第46話α(2) 手紙


 誰もいなくなった、まっさらな地球に、一枚の手紙が残されていた。

 誰が持っていたものかもわからない。それを読む者も、もうこの世にはいない。


 それでも、その紙はもはや必要のないものだった。

 言葉で分かり合える人間に、それ以外の手段はいらないのだから。





 手紙には、こう書かれている。




---



 大好きな桐ちゃんへ。


 私は、ずっと桐ちゃんのためを思って生きてきました。

 けれど、はじめて会ったときの本心は、今よりも単純じゃなかったです。


 未熟な自分の力の暴走とはいえ、桐ちゃんの両親を殺したのは、私でした。

 そして、私自身が両親を亡くし、雷に打たれ、能力者になったとき、その記憶は消えました。



 ...と、ある人には話したのですが、それは嘘です。

 私は、本能的に、どこかでそれを覚えていました。


 だから、桐ちゃんを見たとき、生まれた感情はこうでした。



『私が、この子を幸せにしないと』



 それは義務や懺悔、罪滅ぼしのようなものでした。

 私の心の中で生きる、使命のようなもの。


 これを達成しなければ、きっと私は満足して死ぬことすらできない。果てしない後悔の呪縛に囚われるだろうと思ってました。


 

 けれど、実際に桐ちゃんと過ごして、そんな使命はいつの間にかなくなりました。

 私は、桐ちゃんを幸せにすることではなく、桐ちゃんと一緒に幸せになることを考えていたんだって、ここで初めて気づきました。


 じゃなきゃ、こんな長いことやってられません。


 何度か桐ちゃんから、重たすぎる愛だと言われた時は、少しショックでしたね。

 それほどまでに、私は桐ちゃんのことが好きだったのです。



 ...そして、一緒に戦ったこと。

 ありがたかったです。きっと、私ひとりじゃどうにもならなかった場面もいっぱいあって、そのたびに助けてもらって。


 桐ちゃんの事助けたいと思っていた私からすれば、少し悔しかったですけど。

 でも、それ以上に嬉しかったです。


 桐ちゃんにとって、私はそれほどまでに価値があるんだと、勝手な想像ですが、そんなことを思えたので。


 そうして、達海と出会って。

 二人だけだった空間は、賑やかになって。


 楽しかったです。

 こんなことなら、世界なんて終わってほしくないって、願ってしまうほどに。


 ...けど、さすがにこればかりは譲れません。


 野望のために、多くの人を殺してきました。

 その人たちにも、あるはずだった幸せがあるのです。

 

 それを奪っておいて、自分だけ未来永劫幸せになることは出来ません。

 だから、最後まで成し遂げなければならないのです。


 ...そう思ってたのに、今の私には、もうそれすらできる気がしません。



 黒斑病。

 まさかとは思ってたけど、また再発してしまいました。

 おそらくそれは、桐ちゃんを助けようと、逃がそうと一人で戦って、リミッターを外した時。


 得体のしれないものが、今、私の体内をぐるぐると回っています。

 はっきり言って、怖い以外の何の感情もありません。


 今度こそ、完全に支配されるかもしれません。


 だから、もし、私が全てを支配され、言葉さえ失ったら、この手紙をどうか見つけ出して読んでください。


 ここに書いてある言葉が、全て私の思いです。



 ...あぁ、それでも。

 ちゃんと言葉にはしたいので、どうか助けてください。


 そして。

 

 もし、私が無事なままで、また三人そろえたら、その時は。



 最大限の大好きを、桐ちゃんに。



 ...達海に。





 これが、私です。

 風音 桐という女の子を好きになった、白嶺 舞という一人の人間です。




白嶺 舞より



---






 もはや、実体のない、心だけが生きる空間に、二人分の心が浮かんでいた。


 ここは、地球ではない。


 けれど確かに、人の思いが生きるどこか。



 喉をふるわせて声が出なくても、伝わる思いだけが、二人を動かす。


 常套句は、決まってこうだ。




「...大好きです、桐ちゃん」


「...うん、私も」



 寄り添うように、またその光は輝きだす。

 

 どこまでも、迷うことなく。




==========



舞√、これにて終了です。

この√は、どちらかというと桐√の正解、というか、幸せな終わり方、といったところを意識して書きました。ひぐらしのなく頃にみたいですね。


後にも先にも、こんなルートは生まれないんじゃないでしょうかね。

といったところで、√α、完結。



次回から、βに入ります。さて、誰でしょうかね?

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