第29羽 骨折る鳥はただのカカポ

 「「「「いただきまーす!」」」」

 「……これは俺へのいやがらせか?」


 俺は、いただきますの合図と同時に、目の前の肉の山へと手を伸ばす。


 「うまあああああああああああ!」


 個室になり響く、一口目の感動の声。

 ここは、超高級焼き鳥店『鳥民族』。


 カシルは夕飯に、この高級な焼き鳥屋を選んだ。最低でも焼き鳥一本、千ソルドするという桁違いに高級なお店だ。

 創業百年を超える老舗の焼き鳥屋さんで、ムーブにいる人でこの店を知らない人はいないと言われているほど有名なお店。

 もちろん全席個室で、さらにはお客様をお待たせすることのないようにと、その個室一つ一つに専属の店員がいる。

 机の上にあるボタンを押せば、その専属の店員が駆けつけてくれる仕組みになっている。


 さすが有名店と言うべきだろうか、さっきなんて、注文しようと思ってボタン押そうと思ったら、もうすでに隣にいたからね。元からそこにいましたみたいな感じで、笑顔で『ご注文はお決まりでしょうか?』って聞いた来たからね。怖いんですけど。


 「おまたせしましたー」 


 極上の鶏肉が次々に運ばれてくる。

 ももにねぎま、鳥皮にレバー。

 鳥素人の俺でもわかる、これはうまい。

 

 運ばれた来た肉を取り、一口三百円超えの肉にかぶりつく。 

 

 弾けるようなプリッとした肉質に、一滴も外に逃がさず閉じ込められている鳥の旨味、眩しさすら感じるタレのつや、炭火の香ばしい香り。この焼き鳥から得られるすべての情報が、俺を快楽へと誘う。


 恐らくあのまま、日本でくそみたいな時間を過ごしていたら味わうことのできなかった代物だろう。今日ばかりはオームに感謝するとしよう。


 「うんま! ずっと燻製肉ばっかり食べてたから、久しぶりの新鮮な肉は五臓六腑に染み渡りますなー」

 「シュート大変! 塩ダレも激ウマ!」

 「どれどれ………モグモグ、うまい!」


 次々に運ばれてくる肉があっという間になくなる。さすがにみんなも燻製肉と茹で野菜ばかりの生活には飽き飽きしていたのだろう。肉を食べる手が止まらない。

 そんな中。


 「…………」

 「食わないのか?」


 みんなが肉をむさぼり食う中、オームだけが全く手をつけずに、目の前に置かれたねぎまを、まばたき一つせず、真剣な面持ちでじっと見つめている。

 

 「これは……鳥か?」

 「そりゃそうだろ、ここ焼き鳥屋だもん」

 「…………マイファミリー」

 「やめろそういうこと言うの! なんか食べずらくなるだろ!」

 「その両手に持ったねぎま置いてから言えや! つうか実際、家族みたいなもんだし! 人類皆兄弟って言葉知らないのか!」

 「それは人の話だろうが! 鳥は管轄外だよ! いいからお前も食べてみろよ。止まんないから」

 「ばか野郎! 俺がここで食べてしまったら鳥としてのなにか大切なものを失うことになる。これは立派なカニバリズムだ! こんな野蛮な行為俺は決してしないぞ!」


 オームが使い道のない翼を広げて猛抗議してくる。


 「ったく、しょーがないな」


 俺は、オームの前に置かれたねぎまを頬張り、オームのために馬刺しを一皿注文する。


 実はオーム、生まれてから一度も、鶏肉というものを食べたことがないらしい。

 知性を得てはじめて村にいったときに、自分と同じくらいの大きさの鳥の丸焼きが肉屋の店先に吊るしてあるのを見て、その場で気絶したらしい。

 その後、意識が戻ったオームが目を開けると、大量の鶏肉が吊るされた部屋の中で、包丁片手にこちらの顔を覗き込む肉屋の店主の顔が目に入った時は、死を覚悟したとのこと。 


 ユレ洞窟で、主食は肉だと言い張っていた鳥はどこのどいつか教えてやりたいもんだ。

 まあ確かに、同族のものを食べるのは気が引けるのもわかる。もし俺がオームの立場だったら……たぶんその場で吐くね。

 俺がオームを自分に置き換えて想像してしまい、口の中の鶏肉が飲み込めないでいると、


 「こちら特製馬刺しでございます。そちらのたれに付けてお召し上がりください」

 

