第8話

教室にはそれなりに人が居た。

私は誰に挨拶をする訳でもなく真っ直ぐ自分の席へ向かい座った。

今日のお昼は薬を飲むのを忘れないようにしなきゃなぁ、なんて呑気に考えながら教科書の準備をしていると

私の席が暗くなった。

何でだろうと上を見上げるとそこには少し怒ったような顔をした藍ちゃんが立っていた。

昨日行けなかったから怒ってるのだろうか?


「昨日はごめんね。

また後で話そう?」


此処で話せば又彼女達が怒るだろう。

今も凄い睨まれてるし……


藍ちゃんは、突然私の頬を撫でた


「ねぇ、此処どうしたの?

昨日帰る前はなかったよね?」


そこの女子に藍ちゃんの近くにいるなってビンタされましたなんて言えるわけ無い。


「ちょっとドジって壁に激突したんだよね」


アハハッと笑ってみても藍ちゃんの顔は晴れない。


「蘭。俺に嘘つくの?

蘭だけは俺に嘘つかないと思ってたのに。」


そう言って今にも泣きそうな顔で私の手を握って私を見つめた。

そんな顔で、そんな事言われたら嘘つけるわけない。


「………ごめん。」


「もう一度聞くね?コレ、どうしたの?」


優しく子供を諭すように言う藍ちゃん。


「……少しイザコザがあってビンタされただけだよ。

大丈夫だから。」


微笑んでみてもやっぱり藍ちゃんの顔は晴れない。

それどころか眉間のシワが凄い事になってる。


「…………誰?誰にやられた?」


強い力で手を握られて眉間にシワが寄るのがわかった。


「大丈夫だから、気にしないで。」


明らかに藍ちゃんは怒ってる。

こんな藍ちゃん初めて見た。


「気にしないなんて出来るわけない。

蘭、俺には教えられないの?」


「そういう訳じゃないけど」


「じゃあ、教えて」


チラッと昨日私を呼んだ女子の方を見たら言ったら殺すって顔に書いてあった。


「……今のでわかった。

お前らか。蘭に傷つけたの」


藍ちゃんは、スッと無表情になって私を呼んだ女子の方へ歩いていった。


「な、何言ってるの?榊君

私達何もしてないよ!ねぇ!?」


「う、うん!あの子が嘘ついてるんじゃない?」


ガンッ


慌てて取り繕う女子達の机を藍ちゃんは無言で蹴り飛ばした。

賑わっていた教室は一気に静かになった。


「蘭が嘘つく訳ないじゃん。

誰の許可があって蘭に傷つけたの?

もし一生傷痕残ったらどうするの?ねぇ、どうするつもりだったの?」


無表情で近づく藍ちゃんを見て女子達は震えながら後ろに下がっていった。


「あ、藍ちゃん!私大丈夫だから!ね!?

ちょ、ちょっと行くよ!」


このままじゃ駄目だと思って藍ちゃんの手をひいて私は教室を後にした。

向かう先は一番人気のない私が昼ご飯を食べる場所。


「藍ちゃん。私大丈夫だから、気にしないで?

これも今は腫れてるけどすぐ治るから!ね!?」


藍ちゃんと向かい合って座って私は藍ちゃんを説得しようと大丈夫だよアピールを頑張った。

そのせいで肩の痛みが戻ってきて肩の事まで気付かれて藍ちゃんがまた教室に戻ろうとしたりとかあったけど

私はどうにか藍ちゃんを落ち着かせる事に成功した。


「俺のせいだ。俺がちゃんと着いてれば怪我なんてさせなかったのに。」


ポロポロと泣きながら私の頬を撫でる藍ちゃん。

あんなに怪我をしても泣かなかった藍ちゃんが私のこんなちっぽけな怪我で泣いてる。


「泣かないで、藍ちゃん。

藍ちゃんのせいじゃないよ。私は大丈夫だよ。大丈夫だから。」


私はいつも藍ちゃんがやってくれてるみたいに藍ちゃんを抱き締めた。

どうか、藍ちゃんを苦しめるものが軽くなるようにと藍ちゃんの背中を擦った

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