第4話 新しいスタートの予感
「蒼神君はどこから来たの?」
「彼女とかいるの?」
「どこ住んでるの?」
「あ、あーっと、鹿児島から来たんだ。彼女はいないよ。住んでるのは豊中市かな」
「じゃあさ、じゃあさ」
今、俺は4組のクラスメイトに囲まれている。
それもそうだろう。こんな時期に転入する人間は珍しいからな。アニメとかでしか見ないシチュエーションだ。
「おい!てめぇら!もう授業始まってるぞ!」
しかし、今は授業中だ。
まあ、新しく転校してきた人間に質問攻めをする気もよーくわかるが、そこまでするかい?
先生も激おこじゃないか。俺のせいなのか?いいや違う。俺のせいではない。
まぁでもいずれ熱は冷めるだろう。
〇
4時間目の授業が終わった。
「ねぇ!一緒に学食食べに行かない?」
「俺らと行こうぜ!」
食事の誘い、ありがたい。
今日は特に何も弁当とか持ってきてないし、日本の学食を食べてみたい。
でも、さすがにこの人数を引き連れて学食に行くのは迷惑だろう。
この前見学した時には購買を見つけたので、そこで何か買って食べることにしよう。
「ごめん!ちょっと職員室とか行かなきゃだからさ!また今度一緒に行こう」
「そっか。じゃあ明日俺らと一緒に行こうぜ」
「おっけ。じゃあな」
適当に約束をして教室を出る。
やっとあの質問攻めという興味攻撃から逃げきれるのかと思うと、心が清々するが、いずれあんな風に絡んでくることもなくなるだろう。
個人的にはそっちの方が楽でいいんだ。友達を一杯作りたいとか、スクールカーストの一軍にいたいとか思った事ないし。
そして、一階にある購買へ。
「すみません。カレーパンと焼きそばパン一つ下さい」
「はいよ」
購買のおばさんにお金を支払い、パンを二個受け取る。
ついでに、購買の横に設置されている自動販売機で緑茶を購入する。
「さぁて、どこで食べようかな」
教室で食べるってのは……ないな。あの空気だぜ。質問攻めにあってまともに飯もくえ食えやしない。
学食で食べるってのは……これもないな。4組の生徒が奇跡的に一人も学食に行っていなかったら別にいいのだが、そんなはずもない。とにかく質問攻めは避けたいのだ。
じゃあ中庭で食べるってのは……これもないか。この学校は口のような形をしているため、中庭に居れば一瞬でバレる。
トイレは……一番ないな。単純に便所飯は嫌だ。
残る選択肢は一つ。
体育倉庫裏だ。ここなら一目にも付かないし、誰もいないだろう。いたとしてもあかねさんだろうし、それなら別に構わない。
という事で、体育館倉庫の裏に来た。
「お、あかねさん」
ここはあかねさんの縄張りなのかな?
「な、なにしに来たんだよ」
「ああ、昼ご飯食べようと思ってさ。ここだったらあかねさんいるかなーとか思ったし」
「あ、あっそ。あのさ、さん付けて呼ぶのやめてくんない?私別に年上とかじゃないからさ」
「ごめん。じゃあなんて呼べばいい?」
「な、なんでもいいよ。呼びやすい呼び方で」
「あかね……って呼び捨てでもいい?」
「いいけど……お前はいいのかよ。その……不良と一緒に居るところとか見られたら株下がるぞ」
「いいよ別に。そんなんで株下がっても。別に友達とかいっぱい欲しいとか思った事ないし。何人か仲のいい友人ができたらそれでいいんだよ」
スクールカースト?そんなの知った事か。一軍に居たって心からの親友がいなかったらなんの意味もない。
「あかねって嫌われてるのか?」
「まぁ……そうかな。不良に近づこうとするヤツなんて正気じゃないだろ。色々クラスの奴らには誤解とかもされてると思うけど、私はどうだっていいんだよ。今までそうだったし、これからもな」
あかねと俺の考え方の似ていない点がはっきりわかった。
あかねはクラスメイトに勘違い、誤解されているのが所以かわからないが、どうやら交流を持つことをそもそもしようとしていないようだ。
ただし、受け身になっているとかそういう訳でもなく、ただ一人でいたいだけなのだろう。
でも、人間というものは一人では生きていけない。人には人それぞれの居場所が必要なんだ。
「……」
パンを包装しているビニール袋を破いて、あかねさん……そういえばさんづけ禁止だったな。敬称略:あかねの横に座る。
慣れないな、敬称略無しっていうのは。
「お、お前さ……」
「ん?」
「や、やっぱ何でもない」
なんだ?そんな質問のやめ方じゃ気になるやないか。
まぁでもいいか。また今度話してもらおう。
「そのお弁当自分で作ったの?」
「ん?ああこれか。まぁそうだな。私の親結構家にいないときが多いし、自分で飯作れるようになった方が便利だからな」