 きれいに並べられた、真っ白な馬刺しが運ばれてきた。うまそすぎる。


 「おおおおおお!」


 この店に来てはじめてオームが目を輝かせた。

 一応、今回の装置はオームのお陰で見つけられたようなものだし、せっかく高級な店にきたのになにも食べられない、っていうのはかわいそうだからな。


 「い、いただきます」


 オームは震える手で箸を持ち、一番肉厚なところを一気に二切れ取った。

 そして、それをたれにたっぷりと浸して口に運ぶ。

 そして今、涙を流しながらその肉を噛み締め――。


 「すみません! 先程の特製馬刺し、隣のテーブルの鳥刺しと間違えてしいました。こちらが馬刺しとなります」


 店員が申し訳なさそうな顔で、皿に並べられた真っ赤な馬刺しを持ってきた。

 

 「「「「あっ」」」」


 オームを除く全員の動きが止まり、オームに釘付けになる。

 オーム本人はというと…………鳥刺しを口に含んだまま、微動だにせず目の前の一点をじっと見つめ固まっている。


 まずい! オームもう口に中に入れちゃってるよ! ファミリー味わっちゃってるよ!

 

 「…………」

 「お、落ち着けオーム、まだ飲み込んでないだろ? そのまま吐き出すんだ。そうすればすべてもと通り……」


 なんとかオームをなだめようと

 いっそ、この場で気絶させた方がいいのではないか。

 そう思い、セルシカにオームの首に手刀するようお願いしようとすると。


 「………………モグモグ」

 「…………オーム?」


 突然、口の中にある鳥刺し咀嚼しだすオーム。


 「…………………………モグモグモグモグ」

 「だいじょ」



 「鳥うまああああああああっ!」



 「「「「は?」」」」


 オームは十分に咀嚼した鳥刺しを飲み込むと、俺の心配する声を遮り、天井に向かって雄叫びをあげた。

 

 「鳥うんま! げろうまじゃん! すいませーん、ねぎま、たれと塩10本ずつ!」


 鳥刺しを口に運んで、ボタンを押し店員に追加の注文をするオーム。


 あ、へーーそういう感じね。食べてみたら意外といけました的なね。なるほど、なるほど……。


 じゃあさっきのやり取りなんだったんだよ! ふざけんなよくそ鳥! ちょっと気使かったじゃねえか!

 なに追加で二十本頼んじゃってんの? その前に馬刺し食えや! 馬刺し!

 

 声には出さないが、心の中で一通りオームに対する文句を言い終えたところで一息つく。

 考えてみれば馬刺しの色、白じゃないわ、普通赤だわ。今見ると、どっからどう見ても鳥刺しだわ。

 鳥刺しサービスしてもらえたしラッキーってことにしておこう。


 俺は、満面の笑みで焼き鳥を次から次に口に運ぶオームに優しく声をかける。


 「お気に召して何よりだ。まだあるからじゃんじゃん食え」

 「おう! シュートも鳥刺し食べてみ? げろうまだから!」

 「どれどれ…………モグモグ、うんま!」


 こうして俺達は目的達成お祝いの夕食をおおいに楽しんだ。



*   *   *



 「あーー、最っ高においしかった! カシル、よくあんな店知ってたわね」

 「フフンッ! この村にきたときから目をつけてたんだ。一度でいいからあんなお店でご飯食べてみたいなーと思って」

 「お二人さん、お楽しみはまだまだ続きますよ。なんたって次は貸し切り露天風呂ですからね! 冒険で疲れた体に貸し切り露天風呂! 気持ちいいに違いないですからね」


 最高に盛り上がっている女子三人組の少し後ろを歩きながら、俺とオームは今日のメインイベントの作戦を練っていた。


 「さて、なんて言い訳をしようか……」

 「普通に一緒に入りたくなった、なんてどうだ? ユレ洞窟の時のカシルみたいに案外簡単に成功するかもしれないぞ」

 「お前、さっきの焼き鳥屋に材料として身を捧げる気か?」

 「それは御免だ」

 「それに、あれは成功とは言わないだろ。あの時は結局、ふれあい動物園で終わったじゃんか」

 「確かにあれはないな。ならどうするんだ? 今回の相手は三人もいるんだぞ。成功したときの戦利品は大きいが、失敗した時の代償もかなり大きいぞ」

 

