I 愛 哀。

葉叶

いーち。

第1話

私にとって一番忘れたい記憶が1つある。

無かった事にしたいのに心に刻みこまれて忘れさせてくれない記憶だった。


それは社会人になった今も変わらない。

それでも生きていたのは幸せになりたかったから。

幸せを諦めたくなかったから。


なのに、なのに、どうして…?

どうして彼はまた現れるんですか?


神様、私は貴方にそんなに嫌われることをしたでしょうか?





時間を遡れば数時間前の事。

今日は、半年に一回の会議の日だった。

人と関わるのが怖くて私は在宅ワークがあるこの会社に就職した。

半年に一回の会議さえ乗り切れば後は家に居られる。

給料も良かったし、会議の前の不安や腹痛さえ耐えればいいだけだった。


「それじゃあ、今回の会議はこれで終わりだ。

あ、ちょっと待ってくれ。今日は新しくこのチームの主任になった者を紹介する。入ってきてくれ」


書類を鞄に入れていた手を止めて扉から入ってきた人を見て私は固まった。

いや、もしかしたら他人のそら似かもしれない。

だって、此処は私の地元からも遠くて

それに……


「初めての方は初めまして。

榊 藍です。こんな若造が自分達の上司なんて不安かもしれませんが精一杯頑張るのでよろしくお願いします。」


あぁ、そんな、まさか

その言葉が頭の中をぐるぐると回る。

他人のそら似って何処まで適用されるんだろう

同姓同名は範囲内だろうか

それより私には気づかないだろうか

昔とは変わった。中身はともかく外見は会議の時だけはちゃんと頑張ってる。

大丈夫、きっと…きっと気付かれない。


このまま皆に紛れて外に出ればもう来月まで来ないで済むんだ。


震える手を握り私は皆と同じように会釈して外に出た。

外の生暖かい空気を吸って震える体を落ち着かせる。

誰が思う。ある日突然私がこうなった元凶が目の前に現れるなんて。


「っ……早く…帰ろうっ」


こんな忌々しい場所早く離れよう。

私は足早に会社を後にした。


だから、私は知らなかった。

彼が窓から私を見ていた事も。

彼が口角をあげていたことも。


この時の私は、愚かにも彼から逃げられると思っていた。バレていないと思っていた。

私は忘れていたんだ。

彼がどんな人だったのかを。




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