第4話
「花田さん、あれ見て」
指さされた方を見るとお花畑が目の前に広がっていた。
余りにも綺麗な花ばかりで私の涙は一瞬でおさまった。
「泣きやんでよかった。泣かせちゃってごめんね。」
優しく私の頭を撫でる御影君の顔は痛々しくてまた涙がでそうになった。
「急に泣いてごめんね。御影君のせいじゃないの。
ゴミが目に入っちゃって痛かっただけだから気にしないで」
下手くそな嘘。
でもこんな下手くそな嘘に御影君はのってくれた。
「そっか。ゴミは取れた?」
「うん。もう大丈夫だよ。
御影君も体は大丈夫?」
「花田さんが手当てしてくれたからもう痛くないよ。」
ありがとうと微笑む御影君は何処か学校にいる時と違ってその違いが私には分からなかった。
「もう暗いし送ってくよ。お家どこ?」
「えっと、○△町だよ」
「結構近いね。」
自然に手を繋いで私は御影に送られて家に帰った。
帰った後もあの痛々しい姿が頭から離れなかった。
あの日から私は毎日御影君の住んでるアパートの近くを通って散歩する様になった。
結構な頻度で怪我してる御影君と出会ってその度に泣きながら手当てをする私を泣きやませる為お花畑に行くのがパターン化していた。
「ほら、これあげるから泣きやんで。」
そういってシロツメクサで作られた花の冠を私の頭に乗せて微笑む御影君。
「ありがどゔぅううう」
頑張って泣き止もうとニッコリ笑おうとしてるのに
涙は止まらないし上手く笑えない。
「どうしたら泣き止んでくれる?
俺、蘭が泣いてるのなんか嫌だ」
「あ、藍ちゃんっ…このまま居たら死んじゃう
そんなの嫌だよ…っ」
いつの間にか私達はお互い名前で呼び合っていた。
どっちかが言った訳じゃないけど、自然とそうなっていた。
そして、私は日に日に酷くなる怪我を見て怖かった。
酷い時は血だらけでグッタリしてる藍ちゃんを私は発見していたからだ。
救急車を呼ぶ私を藍ちゃんは止めていた。
頭が少し切れただけだから大丈夫なんて笑って。
いつか、藍ちゃんはあのおじさんに殺されると漠然とした不安がこの頃の私にはあった。
「俺が死ぬの嫌で泣いてるの?」
驚いた顔で私を見つめる藍ちゃんにコクコクと何度も頷いた。
藍ちゃんは嬉しそうに微笑みながら私を抱きしめた。
「可愛いな、蘭は。
蘭、蘭のお願い俺が叶えてあげる。
だから俺の願いも叶えてくれる?」
私の涙を拭きながら優しく聞いてくる藍ちゃんに私は何度も頷いた。
「蘭のお願いを叶えたらきっと少しの間離れ離れになる。
だけど、俺は絶対戻って来るから…だから俺を忘れないで。俺のこと待ってて?」
「…っ……待ってるっ……藍ちゃんの事っ…ずっと…ずっとっ待ってる…」
「約束だよ、蘭。」
そう言って再び強く私を抱きしめた。
藍ちゃんは、本当に次の日から私の前から姿を消した。
突然の転校にクラスは暫くの間ザワザワしていた。
藍ちゃんの事が好きだった女の子達は泣いていたし
どうにか先生に聞き出そうとする人もいて先生達も忙しそうだった。
私は毎日あの花畑に通って藍ちゃんの帰りを待っていた。
寂しかったけど、藍ちゃんが元気でいるならそれだけで良かった。
あんな死んだ目で傷だらけの藍ちゃんを私は…もう見たくなかった。
ただそれだけだったんだ。
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