 結局、考えがまとまらず、風呂についてから考えることになった。

 もしかしたら、普通に混浴でした、なんて事があるかもしれないからな。


 「見えたぞ、決戦の地だ」


 少し奥に、黄色に輝く風呂屋の看板が見える。


 『貸し切り露天風呂 岩戸屋 男湯・女湯あります』


 チッ……混浴ではないか。

 まあいい、なんとしてでも覗いてやる!


 オームと拳を突き合わせ、お互いの覚悟を確かめ合いながら風呂屋へと入る。


 「お待ちしておりました、五名様で御予約のオーム様ですね。ご案内させていただきます。お風呂は、向かって右側が女湯、左側が男湯となっております。タオルや石鹸などはすべてサービスとなっております。それではごゆるりとおくつろぎくださいませ」


 受付で着物を着た女将のような人からタオル等の風呂用具を受けとる。


 「じゃあ、二人も楽しんできてね!」

 「しないとは思うけど、覗いたりしたら生きては返さないからね」

 「そうですよ、特にシュート。あなたには前科がありますからね」


 「大丈夫だ、安心しろ。俺はあくまで紳士だ。あの時は洞窟の中で気が滅入って魔が差しただけだ」

 「お前らもちゃんと冒険の疲れを癒してこいよ」


 男女で別れて反対の方へと歩いていく。


 「フッ、あんな脅し、へでもないわ。こっちはもう覚悟決まってんだ。今日はこの目に裸を焼き付けるまでかえらんぞ」

 「おうよ兄弟。今日はなんとしてでも裸をこの目に納めようぞ」


 男と書いてあるのれんをくぐり、巨大な脱衣場で服を脱いで、風呂場への扉を開ける。

 

 

 「でーーーーーかーーーーーー!」

 「すっげええええええええええ!」


 体育館の半分ほどの広さに敷地に巨大な風呂が設置されており、湯船からは大量の白い湯気がゆらゆらと立ち込めている。


 「…………」

 「…………」





 「とりあえず一回、普通に入るか」

 「だな」


 

 各々頭を洗い、お互いに背中を流し合っていると。


 「なあシュート」

 「ん?」


 俺の背中を洗ってくれているオームが、ふと気がついたように話しかけてきた。


 「うちのグループの女子ってさ、かなりの美人の集まりだと思うんだよね」

 「俺もそう思う」

 「そもそもさ、なんで外見だけでいえば超絶美少女のアルカが、フツメンのお前と、鳥の俺をグループに誘ってくれたんだろうな? メラになら他にも駆け出しの冒険者ぐらいいるはずだよな」

 「確かに」

 

 「…………なんか……前もこんな話した気がするな」

 「…………だな」

 「………………なんか……むなしいな」

 「……………………だな」


 勝手に自分達で話しておきながら、勝手に自分達で傷ついた俺達は、癒しを求めて風呂に浸かった。


 「フーーー………溶けちまいそうだ」 

 「俺もう溶けてもいいや」


 やっばこれ、マジで溶けそう。冒険で疲れた体に貸し切り露天風呂って極楽すぎるだろ。振り返ってみると、総移動距離の半分は走ってたんじゃないかと思うぐらい走ってばかりだったからな。 

 …………なんだか眠たくなってきたな。もういっそこのままここで――。




 「って、待てーーい! 本来の目的を忘れてないか?」

 「あぶねぇ、今普通に風呂を堪能してたわ……」


 オームと二人して肩まで浸かっていた湯船から勢いよく立ち上がる。 

 

 そうだ。俺たちの真の目的は風呂を堪能することではない、覗きだ。危ない危ない、あまりの気持ちよさに本来の目的を見失うところだった。

 風呂を堪能することはあくまでサブミッション、俺たちの戦いは今から始まる。


 受付でみた案内図では、男湯と女湯は一枚の壁を隔てて接していた。

 ということは……あっちか。

 オームと二人で忍び足で女湯の方へと歩いていく。


 「ここか……」


 壁に耳を当てると微かに女性の話し声が聞こえる。

 目線を上にあげ、壁の高さを確認する。

 

