第31羽 申し訳ない鳥はただのカカポ

 「本当にエルは村長なんですかね?」


 ムーブ村の村長の屋敷へと向かう道を歩きながらアルカが俺に尋ねてきた。


 オームが骨折してから半月ほどたった日の朝、俺がみんなに『そろそろエルの屋敷にいってみないか』、と提案したのだ。 

 相変わらずセルシカは嫌そうな顔をしたが、招待状があるからきっといい待遇してもらえるに違いない、と説得して連れてきた。


 「招待状を持っているくらいだから、本物でもおかしくないと思うけどな」


 俺は答えながら、エルに渡された招待状をもう一度見る。

 エル・リルレガードという文字の横に判子が押してあるだけ。

 本当にこんなので屋敷に入れてもらえるのか?

 

 ただの紙切れに思えてきた招待状に不安を抱きながら屋敷へと向かった。



*   *   *



 「そんな薄っぺらい謝罪で許されると思ってんの? 顔埋めろ! 顔地面に埋めて土下座しろ! 誠意が伝わんないんだよ、誠意が!」

 

 屋敷の門の前で、俺に背負われているリュックの中から罵声を浴びせるオームと、オームに言われるがままに土下座し、平謝りする鎧を着た男。

 たちの悪いクレーマーとそれに対応する真面目な店長の構図を見ているようだ 

 

 …………なぜこうなったのか。俺は数分前の事を思い返す。

 


 俺たちは地図を頼りにムーブ村の村長の屋敷へと向かった。

 

 何事もなく屋敷へと到着した俺達は、巨大な屋敷に相応な巨大な門の前にいる、門番らしき人に声をかけた。

 が、所詮俺達は全員高校生、中学生ぐらいの年齢、その門番からしたら冷やかしに来た悪ガキ共にしか見えなかったのだろう、いたずらと勘違いされ軽くあしらわれてしまった。

 そこで調子にのったオームが『おれはエルと友達だ』とか『エルに肩車してもらったことがある』だとか、得意気に自慢をしだしたのだ。

 門番は、自分の主人であるエルをけなされたと思い、俺達に『お前らみたいなみすぼらしい奴等ががエル様と知り合いな訳がないだろう。特にその汚い鳥』とオームを指差し、いい放った。

 ここで満を持して、オームが見せびらかすように招待状をポケットから召喚。

 すると、門番の態度が急変。先ほどと打って変わって、こちらに敬語を使い平謝りする始末。

 

 で今に繋がると。


 「誠意が足りないんだよ! え、君謝る気ある? 無いんだったら、今すぐここで君の首をはねちゃってもいいんだよ?」


 土下座して謝る門番に、それでもなお食って掛かるオーム。特に汚い鳥と言われたことを根に持っているのだろう、ここぞとばかりに罵声を浴びせる。


 「いやそれ土下座って言わないから! それはただの正座! 君、謝罪の意味わかってる? 謝罪って言うのは、今すぐ着ている服を脱いで、村を逆立ちで一周してから、おれ様をエルの元まで連れていった後、超高級焼き鳥を、ゲフッ………………!」


 さすがに見かねたセルシカがオームの頭をひっぱき、謝り続ける門番に、こちらにも非があったと謝罪する。


 「本当に申し訳ございません……。今、門を開きますので。中の者にエル様の元へと案内させます」


 それでもなお謝り続ける門番が、ゆっくりと立ち上がり門に手を触れる。

 触れたと同時に、動物園の入り口並みにどでかい門が開き、中へと案内される。


 でた金持ちの家あるある、門から家まで遠すぎ。

 無駄に遠い屋敷までの道を門番の案内で歩いて行く。


 「ほ、本物だったね……」

 「確かに、変異体全部一撃で葬ってましたからね……」


 門の威圧感に圧倒され、口数が減っていたカシルとアルカが落ち着かない様子で辺りを見回している。

 確かにでかすぎる。庭園のような庭には、噴水や銅像、それに小さな小川なんかもある。国立公園かここは?

