タンジール・サウザス往復書簡(3)

 サウザス港に貿易船を接岸するための突堤が足りないというので、港の拡張工事をすることが決まっていた。

 視察に来たついでに、停泊している船にいるレスターと酒飲んでいこう。最近あいつ反抗的だから、ここらでシメとかないと。

「族長、至急便の鷹通信(タヒル)が来ました」

 工事の責任者に話しを聞いていたところに、王宮からちびっこが走ってきた。

 至急便だというので、仕方なくヘンリックは手紙を開いた。予感したとおりリューズからだった。


さっそくのご返信をありがとうございました。

お問い合わせの件ですが、貴殿ご三男の例の秘密につきまして、術医エル・ジェレフより是非ともお話し申し上げるべき儀ありとのことで、ご来訪をお願いいたした次第です。

本来こちらより出向きますべきところ、諸般の事情によりジェレフは参れません。お呼び立ていたしますご無礼をお許しください。


某月某日。

リューズ・スィノニム・アンフィバロウ(族長印璽)



 イルスの竜の涙のことらしい。エル・ジェレフは治癒者で、何度かサウザスを訪れ、イルスの病状の相談に乗っていたはずだ。

 それにしても何かこの文面は不気味だ。いったいどうしたのだ、あいつは。まるで女みたいな手紙を書きやがって、顔が女みたいなだけじゃ気がすまなくなったのか。

 リューズに限らず向こうのやつらは、なよなよした感じの連中ばかりだが、実は全員、男装した女なんじゃないのか。だとしたら、どうやって増えてるのか。こっちは全然人口が増えなくて困ってるというのに。

「返事を書くから持っていけ」

 ちびっこに返信用の紙を要求し、ヘンリックはその場で返事を書いた。

「送っとけ」

「忙しないやつだなあ、お前は。帰ってから書きゃあいいだろ」

 視察が終わるのを待っていたレスターが、こちらを見てそんなことを言った。

 今では領境防衛軍の将軍を務めるレスターだが、昔は在野のちんぴらで、その頃、バルハイからとんずらこかねばならなかったリューズを、船で向こうまで送らせたことがあった。

「向こうはせっかちだからな。催促の手紙を持った鷹の大群が飛んでくる前に、さっさと返事したほうがましだ」

「あのイラチで女顔のえらそうな下戸で食い意地の張ったアイドル族長か」

「そうだ」

 しみじみとヘンリックは答えた。

 昔、苦楽をともにした仲間っていう路線でレスターを懐柔しとこうかと考えながら。

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