第???話α(2) 終わりの世界のその彼方

※α√after storyです。


===


~side ???~


 この街は、いたって平凡な街。

 世界のどこを見回してもあるような街の一つ。特別なにか優れたものがあるわけでもないし、突出した文化文明があるわけでもない。


 けど、この街はどこか暖かい。多分、世界のどこよりも、この街が。


 なんて言う私は、世界を見たわけじゃないんだけどね。

 どこにも行けないわけじゃない。むしろ、違う場所に行くことは息を吐くようにたやすいのがこの世界。

 

 だから、この街が温かいっていう理由は、きっと、そうした感情が生まれてくることと一緒じゃないのかな?


 この街自体に、記憶が残ってるんじゃないかって。幸せと愛の記憶が。

 誰もが口をそろえて言うんだ、そういう風に。



---



「おはよー...」


 目をこすりながら軽く山を登って学校へ向かう。教室をくぐると幼馴染の白根 麻衣が先に席に座っていた。



「おはよう。今日は少し早かったんだね」


「気分次第だからそんなの気にしてないよ。...まあ、でも、今日はちょっと...ね」


「転校生が来るって話?」


「私たちのクラスなんでしょ? ちょっと楽しみで早く目が覚めちゃった」


 特別何か起こるわけじゃないけど、転校生が来るってだけでどことなく胸が弾む。これが普通の感覚だと思うんだけどね。


 隣の麻衣は少しばかりむすっとして私の頬をちょんちょんとつついた。



「別に誰が来るにも構わないけど、霧ちゃんは渡さないよ」


「別にもらわれる気なんてないよ...麻衣」



 私がどうどうとなだめると、麻衣はふくらませた頬から空気を抜いた。そのままいつもの優しい瞳に戻る。


 麻衣は、誰よりも私のことを好きでいてくれる。校内ではカップルだなんて言われるけど、悪い気はしない。それに結構グイグイとくる割には、それがうっとおしいと思ったことは一度もない。なんでだろう?


 ...分からないけど、これが前世からのつながりっていうなら...私は信じれる。



「そういえば、だけど」


 麻衣は何かを思い出したように、ポンと手を叩いた。

 

「どしたの?」


「うん、妙な噂をこの間聞いてね...。なんでも私たち人間のような生き物が、一度大昔に生息してて、一回絶滅したらしいの」


「人間のような生き物って...、まるっきり私たちと同じような姿形をしてるのかな?」


「見たことある人なんていないと思うし、なんで絶滅したかもわからないし、謎に包まれすぎてる気がするんだけど...、嘘って割り切れない感じがして...」



 麻衣が少しむずがゆそうにしてる理由を、私はすぐに理解できた。だって、それは私も感じているものだから。

 

 どこか、胸の奥が熱い。特別何かあるわけでもないはずなのに、心が動いている感じがする。

 それがどうももどかしくて、私も麻衣の聞いた噂にかぶせて話題を上げてみた。



「もし、さ。大昔に人間が生きていたのなら...。私たちと同じようなことを思った人間が生きていたことになるのかな?」


「それってどんな感じで?」


「うーん...。なんだろう、言っておきながら自分でも分からないや。けど、もし私や麻衣に似た人間がその時にもいたのなら...、多分その時の私に似た人間は今みたいに舞を好きでいたんじゃないかな?」


「よくわからないことを...。...でもね、桐ちゃん。私は、今桐ちゃんを好きでいれるだけで幸せだから」


「...うん、私も」


 少し度の過ぎたお互いの愛を確かめる。頷きあうと、また麻衣は渋い顔をした。



「...だからこそ、なんか転校生が嫌な予感がするの」


「あはは...まだいうんだ」


「なんかこう...これまでの私たちの関係をかき乱されそうで...グルル...」


「麻衣、どうどう」


 まだ見もしない転校生に威嚇の姿勢を見せる麻衣の頭を私はそっと撫でた。そうしていると、担任の先生が教室へと入ってきた。いつの間にか開始時間が来ていたみたいだった。


「はーい、HR始めますよ~。...っと、その前に。どうぞ、入って」


 担任が窓の外に手で合図をすると、教室前方のドアがもう一度開いた。

 そこから一人の男子が入ってくる。ほんの少し目つきが悪くて、それで少し優しさを兼ね備えているようなひとみの男子。



 先生の合図で、その男子は自分の名前を黒板に書き連ねる。

 書き終えて、その場を離れて文字が私の目に入ってくる。





『藍瀬 達海』




 私の首の後ろをくすぐるように、ほんのり優しく、懐かしい風が吹いた。

 近くで麻衣がうなる。私はそれを見てクスリと笑った。




 ...ああ、よく分からないけど、懐かしいな。




 私は、今度はこれからの日々に思いをはせてクスリと笑った。



 きっと、これから賑やかになる。

 ドタバタして、それでも幸せそうな日々が始まる。


 きっとそれは、なによりも幸せな日々。





『ですよね? ...先輩』

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