 

 かれこれ十分ほど歩いただろうか、やっと屋敷に到着した。

 屋敷を見上げ、その大きさに脱帽していると、


 「お久しぶりですね、皆さん、相変わらず元気そうで何よりです! 今日も良い風が吹いていますね!」


 扉が開き、中から相変わらずやかましいエルが出てきた。

 エルは、俺達が挨拶の言葉を返すよりも先に、俺が背負っているオームの腕にギプスをはめられているのを見て、

 

 「か、風!? 何があったんですか! なぜ風ともあろう御方がこんな姿に……。くっ…………やはりあの時、私が付いて行き、風をお守りするべきでした。申し訳ございません」 


 風のごとく速さでオームに近づき、骨折している方の翼を痛々しそうに見て涙した。


 …………あの、まだ挨拶を……。

 

 「ううっ……おれの苦労を分かってくれるのはエル、お前だけだ! やはりおれにはお前しかいない。行くぞエル! この広大な敷地で存分に風を感じようぞ!」


 …………いやだから、まだ挨拶が……。


 「はい!」


 エルとオームは、見ているだけで疲れるような茶番を繰り広げると、エルがリュックからオームを抜き取り、そのまま肩車してどこかへと走り去っていった。

 

 エルが登場してこの場から立ち去るまでわずか三十秒。あいつはにはいつか落ち着きという言葉を教えてやりたいもんだ。


 結局、ろくに再会の挨拶もせずに走り去っていくエルとオームの背中を、全員が苦笑いで見つめていると、


「チ、チオリ様!? なぜこのような所に……」


 横にいた門番が驚きの声を上げ、その場に跪き頭を垂れる。


 扉の方に目をやると、そこには礼儀正しそうな、いかにも清楚といった少女がこちらを見ていた。


 年は俺よりも低いだろうか。肩まで伸びた綺麗な白色の髪に、オレンジ色の瞳。至るところにきらびやかな宝石を付けた服を身に纏っている。

 少女は門番に優しく微笑みかけた後、こちらに向き直り一礼をした。


 「はじめまして、エルの妹のチオリでございます。この度は、このような屋敷に足を運んでいただき、ありがとうございます」

 

 そしてまた深く一礼。こっちが申し訳なくなるほど礼儀正しい子だ。


 「兄から話は聞いております。路頭に迷っていた兄を導いてくれた事、深く感謝し申し上げます」


 そして本日三度目の一礼。なんかもう申し訳なさすぎて今すぐ土下座して靴をお舐めして差し上げたい気分だ。


 …………つうか逆じゃね? どちらかというと、死の危機に瀕したところを助けてもらったの俺達の方なんだけど……。まあ、エルがそう説明したのなら別にいいか、どうせエルだし。


 俺達はエルの妹で、礼儀の塊のような少女、チオリに案内され屋敷の中へと足を踏み入れた。

 

 広すぎる屋敷の中をチオリについて歩き、応接間のような部屋に案内された。


 「おっと! 悪い」


 俺は、部屋に入る時に段差につまずいて、前にいたチオリの肩にぶつかってしまった。


 「その歳でこの程度段差でつまづくとか、シュート老後が大変だね」


 カシルがにやにやしながら、俺ががつまずいた段差を大袈裟に飛び越える。

 フェレットのくせに人間様のミスを笑いやがって……。今日からこいつの飯はペットフードにしてやろう。


 部屋に入った俺達はチオリにすすめられて席に着いた。


 「みなさんお昼ご飯はお済みですか?」


 「いや……まだですけど…………」


 笑顔で尋ねてくるチオリに遠慮がちに答えると。

 

 「それじゃあお昼にしましょう! 今、厨房で作っておりますので、もうそろそろ出来上がるかと思います」


 手を合わせてこちらに優しい笑顔を向けてくるチオリ。

 すると突然。

 

 痛い痛い痛い痛い痛い! なんだこれ!? めちゃくちや痛い!


 俺は突然の胸の痛みに思わず、呻き声を漏らしながら胸を押さえる。


 なんだこの胸の痛みは? 物理的というより精神的に近い痛みだ。心臓の辺りがキリキリと痛む。

 それに、なんだかとてつもなく申し訳ない気分だ。異様な罪悪感が込み上げてくる。

 悪い事をしていないのになんだかとても謝りたい。


 「どうしました? 体の具合でも悪いのですか?」


 突然胸を押さえ呻きだした俺に、チオリが不安そうな顔をして声をかけ、背中に手をかけてくる。


 「いてててててててててててっ!」


 チオリが俺の背中に手を当てると同時にさらに痛みが増す。ついでに、心の中のチオリに対する罪悪感も倍増した。

 

 チオリか? チオリが原因なのか? 


