第2話

あれからの私の毎日は特に変わりはなかった。

悪夢を見る回数は増えたけど、徐々に減ってはきている。

見るのはいつも変わらないあの夢。


「っう……集中しなきゃ」


自分の頬をパンパン叩いて紙パックのバナナオレを一口呑む。


prrr

prrr


突然鳴った携帯に驚いて持っていたバナナオレを落とす所だった。

こんな真夜中に電話なんて誰だろう?

ましてや鳴ってるのは友達がいない私の携帯。

恐る恐る見てみると番号は知らない番号だった。


どうしようかとワタワタとしながら眺めてるとプツっと電話が切れた。

ホッとしてPCへと視線を戻す。


prrr

prrr


すると再び携帯が鳴り始めた。

多分さっきの番号と一緒……だよね?

2回もかけてくるなんて間違い電話じゃないよね?

恐る恐る携帯を取ってはみたものの出る勇気が持てない。

かといってこのまま放っておくのも……

そんな事を考えていたらまた電話が切れてしまった。


流石にもうかかってこないだろうと思っていたらまた携帯が慌ただしく鳴り始めた。

3度も鳴らすなんて余程の急用か?

でも会社からは携帯に電話来ないし……


それから電話はずっとかかってきた。

此処まで来ると軽くホラーである。

着信履歴は確実に埋まっているだろう。

今更出るのも変ではないだろうか

いや、でもこんなにかかってくるなんて余程の用事ではないだろうか?


「あれ……留守番電話が入ってる」


今までは掛かってきて切れて不在着信が残ってまたかかってきてだったのに

留守番電話のマークが入ってる。

恐る恐る携帯に耳を当てて留守番電話を再生してみた。


「早く出ないと………知らないよ?」


5秒もないメッセージ。

名前も何も言わないメッセージ。

でもその声で、その言葉だけで誰だかわかってしまった。

持っていた携帯が手から滑り落ちた。


どうして、どうして私の番号を知ってるのか

地元の人には教えなかった。

両親にすらメールアドレスしか教えてない。

彼と繋がるもの全て切ったのに。何で!?


prrr

prrr


タイミングをはかったかのように再び電話が鳴り始めた。

出たくない。嫌だ…怖い。

そう思うのに私の手は私の意志とは反対に携帯を取り電話に出ていた。


「ねぇ、どうして早く出ないの?

ワンコールで出ろって教えたよね?」


「ご……めん…なさいっ」


怖い、怒ってる。

出ても出なくても恐怖。


「まぁ、いいや。

ねぇねぇ、玄関開けてみてよ」


「えっ……」


何で?

頭の中にクエスチョンマークが沢山浮かぶ


「いいから早く」


「は、はい……」


再び声が冷たくなり私は慌てて玄関を開けた。


開けた瞬間後悔した。

彼が意味もない事をさせる訳ない。

そんな事すら忘れていた自分が憎い。


目の前にはスーツを着た彼……榊 藍が楽しそうに顔を歪めて立っていた。


私は余りの恐怖にその場に座り込んでしまった。

認めたくない現実。


「久しぶりだね、蘭」


私へと伸びる手にビクつく私なんて気にもとめずその手は私の頬を撫でた。


腰が抜けている私をヒョイッと抱き上げズカズカと中に入る彼。

されるがまま私は震えている事しかできなかった。


彼はベッドに腰掛け私を自分の膝の上に座らせ

否が応にも彼と向き合う体制となった。


「自由は楽しかった?蘭」


その言葉にビクッと体が反応した。


「酷いよねぇ。一緒の大学に行くって言ったのに寸前で志望校変えて俺に何も言わずに県外に行っちゃうなんてさぁ」


本当だったら私は彼と同じ大学に行く筈だった。

頭がいい彼なら何処だって行けたのにわざわざ私の学力に合わせた大学を志望して先生達が何度も説得していた。


私は大学までも地獄が続くなんて嫌だった。

だから最初で最後の抵抗を考えた。

上手くいかなかったら諦めようと思っていた。

その時は死んでしまおうかと思っていた。

だけど、色んな幸運が重なって私は彼の元から逃げた。

誰にも何も言わずにあの場所から逃げた。


「逃げられると思った?

ねぇ、蘭。本当にこの俺から逃げられると思った?」


伏せていた顔を無理やりグイッと上げられ強制的に目を合わせられる。


そう思いたかった。

逃げられるって。私にだって出来るって。

自由が欲しかった。もう解放されたかった。


涙がポロポロと零れ落ちる。


「本当に蘭は泣き虫だなぁ。

蘭、俺ね?お前の事もっと早く見つけてたんだよねぇ

何でその時会いに来なかったと思う?」


わかる?って笑いながら言う彼。

そんな事わかる訳ない。

やっと飽きてくれた?新しい人が見つかった?


「最初で最後の自由を少しあげようと思ったんだよねぇ

初めて抵抗された訳だし、蘭の意思を尊重してあげた訳。

まぁ、俺も環境整えなきゃいけなかったんだけどさ」


最初で最後……


「さぁ、俺達の家に帰ろうか。蘭」


ニィっと笑った彼の顔を見て私は気絶した。

現実を受け入れたくなくて。

すべて夢だと思いたくて。


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