第6話

次の日から少しずつ少しずつ男は蘭と関わらないよう避けるようになった。


「あのね、藍ちゃん。

何でか私避けられてるみたいなの。

私何かやっちゃったかなぁ?」


花畑で宿題をしている時突然蘭が悲しげに眉を寄せて言った。


「誰に?」


草むらに寝そべって宿題をしながら隣で寝そべっていた俺を蘭は見て


「んぅー、誰とかじゃなくて男子に?

私を見るとサァーっと居なくなるし伝達事項とかも教えてもらえない事あってさ」


「そうなんだ。

それじゃあ、これからは俺が伝達事項とか教えるよ」


「ありがとう、藍ちゃん。

だけど、気持ちだけで充分嬉しいよ。」


遠回しな拒否。でも俺は知ってる。

蘭は善意でしてる事を断れない正確な事を。


俺は次の日から校内で蘭に話しかけるようにした。

最初は伝達事項を。少しずつ雑談を絡め

最終的には蘭の前の席に座って話すようになった。


ちょっとずつ溜まる蘭への妬み僻み不満。

俺はそれに薄々気づいていた。


それはある日の事。


「藍ー?居るー?」


合鍵で何故か涙目の深雪を連れて入ってきた聡。


「何だよ」


読んでいた本を置いて二人を見た。


「んー、多分怒るだろうから先に言っとくけど深雪は悪くないからね?深雪を怒ったりしないでね?」


「なに、突然。

悪くねぇなら怒らねぇよ。」


「あんね、今日藍の愛しの彼女の呼び出しがあったんだって。

それでその場に深雪も居たわけなんだけど

どうやら溜まった不満を暴力という形ではらそうとした奴がいたみたいなんだよね。」


「はぁ?」


思わず冷たい声が出た。

深雪がビクついたのが視界に入った。


「その後病院行ったみたいでね、蹴られた肩がはずれかけてたみたいで病院で戻してもらったみたいなんだけど

ビンタされた時に爪が当たって頬に切り傷みたいなの出来てる。」


フラリと立つ俺を見て聡はスッと深雪を守るように深雪の前に出た。

俺は無言で聡を思いっきり殴った。

それを見て深雪は漏らして聡の元へ駆け寄ろうとしたけど、聡に制された。


「うえ。やっぱいてぇ」


「お前らの役割何だっけ?

怪我させないように調整すんのが役割じゃなかったか?なぁ、その約束だよな?」


聡の髪を掴み無理矢理目を合わせる。


「今回は俺の責任だから。

責任は俺が全部取る。」


真っ直ぐ俺を見て答えた。


「責任?どうやって?お前が指詰めたって死んだって怪我した事実は消せねぇだろうが。

お前の女にも同じ事してやろうか?そうすれば俺の気持ちお前にもわかんだろ?なぁ。」


俺が煽りそれを調整して追い込むのが聡達の役割だった。

完全に俺しかいない状態にする為に。


「それ以外なら何でもやる。深雪だけは許してください。」


俺に土下座をする聡を見ても俺の気は晴れなかった。

聡は知ってるから此処までやるんだろう。

俺がやるといったら本当に深雪をボロボロにすることを。


カチッとライターをつけ煙草に火をつける。

タバコを加えて俺は土下座してる聡の頭に足を置いた。


「今迄の付き合いがあるから今回は特別に見逃すけど

次ミスしたら、次はないぞ。」


「っ…ありがとうございます。」


最後に聡の腹に蹴りを入れて俺はソファーに戻った。

とことん俺には喜怒哀楽が欠けてると思う。

蘭が居ない。それだけで俺には何もなくなる。

何をしても何をされても何も感じない。

なのに、そこに蘭が加わるだけで全てが色づき俺にも感情が芽生える。


「さ、聡君っ」


泣きながらいてぇーと言いながら笑う聡に駆け寄る深雪。


「大丈夫だって。だから泣くな深雪。

ほら、藍に話す事あるんだろ?」


「まだあんのか?」


「こ、このまま藍君が関わるならまた呼び出しはあると思う…っ

1回藍君にバレたらっ……もっと陰湿にもっとねちっこくなると思う…っ。

それにもう暴力まで発展してしまったっ…から…後はエスカレートしてくっ…」


聡の手を握りながら視線を彷徨わせる深雪。


「もしこれ以上煽るなら……暴力は回避できないっ…よ」


「やった相手わかってんの?」


「同じクラスの奴だよ。

どうする?」


起き上がって壁に持たれて泣く深雪を膝に乗せて抱き締める聡。


「明日蘭の姿見てから考える。

だけど、もし足りないなら俺が折れる。

暴力ありきでいく。深雪、お前隠れて証拠くらい撮れるだろ?」


「う、うん。

昔聡君が教えてくれた」


何教えてんだと言いたいが今は有り難い。


「それじゃあ、全部一部始終撮れ。録音も忘れるな。

それが出来るなら今回の事水に流して聡にもう危害は加えない。」


「で、できる!やるよ!私!

聡君の為になるなら…私何でもやるっ!

聡君!帰ったらまた教えて?私完璧にやるから!」


後は…明日の蘭次第か……。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る