 うっ……くっ…………エルに助けてもらったのは俺達の方なのに、お昼ご飯までごちそうになってしまうとは……申し訳ねえ…………。俺は何て事をしてしまったんだ、チオリを騙して歓迎してもらおうとするなんて。最低だ。チオリに向ける顔がない……。


 頭の中でこの痛みの原因を考えようとするが、罪悪感で頭が一杯になってうまく思考が回らない。どんどん思考がネガティブになっていく。


 俺はなんて人間なんだ。チオリみたいな善人を騙すなんて。それに、つまずいた時にチオリが怪我をしたかもしれない。チオリに怪我をさせるなんて……。俺はもう死んでしまった方がいいのかもしれない。そうだ…………死のう…………。



 「ちょっとシュート! 何してんの!?」

 「…………はっ!」


 俺はセルシカの声で一瞬正気に戻った。


 なんだ俺は、なんで俺はこんな所にいるんだ? 俺はいったい何をしようとしていたんだ?

 気が付くと俺は、窓枠に手をかけ、体を外へと乗り出そうとしていた。

 ここは屋敷の五階、落ちたらたたでは済まないだろう。


 「何してるんですか! 落ちちゃいますよ!」


 セルシカの声を無視して窓から体を乗り出そうとする俺を、1番近くにいたアルカが体をつかんで止めようとする。

 それでも俺の体は止まらない。アルカの腕を振りほどいて窓に足をかけ始める。

 意識がはっきりとしない。感じるのはチオリに対する罪悪感だけ。胸が苦しい、押し潰されそうだ。


 俺は悪い奴だ。チオリを騙したんだ。チオリに怪我をさせたんだ。死んだ方がいいんだ、俺なんて…………。

 

 「どうしちゃったのシュート! 本当に落ちちゃうって!」


 カシルも加わり、アルカと二人で俺を窓から引きずり下ろす。


 俺なんて……俺なんて…………。


 と、その時、部屋に勢いよく駆け込んで来る人が。

 

 「チオリ! ヘアピン落ちてたぞ! お前なんかやらかしてないだろうな!」


 大きな声を上げながら部屋に入ってきたその少年は、部屋の様子を見るなり、即座にチオリの頭にヘアピンを付けた。


 「……………………はっ! はぁ……はぁ……はぁ……はぁ…………危ねぇ」


 少年がチオリの頭にヘアピンを付けたとたん、一気に全身の力が抜け、俺はカシルの腕に倒れ込んだ。


 「どうしちゃったのシュ…………、だいじ…………ねえ、…………………」


 カシルとアルカの顔がぼやけて見える。セルシカの声がかすれて聞こえる。頭がボーッとする。何も考えられない。

 

 俺はそのまま、カシルの腕の中で意識を失った。



*   *   *



 「……………………」

 「お、目が覚めたか」

 「……………………んっ」

 「水でも飲むか? あ、焼き鳥もあるぞ。偉いでしょ、おれがエルに頼んでシュートの分取っておいてもらったんだぜ」

 

 上半身を起こして自分の周りを見る。

 ベッドの上だ、タオルケットが体に掛けられている。この部屋は宿…………ではないな。部屋には俺とオーム二人だけ。

 そうだ、俺はエルの屋敷に行ったんだ。でその後…………。

 

 「俺は見てないけど、シュート、エルの屋敷でぶっ倒れたんだよ」


 困惑した表情を浮かべる俺に、オームが情報を補足するように説明する。

 そうだ、急に胸が痛くなって、気付いたら体のコントロールが効かなくなって、だんだん意識が朦朧としてきて、それで…………気を失ったのか。

 少しずつ思い出してきた。たしか、チオリが俺に触ったとたん意識がはっきりしなくなったんだ。

 

 「焼き鳥食わないのか? ちゃんとたれと塩、両方とっといたんだぞ」

 

 オームが焼き鳥が乗った皿を差し出してくる。


 「…………寝起き焼き鳥とか拷問かよ。まあ一本もらうけど」

 「じゃあ残りはおれが食べちゃおーっと」


 俺はねぎまの塩を、オームは皿に残った焼き鳥を頬張る。

 

 窓から差し込む光は既にオレンジ色になっている。屋敷に来たのは昼頃だったから、かなり長いこと寝ていたみたいだ。

 他のみんなはどうしているんだろうか。まだこの屋敷にいるとは思うんだが……。

 俺が覚えている最後の光景は、俺の顔を心配そうに見つめるカシルの顔。みんなすごく心配してくれてたな、早く無事を伝えなくちゃ。


 俺がベッドから降りると、オームは残りの皿の焼き鳥を口に詰め込み、机の上の水を飲み干して、みんなの部屋に行こうと言った。


 それ俺のための水だよな? 寝起き焼き鳥といい、こいつは気が利くのか利かないのかよく分からん。

 

