タンジール・サウザス往復書簡(2)

「リューズ様、サウザスより鷹通信(タヒル)です」

 にこやかに、エル・サフナールがシェラジールを運んできた。何号だったか。まあどうでもいいか。

 鷹の足につけられた銀の筒の封を開け、サフナールが薄紙を取り出す。それを受け取りながら、リューズは居室の脇息に頬杖をついた。

「ご苦労。ところで、そなたはなぜ俺の部屋にいるのだ」

「はい。どうもリューズ様の侍医兼愛人にされそうな経過になってまいりました。組んずほぐれつの楽しい療養生活でございますね」

 自分より十歳は若い、ぱっと見癒し系の女が跪いているのを、リューズは上目遣いに眺めた。

「どういう経過だ。まあいいが。そなたはエル・エレンディラの派閥の者だろう。エル・ジェレフは派閥争いに敗北したのか。なんだかドロッドロだな俺の宮廷は」

「それもこれも、リューズ様を想えばこそでございます。誰も皆、リューズ様に決死のご奉公をお誓いもうしあげる忠臣ばかりでございますから、寵を争うとなったら鬼畜生です」

 可愛らしいサフナールの微笑に応えられ、そうなのかなあと思いつつ、リューズは書簡を開いた。


なぜイルスだ。お前なにか企んでいるんだろう。

正直に話せ。返事はそれからだ。


ヘンリック・ウェルン・マルドゥーク(族長印璽)


「もうちょっと、それらしく書けんのか、ヘンリック」

 まったく粗野にして野蛮な海エルフだな。脇息からガクッときながら、リューズは返事を書くことにした。

「サフナール、筆記してくれ」

「はい、なんなりと」

 すでに紙と羽根ペンを用意して、サフナールが言葉を待っている。ぬかりない女だ。

 用件を話すと、サフナールはさらさらと筆を滑らせた。どう見ても話したより長く書いている。時候の挨拶やら何やら追加しなければならないからだ。それにしても筆の速い女だった。

「鷹を飛ばしておいてくれ」

「はい、お任せください。侍官に命じておきますわ。それではこれからご一緒に湯殿にまいりましょう」

「なんでそんなところに行かねばならんのだ」

「このごろお疲れのご様子ですので、薬湯治療でございますわリューズ様。楽しゅうございますよ」

 うっふっふっと赤い唇でサフナールは笑った。

 楽しいんじゃ、行かなきゃしょうがないか。やり手だな、エル・サフナール。

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