β√ 終局


 進む時は、もう止まらない。

 止まらないけど、止まる必要もない。


『幸せな、記憶だったね』


(...どこか、懐かしい声がする)


『けど、それでいいの?』


(...分からない。ただ、幸せだったことだけは覚えてる)


『あなたはまだ、やり直せる』


(やり直す...? 何を...?)



 進んでいたはずの時は、音もたてずに止まった。

 そのまま、ぜろに戻るように歪曲を始める。誰にも留めることはできない。


 捻じれ、破れ、崩壊する世界の中。

 音は、一度だけ跳ねた。



『まだ飛べるよ』


(飛ぶ...どこへ?)


『何度でも、やり直して、また何度でも、ここに』


(俺はまた、ここにたどりつくのか...? そもそも、ここは...?)


『そうして、もしあなたがここじゃない場所へたどり着いたら』


(...待ってくれ、結局俺は、どうしたらいいんだ?)


『その時は、私を呼び起こして。...私を、見つけて』



 足場が崩壊するように、体が、記憶が消えるように、世界が光に包まれる。

 残された意識は、最後の言葉を耳に受けた。







~それが、私の願い~




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