 俺は、リュックが無いのでオームを前に抱き抱えて部屋を出た。



*   *   *



 「わあ! シュート! いつ起きたの? というか、いきなり歩いて平気なの?」


 部屋に入って来る俺の姿を見るなり、カシルが駆け寄って来て俺の体をペタペタとボディーチェックする。

 部屋にいるのはカシルだけで、アルカとセルシカの姿が見当たらない。


 「他の二人は?」


 顔を揉まれながらカシルに尋ねる。


 「二人は今お風呂に入ってるよ。多分そろそろ上がってくると思うんだけど……」


 カシルの言葉通り、数秒しない内に二人が部屋に入って来た。


 「シュート! 無事だったんですね、よかったです」

 「ほんと、ビックリしたわよ。急に窓から飛び降りようとするんだもの」


 二人が口々に俺への心配の言葉をかけてくれる。

 そんなにも俺の事を心配してくれていたなんて、俺はなんていい仲間を持ったんだ。

 するとそれを聞いたオームが、


 「えー、おれもそれ見たかったな。いいなー」


 こいつだけは断じて仲間とは認めん!




 五人全員が揃った所で、俺達はチオリの部屋へと向かった。


 「ここか」


 『チオリ』と書かれた札が掛かっている部屋の扉をノックして話しかける。


 「あのー、シュートなんですけど、先ほど目が覚めまして……」


 ばんっ!


 「ふごっ!」

 「シュートさん!」


 勢いよく扉が開いて、中からチオリが出てきた。ついでに俺の鼻に強烈な一撃を加えて。


 「シュート今日すげーな。絶対厄日でしょ」


 アルカに抱き抱えられているオームが、鼻を押さえる俺を見て冷静に言う。


 「す、すみません! だ、大丈夫ですか!?」

 「またなんかやらかしたのか、お前は」


 あたふたするチオリの後ろから、あの時の少年が出てきた。

 大声を上げながら部屋に入り、チオリの頭にヘアピンを付けた少年だ。

 

 少年はチオリの頭を優しくチョップすると、


 「うちのチオリがすみません。中へどうぞ、説明します」


 そう言って俺達を部屋へと招き入れた。



*   *   *


 

 「…………という訳なんです。ほんと、ご迷惑をお掛けしてすいませんでした」



 説明を終えると、グラントと名乗ったこの少年は、チオリと一緒に俺に向かって頭を下げた。


 説明された内容を簡単に言うと、チオリは実は契約者で、このヘアピンと契約しているそうだ。

 使える能力は『罪悪感』。

 この能力がそれはそれは厄介で、チオリに接触した時に罪悪感や申し訳ない、という感情を抱くと、その感情に支配されてしまうという物なのだが、この能力はチオリがヘアピンを身に付けていないと常に発動した状態になってしまうらしい。そのため、常日頃からヘアピンを肌身離さず着用しているのだが、たまたま俺が屋敷に訪問した時に、何かの拍子にヘアピンが外れてしまい、俺に能力が発動されたとういわけだ。


 なるほど、あの異様な罪悪感と申し訳なさはこのせいだったのか。チオリに接触したときだろ? 多分、俺が段差につまずいた時チオリにぶつかったからだろう。

 あんな段差につまずいたせいでこんな事になるとは……。チオリの能力関係無しに申し訳ねぇ……。


 「顔を上げてくれ、謝る必要なんてないよ。むしろ俺は、グラントに礼を言わなくちゃならん」

 

 そう。何を隠そう、グラントは俺の命の恩人なのだ。

 もしあの時、グラントがチオリにヘアピンを届けに来なかったら、罪悪感に支配されて、俺今ごろこの世にいないんじゃないかな。想像するだけで恐ろしい。


 「いやいやいや、シュートさんに礼を言われる筋合いなんてありませんよ。全部うちのチオリが悪いんです」

 「そもそも、つまずいてぶつかったのは俺の責任だしな。……………………まあ、この話は置いといて、ちょっと話がある」


 俺はそう言ってグラントを部屋の隅に連れていき、


 「正直チオリとはどこまでいったんだ?」


 ずっと気になっていた事を質問した。

 

