘭が居るだけでそこが例え地獄だろうと…幸せなんだ。

蘭には幸せになって欲しい。笑顔でいてほしい。

その為なら俺は何でも出来る

でも、今蘭を苦しめてるのも傷つけてるのも…俺だよね」


スッと頬に触れる。

ピクリともしない蘭は、まるで人形だ。


「好きになってごめんね。

出会ってごめんね。

沢山……苦しめてごめんね。 

愛してるよ、蘭。どうか……幸せになって。」


俺は血に塗れたナイフを手に取り自分を刺した。


頬を伝う涙は、なんの涙だろう

悲しみ?苦しみ?それとも後悔?

全部かもしれないし、どれでもないかもしれない。


少しでも君と居れた。

本当はもっともっと一緒に居たかった。

愛してる、愛してる。君だけを愛してる。


ずっと……君だけを。

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