 想像していたよりも高い。これじゃあ、持ってきた紐で向こう側に行くのは無理だな。

 木でできた壁には足をかけれそうな突起などなく、上るのも至難の技だろう。


 「俺の軽量化で浮いて上から覗くか?」

 「いやだめだ、向こうにはセルシカがいる。こんな簡単な手口じゃあ、あいつにすぐばれる」


 セルシカのことだ、恐らく今も壁の上に目を向け、俺達の事を警戒しているに違いない。

 となると、セルシカも思い付かないような意外な手口……そんなのあるのか?

 

 頭を悩ませていると、オームがまるで刑事ドラマのワンシーンかのような真剣な表情で、


 「…………俺を、投げるんだ」


 うつむき気味にポツリと呟いた。

 

 投げる? はっ! まさか、俺に自分を投げてもらって、壁を越えた一瞬を視覚共有で一緒に裸を拝もうというのか? 危険すぎる。

 

 「おい待て、それだとお前をかなりの高さまで投げることになる。しかももし俺がキャッチに失敗したらお前は地面に激突しちまうぞ!」

 「俺はお前を信じている。それに、仮にキャッチに失敗したとしても、それで裸が見れるのなら本望だ」

 

 こいつ男だ。こいつ男だよ! 自らの身を犠牲にしてまで女性の裸をみようとするなんて……。


 「さあ、俺を投げるんだ」

 「すまねぇ……ありがとう!」


 涙を拭いてオームを手に持ち、上に投げる構えをする。


 「いくぞ」 

 「おう! あ、でもそんなに強く投げすぎな――――」



 「おぅらああああああ! 星の彼方までふきとべええええ!」


 雄叫びと共に、渾身の力を右手に込め、大気圏を突き破る心意気でオームを空中へと投げ飛ばす。

 

 一瞬、オームの叫び声のようなものが聞こえた気がするが気のせいだろう。


 オームがものすごい勢いで上へと飛んでいき、女湯が見える高さにまで到達した。


 「今だ! 視覚共有!」

 

 タイミング完璧! さあ、この目に飛び込んできなさい、可憐なる三人の天女達よ。その生まれたままの姿をさらけ出して見せるのです!

 

 そして今、俺の目には天女達が湯あみする姿が――――見えていない。


 「わ! なんだこれ!? 水か?」


 視覚共有をしたとたん、まるで水中にいるかの様に、目に見える風景がぼやけたのだ。


 水? 涙か? 

 あのやろう。さては、投げられた恐怖で泣いているな。これじゃあ見えるもんも見えやしない。

 くそっ! また失敗かよ! いつになったら裸がみれるんだ!

 

 実際に目から涙が出ている訳ではないので、拭うこともできない。

 俺は揺らぐ視界に翻弄され、濡れた床ですっ転び、腰を強く打った。


 「イテテテッ……おいオーム! 泣いてんじゃ――」


 ゴリッ!


 空中にいるオームに向かって文句を言おうとしたそのとき――背後から、なにかが地面にぶつかる鈍い音がした。


 …………いやそんなはずがない。だって俺の後ろには風呂があるはずだ。水の中に落ちたのなら、あんな鈍い音がするはずがない。きっと水がクッションになっているに違いない。まさか運悪く地面に激突なんて…………。


 俺は、頼むから予想が外れてくれと祈りながら、ゆっくりと振り返った。



 のおおおおおおおおおん! キャッチすんの忘れてたあああああ! 