 チオリの部屋に二人きりでいる時点で何かあるとは思ったが、歳も近そうに見えるし、別に恋愛をしていたっておかしくはない。


 「シ、シュートさん!? 何言ってんですか!」

 「シュートでいいぞ。まずお前何歳だ? それとチオリとはそういう関係なんだ?」


 顔を赤くして、明らかに動揺しているグラントを質問攻めにする。


 「十五歳です……。チオリとは何か特別な関係ってわけではなくて、俺はただのチオリの世話係です。その……エル様があんな感じなので、チオリが出番になる日もたまにあるんです。そういう時にチオリを支えたりだとか、普段の生活のお世話をしたりだとか…………」


 「で、気付いたら好きになっていたと」

 

 声がしたので下の方をみると、アルカに抱き抱えられていたはずのオームがいつのまにか聞き耳を立てていた。


 「ち、違いますよ! べ、別に好きになったりなんかしてません! ただの仲のいい友達って感じです」

 「いーや違うね。グラント、チオリがシュートの鼻に扉ぶち当てた時、チョップしたろ。あのチョップは好きな人に対するチョップだったね、友達に対するチョップではない。友達にやるときは普通、本気で頭カチ割る気でやるもん」


 オームが名探偵のごとくグラントの心を見透かす。

 確かにあの時のチョップ、めちゃくちゃ優しかったな。そう言う事だったのか。


 「違いますって! あれは一応女子だから……」


 「まあ、俺達に任かせとけって! うちのグループには女子が三人もいんだ、それとなくチオリの好みとか聞き出してもらえるように頼んでやるからさ!」

 「そう言う事だ、おれ達がお前のキューピットになってやるよ! 『株式会社オームキューピッド・グラント本部』、ここに爆誕!」

 

 「なに勝手に話進めてるんですか! やめてください! そう言う二人はどうなんです? 同じグループにあんな完璧そうな美人がいたら、少しは何かあるんじゃないんですか?」


 既に耳まで真っ赤なグラントが逆に俺達に聞いてくる。

 俺はオームと顔を見合わせ、考えてみる。


 確かにうちのグループの女子は全員美人だ。でも全員、完璧って訳ではない。

 まずアルカ、ショートヘアーじゃない、そしてロリ。次カシル、そもそもフェレット。最後セルシカ、ショートヘアーじゃない、というかこのグループの保護者。

 こうして見て見るとカシルって事になるが…………さすがにフェレットは……。かといってショートヘアーも譲れない。

 それならアルカとセルシカが髪を切ったら良いのでは? 頭の中で想像してみる。


 うーーん、アルカは妹、セルシカは保護者って感じなんだよな。なんか違う。

 結論、うちのグループの女子はどちらかと言うと家族に近い、以上!


 「「ないな」」


 さんざん考えた挙げ句、オームと声を揃えて断言する。

 しかし、グラントはさっきの反撃だと言わんばかりに、話を続ける。


 「ほんとですかー? 怪しいな」


 目を細めて俺達を疑うグラント。

 しょうがない、この手で行くか。できれば使いたくなかったがな、やるしかない。


 「え、俺とか普通にカシルの服隠したりするけど、それって好きな人に対してすることかな?」

 「そうそう、おれも出会って数日のセルシカの胸揉みしだいたからね。シュートに至ってはアルカとグループ組んだ最初の理由、体目的だからね」


 自分達のクズ行為で恋愛を否定する作戦だ。

 ひたすらに自分達のクズ行為を発表していく俺とオーム。


 「う、うそですよね…………。もし本当なら、よくここまでやってこれましたね……」


 さすがにドン引きするグラント。

 なにか大切なものを失った気がしないでもないが、身の潔白を証明できたので良しとしよう。



 「二人共、もう時間も遅いし、部屋帰るわよ。シュートはお風呂にも入らなくちゃいけないんだから」


 おっといけない、すっかり話し込んでしまった。この続きは明日するとしよう。


 セルシカに呼ばれた俺達は、チオリの部屋を後にすることに。

 部屋を出る直前、俺とオームはグラントにウインクをして扉を閉めた。


 口が半開きになった状態で固まったグラントの表情が見えたが、あれは多分照れ隠しだろう。全く、ツンデレな奴だ。今後もしっかりサポートしなくては。



 グラントの恋路の応援と言う新たな生き甲斐を見つけた俺とオームは、この日の夜はぐっすりと眠ることができた。

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