「俺も自炊しよっかな……お金の節約にもなるし。でも俺料理苦手なんだよね」
そう。俺は料理が下手だ。具体的に言ったらアニメ版星のカ〇ビィに登場するコックカワ〇キくらい。
まぁさすがに塩と砂糖を間違えたりなんかしないが、出汁が入っていない味噌汁なら作ったことがある。
「もしよかったらさ……私が料理教えてやらない事もない……かも」
「本当に!?」
「あ、ああ。でも私もそんなに料理スキルないから、あんまり期待すんなよ」
〇
昼ご飯を食べ終わった後、飲み物を買ってくるから先に教室に行ってろとのあかねの指示で教室に戻ってきた。
「お、おい。蒼神!」
休み時間が始まった時に、学食に誘ってくれた当郷英吉が慌てたような素振りで席に座ろうとする俺を呼び止めた。
「ん?どうしたの」
「お前、さっき誰と一緒にいた!?」
どことなく当郷の顔が青ざめている気がするが、気のせいだろうか。
「え?あかねと一緒にいたけど」
「あかね?もしかして栖原あかねの事か?」
「そうだけど……」
「あいつはな、スケバンなんだよ。やべぇ先輩の腕折っちまった怪力女なん―――」
「ああ?なんか言ったか?」
当郷がなにやらあかねに対して失礼な事を言ったタイミングで、運悪くもあかねが教室に帰ってきた。
「い、いや……なんでも、ない、です」
「あかね。まぁ落ち着け」
突っ立っているように見えて、実はいつでもキックできる体勢をとっているあかねを慰める。
さすがに、不良でもない奴に手を出す人間ではないという事はわかっているが、当郷に向けている眼光が凄まじい。
「……チッ」
あかねは舌打ちをして自分の席に戻っていってしまった。
「当郷。さっきのはお前も十分失礼な事言ってたからな。でもあかねは一般の生徒には暴力ふるわないから安心していいと思うよ」
当郷含め、クラスのみんなは少し警戒しすぎだと思うんだよな。
確かに同じクラスに不良がいればちょっと怖いかもしれないけど、今まで善良なクラスメイトに暴力をふるったという話は聞いたことがない。
俺は、そういう事実があるんだからそこまで警戒しなくてもいいと思う。正直な話、不良を構成する一因として周りの環境ってのもあると考えている。
だから、まぁ不良ってのは変えられないと思う。そういうイメージがついてしまった以上は、それを払拭するのはほとんど無理に近い。
でも、危険度の低い不良くらいの認識なら植え付けれるかもしれない。それなら今よりも多少学校で過ごしやすくなるんじゃないかな。
まぁ、学校のやべぇ先輩の腕を折ったという話の印象は大きいから、まずはそれを何とかしないと始まらんな。
〇
「じゃあな。また明日!」
そんな事を言いながら、教室から勢いよく当郷が出ていく。
「また明日な」
「ねぇ春斗君!今から遊びに行かない?」
出ていった当郷を、帰り支度をしながら見送ると、後ろの席に座っている今宮智美いまみやさとみから遊びのお誘いが来た。
しかし、俺にもやることがある。今日からあかねのイメージを弱体化させるために、あかねに事情聴取をしなくてはならないのだ。
おおっと、こうしてはいられない。あかねが教室の後ろの扉から出ていってしまった。
「ごめん!今日はすぐに帰ってやらなくちゃいけない事があるんだ。また誘ってよ、智美さん!」
◯
SHRが終了したのでそそくさと教室を出て、学校を出る。
私はいつも一番早くに教室を出るので、SHRが長引かない限りは、一番最初に教室を出ることができる。
たまに体育倉庫裏で喫煙をするのだが、あいつにやめた方がいいと言われた……じゃなくて、健康に悪いと感じたため、喫煙をやめることにした。
そもそも犯罪なんだがね……反省しなくては。
まぁ実を言うと、煙を肺に入れたことはない。口に入れてそれを出していただけだ。もちろんそれでも犯罪だから、見つかったら補導されるよ?みんなはルールを守ってね。
「はぁはぁ……」
そんな事を思っていると、後ろから一人の学生が走ってきた。たぶん蒼神だ。
教室で女子らに遊びの誘いをされていたので、てっきりそっちに行ったと思ったが。
「どうしたんだよ。あいつらと遊ばなくていいのか?」
「ああ……今日はあかねに話したい事があるから」
私に……話したい事!?
そ、そんな……こんな真剣な表情で、女子の遊びの誘いを断ってまで、私に話したい事……
それってつまり……つまり……そ、その……あの……つまり!
「あかねのイメージを向上させる!」
「……は?」
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