第5話

俺は学校では蘭に話しかけず、様子を見ていた。

蘭がご飯を食べる所や放課後過ごす所。誰と関わっていて誰を嫌ってるか。

静かに観察していた。


「藍ー!今日の予定は?

学校終わったら遊びに行くんだけど一緒に行かね?」


「学校終わった後は用事あるから。」


聡はクラスのムードメーカーの様な存在だ。

誰とでも仲良くなるけど、深入りはしない。そういうタイプだ。

俺は外面は良くしてるが、あくまでも学校内の付き合いだ。


「あ、そっか。忘れてたわ。

んじゃ、帰ったら連絡くれよ。話あるしー」


「?わかった。」


よくわからなかったが返事をして蘭の方を見ると

どうやら新作の本に夢中のようだ。

たまにホッとした顔をしたり、眉間にシワを寄せてたり

本を読んでるだけなのに感情豊かな蘭を見てるだけで楽しい。


学校が終われば俺は花畑へと急ぐ。

道中鬱陶しい女に纏わりつかれたりする為

いつも蘭より早く来る事が出来ない。

だけど、俺が来た事に気付くとヘニャっと笑う顔が可愛くてこれもこれでイイな、なんて思う自分がいた。

俺はこんな平和な日が続くと馬鹿みたいに思ってた。

多分平和ボケしてたんだと思う。


「あ、あのね、藍ちゃんに相談があるの」


手をモジモジさせて言う蘭。俺が首を傾げると


「あ、藍ちゃんってよく告白されてるじゃない?

私より恋愛とかの先輩だと思うのっ!

あのね、実はこの前同じ図書委員の子に告白されたんだけど

私好きとか良くわからなくてっ…」


可愛い口で可愛い声で紡ぐ言葉は俺の頭に冷水をぶっかけてきた。

蘭が下を向いて花の冠を作っていてくれてよかったと思う。

だって、今の俺はきっと笑えてない。

俺の顔を見たら蘭はビックリするだろう。ビックリするだけで済めばいいけど。


本当の俺は今すぐにでもソイツを殺したいし

無理矢理にでも蘭を抱いて俺だけのモノにしようなんて考えてるんだから。


「どう返事したらいいかなぁ…?」


「俺に任せてよ。」


いつもの声で何でもないように俺は蘭にいった。

蘭は首を傾げながらも頷いてせっせと花の冠を作ってた。



俺は蘭を家まで送り届け、自分の家へ向かいながら聡に電話をかけた。


「あ、ちょっと待って」


聡の電話口からは爆音の音楽が聞こえてきた。

カラオケにでも居るのだろう。


「おっけ。もう帰ってんの?」


「もうすぐ家。

早く来い」


「わお。ご機嫌斜めじゃん。

深雪連れてくけどあたんなよ?」


「苛ついてんだから仕方ねぇだろ

深雪に危害加えた事なんてねぇだろ」


「まぁね。それじゃあすぐ行くわ」


その言葉を聞いてブチッと電話を切った。

整えていた髪の毛をグチャグチャにしてかきあげた。

イライラが抑えられない。

彼女は俺のモノなのに。


「くそっ!」


いつかそういう輩が出るとは思っていた。

だからその前に手をうたなければいけなかった。

もし蘭が俺に相談もなしに返事してたら?

訪れていたかもしれない未来を想像して絶望に襲われる。




家につき部屋着に着替えてソファーに座り煙草に火をつけた。


「ふぅー……あぁっ!クソッ!!」


ガンっと机を蹴ってもイライラは収まらない。

蹴った時にガラスが割れたからか足から血が垂れる


「やほー

わぁ、余程苛ついてんのね」


粉々に砕けたガラスの机を見て笑う聡と変な被り物をした深雪が入ってきた。


「自分のモノに手出されて苛つかずにいれると思ってんのかよ」


「無理無理ー。俺深雪に手出されたら絶対生きてる事後悔させるわぁ。あ、深雪の被り物は気にしないでやってね。

顔見なければ怖くない説検証中だから。」


「何でもいいわ。

それで?話って?」


足に刺さっていた破片を抜きながら聞いた。


「ん?その調子じゃ本人から聞いたんでしょ?告白の事。

どうするかなって」


「どうするも何も撤回させるに決まってんだろ。

二度と蘭に男を近寄らせねぇ。」


「おっけー。まぁ、そういうと思ってそれなりに根回しはしといたんだよねん

俺の人脈まじ偉大だと思わない?」


「根回し?」


俺の足を手当てする聡。

無駄に手際がいいのが腹立つ。


「何事も根回しってやったモン勝ちだと俺は思う訳。

情報もとったもん勝ちだし、手札は多いに越したことはないじゃん。

どうやら告白した図書委員の子って昔イジメられてたみたいなんだよねぇ。

しかもイジメっ子そっくりの子達がたまたま校内にいてさぁ

だからちょーっと情報を、ね?」


ニヤァと笑う聡。

またトラウマでも植え付けてんのか。


「他の方は?」


「そっちも上々よ〜

今日もその関係の遊びに行ってたし、ねー?深雪。」


「う、うん。

私も先輩達に気に入られたよっ!」


「深雪頑張ってたもんね。後で沢山褒めてやるからなぁ」


変な被り物被ってるやつとイチャコラしてる構図はとてもシュールだ。


「計画前倒しの必要が出そうだな。」


「そうだねぇ。違和感なんて感じる前に手に入れなきゃねぇ。

あ、俺達今日ついでに此処で飯食うからキッチン使っていい?」


「勝手にしろ」


「ほーい。深雪一緒に作ろ?」


「うん!作る!」


俺はバカップルを無視して今後の事を考えた。

早く……早く………その思いが頭を占めていく。




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