第7話

次の日は早めに学校に行きクラスで蘭が来るのをジッと待った。

寄ってくる女共は上手く聡が散らしてくれたから結構楽だった。


入って来た蘭の頬には少し大きなガーゼが貼られていた。

俺は無言で立ち上がって蘭元へ行った。


「昨日はごめんね。また後で話そう?」


キョロキョロと辺りを見ながら申し訳なさそうにする蘭。

俺は蘭の頬に手を滑らせ


「ねぇ、此処どうしたの?

昨日帰る前はなかったよね?」


どうしたかなんて知ってる。だけど蘭の口から聞きたい。


「ちょっとドジって壁に激突したんだよね」


なのに蘭は嘘をついた。

下手くそな笑顔で困ったように笑って俺に嘘をついた。


「蘭。俺に嘘つくの?

蘭だけは俺に嘘つかないと思ってたのに。」


今にも爆発しそうな感情。

これでも頑張って頑張って抑えてる。

蘭を傷つけたくなくて、出来るだけ蘭の意思で俺の元に来てほしいから我慢してる。

だから、どうかこれ以上俺を煽らないで欲しい。


「………ごめん。」


眉を下げて謝る蘭。

違う。俺は謝罪が聞きたいんじゃない。


「もう一度聞くね?コレ、どうしたの?」


蘭が言いやすい様に出来るだけ優しい声で聞いた。


「……少しイザコザがあってビンタされただけだよ。

大丈夫だから。」


ビンタされたのに大丈夫?何が?何処が大丈夫なの?

怪我までして何処が大丈夫だというのか。

どうしてそこ迄相手を庇うのか


「…………誰?誰にやられた?」


無意識に蘭の手を握る力が強まっていた様で蘭の顔は苦しげだった。


「大丈夫だから、気にしないで。」


蘭は頑張って笑ってるけど、気にしないなんて選択肢俺にはないし

何も大丈夫じゃない。


「気にしないなんて出来るわけない。

蘭、俺には教えられないの?」


「そういう訳じゃないけど」


「じゃあ、教えて」


チラッと蘭の目線が俺から外れた。

その視線の先を見ると深雪が所属してるグループの内の1つがあった。


「……今のでわかった。

お前らか。蘭に傷つけたの」


俺はフラッとそっちへ行った。

視界の端で深雪が聡の方へ逃げていくのが見えた。


「な、何言ってるの?榊君

私達何もしてないよ!ねぇ!?」


「う、うん!あの子が嘘ついてるんじゃない?」


ガンッ


耳障りな声を黙らせたくて机を蹴った。

シーンと静まり返る教室。


「蘭が嘘つく訳ないじゃん。

誰の許可があって蘭に傷つけたの?

もし一生傷痕残ったらどうするの?ねぇ、どうするつもりだったの?」


俺が一歩近付くと相手も一歩ずつ後ずさっていく。

俺の蘭に傷つけて何でこいつら笑ってたの?

おかしいじゃん。普通におかしいよね?

それなら俺がこいつらの顔グチャグチャにしたって笑って謝れば許されるんだろ?


俺が拳を振り上げた時だった


「あ、藍ちゃん!私大丈夫だから!ね!?

ちょ、ちょっと行くよ!」


蘭が俺の手を掴み何処かへと走った。

目的地はどうやら蘭がお昼を食べてる所だったようだ。


「藍ちゃん。私大丈夫だから、気にしないで?

これも今は腫れてるけどすぐ治るから!ね!?」


必死に大丈夫だと、私は平気だと言う蘭。

どうしてそこ迄あいつらを庇うのか。

肩を外され頬にも傷をつけられたのに、どうして?


俺がやっぱりあいつら殴っとこうと思って立ち上がると凄い勢いで止められた。



「俺のせいだ。俺がちゃんと着いてれば怪我なんてさせなかったのに。」


可愛い顔についた傷。他人がつけた傷。

蘭に触れるのも傷つけるのも俺だけであって欲しいのに。

どうしてあの時俺は蘭を迎えに行かなかったのか。


「泣かないで、藍ちゃん。

藍ちゃんのせいじゃないよ。私は大丈夫だよ。大丈夫だから。」


蘭は俺を抱きしめて優しく背中を擦った。

蘭の腕の中は温かくてトクントクンと聞こえる心音が俺を落ち着かせる。

蘭の服が湿っていて俺はそこで初めて自分が泣いていた事に気付いた。


どうして蘭の前ではかっこいい俺で居たいのに

かっこ悪い所ばかり見せてしまうんだろう。


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