第12話

それからの俺はというと幸せの絶頂にいたと思う。

蘭が側に居るのが幸せで俺は、浮かれすぎていたんだと思う。


俺の幸せが崩れたのは本当に突然だった。

ある日突然1つの書き置きだけを残して蘭は消えた。

文字通り突然消えたのだ。

消える前日も蘭の態度は普通で俺を好きだと愛し合ったばかりだ。


書き置きには


藍ちゃんへ


突然居なくなってごめんなさい。

だけど、私達は一緒に居ない方が幸せになれると思う。

藍ちゃんの幸せを願ってます。



簡潔に書かれた手紙。

蘭は同棲し始めてすぐくらいからこの部屋に盗聴器やカメラがあるのを知っていた。

毎日見ていたがおかしな事は無かった。

どうして。その思いが頭をぐるぐると回る。


いや、でも大学は一緒だ。

蘭はあの大学しか受けていない。

大学に行けば会える。会えさえすればどうにかなる。


そう思っていた俺の一欠片の希望は大学に入ってこなごなに砕けた。

蘭は試験を受けてはいた。受かってはいた。

だが、合格を辞退した。

それが現実だった。


蘭一人で此処まで完璧に居なくなれるだろうか?

アルバイトなんてさせていなかったし

欲しい物は一緒に買いに行っていたからお小遣いなどもあげていなかった。

逃亡資金は何処から来た

それに監視の目を掻い潜ってどうやって荷物を運び出した?

どうやって……この計画を気づかれずに立てた?


裏切り者が何処かに居るはずだ。

蘭に余計な事を吹き込んだ奴が。






「久しぶりー!藍!

この家に呼ぶなんて珍しいじゃん!

お姫様は大学?」


能天気に来た聡とその後ろを着いて歩く深雪。


「聡、お前俺に隠し事…してないよな?」


「隠し事?なんの事?」


ピクッと口角が引き攣ったのが見えた。


「お前やっぱり嘘下手だよな。

蘭に何を吹き込んだ。今言えば……半殺しで許してやる」


ガンっと頭を床に叩きつける。


「いっ……な、何も吹き込んでないっ!

この家に入るのなんてお姫様が来た日が最後だぞ!?」


フゥーっと煙草を吸う。

駄目だ焦るな。今ここで殺すのなんて簡単だ。

だけど、情報が足りない。

此処で殺すのは愚策だ。


「じゃあ、質問を変えようか。

誰に、何を、吹き込まれた?」


その言葉に反応したのは聡ではなく深雪だった。


「お前何を知ってる。

言わねぇなら………わかるよな?

お前の大事な大事な聡君とサヨナラすることになるぞ?」


「み、深雪…何か…したのか………?

グゥッ…」


「さ、聡くん!?

言う!言うからやめて!!」


聡の腕を踏みつけ持っていたタバコを押し付けた。


「早く言え」


「た、頼まれたの。

貴方と……蘭さんを引き剥がせって

やらないと聡君を…っ殺すって……っ」


「誰に頼まれ、何をした。」


「やったのは…貴方の浮気の偽造とイジメ…

た、頼んだのは………貴方の………お母さん…」


「それどいつだ」


聡の上から退いて机に置いておいた携帯から女の写真をいくつか見せた。


「こ、この人」


「此奴は母親じゃねぇ

自称親父の妻やってる奴だ。」


親父には妻は居ない。昔は居たのかもしれないが

俺が居た時には居なかった

愛人は何人か居たが、愛人でもないのに自称妻を名乗る女は結構いた。

親父の愛人達は聡明で自分の立場をよく理解していて出しゃばらない女達だった。

まぁ、だから親父の愛人なんてものを続けられるんだろうが。


「チッ、後始末ぐらいちゃんとやっとけよ」


何で俺が親父の愛人問題に巻き込まれなきゃいけないんだ。


俺は苛立ちを隠さずに親父に電話をかけた。



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