 「オーム無事か! おいオーム! うわやべえ、こいつ息してねぇ! つうかなんか翼が紫色になってるぞ! 死ぬなオーム! かえってこーい!」



 白目になって泡をふいているオームを抱き抱え、声をかける。

 俺はそのまま、ろくに服も着ずに翼が変な方向に曲がったオームを抱えて病院まで走った。



*   *   *



 「で、お風呂でふざけあってて、シュートは腰を痛めて、オームは翼を骨折したと」

 「「はい……」」


 俺とオームは今、椅子に座り首をうなだれて、セルシカにあきれた顔で見下ろされている。

 

 あの後、俺達は病院に駆け込み、医者にオームを診せた後、骨折と診断されたオームは腕にギプスを、打撲と診断された俺は湿布をもらって痛めた腰をかばいながらオームを担いでなんとか風呂屋まで戻ってきた。

 そこで、風呂から上がった女子三人にこうなった事情を話して今に至る。


 「お風呂の床は滑るって習わなかったの?」

 「「すみません……」」

 「だいたい、二人とも今何歳よ? お風呂でふざけて怪我するって年でもないでしょう」

 「「おっしゃる通りです……」」


 セルシカには、ふざけあっていて怪我をしたと説明した。覗こうとして怪我をしたなんて言ったら、もう一度病院にいく羽目になるに違いないからな。

 それにしても、あらためて思うと情けない。女湯を覗こうとして骨折るって、テレビでたまに特集されるアホな犯罪者とレベル一緒じゃん。

 俺の打撲はまだしも、オームの骨折に至っては全治一ヶ月、必然的に冒険は一度休憩ということになる。


 「それで、お金はどうしたの?」

 「お金?」 

 「診察代よ」

 「最初にこの村に来たときにもらったおこづかいをつかいました……」

 「いくらだったの?」

 「二人合わせて二万ソルドちょうどです……」

 

 「はぁ……」


 セルシカは深いため息をつき、よりいっそうあきれた顔をしたかと思うと、自分の鞄から財布を取り出し、さらに財布の中から一万ソルド札を二枚取り出した。


 「今回だけは特別よ」

 

 そう言うとセルシカは、俺とオームに一万ソルド札を一枚ずつ手渡した。


 「「セルシカ様……俺達あなた様に一生ついていきます」」


 オームと二人で感謝の意述べてありがたく一万ソルド札を両手で受けとる。


 美しい、戦える、そして時々優しい。

 やっぱりこのグループのリーダーはセルシカに違いない。

 少なくとも今、俺の右隣で土下座しながらセルシカに忠誠を誓っているこの鳥ではない。

 

 俺は決めた。もう二度と覗きなんてしない。俺は心を改めてセルシカに忠誠を誓ったんだ。これからはまともに生きていこう。

 心の中でこれからの自分の生き様を想像し、感動していると、フルーツ牛乳を片手に持ったアルカが、俺の左隣に座った。


 …………なんつう格好をしているんだこいつは……。


 大きめのだぼっとした紫のパーカーを着ているのだが、あれはズボンをはいているのか?

 パーカーの下の方からズボンを介さずに、白く華奢な太ももが見えている。

 恐らくかなり短いズボンをはいているのだろうが、俺にはパンツとパーカーだけを着ているようにしか見えない。


 「お風呂上がりのフルーツ牛乳は格別ですねー」

 

 そう言うとカシルは暑そうに服を仰ぎながら、フルーツ牛乳を美味しそうにゴクリと飲んだ。

 

 うおおおおお! 服を仰ぐんじゃない! お前のその貧相な胸が見えてしまうだろうが!

 ロリコン趣味はないが、貧乳派の俺には刺激が強すぎる。

 くっ……落ち着け俺。俺は心を改めたんだ、絶対に左側を見るんじゃないぞ若狭修人!

 

 自分自身に言いつけて視線を右側にそらす。

 すると今度は、アルカと全く同じ形の、真っ白なパーカーを着たカシルがコーヒー牛乳片手にオームの右隣に座った。


 ぬおおおおおおお! なんでお前らは二人揃ってそんな刺激的な格好をしているんだ!


 アルカと違い、それなりにあるカシルの胸が服のせいではっきりと形どられている。


 「あっつーい。ねえアルカ、フルーツ牛乳一口ちょうだい。私のコーヒー牛乳もあげるからさ」

 「いいですよ」


 二人が座ったまま俺とオームの前に体を乗りだし、持っている牛乳瓶を交換する。


 やめろやあああ! その見えそうで見えない感じ! いや、別に見たいわけじゃないよ、見たいわけじゃないんだけどさ、なんでそんなにギリギリ見えないんだよ! あとちょっとなのに!

 …………これがチラリズム……なんて刺激のあるものなのだろうか。

 高校の時は女子と関わりがほとんどなかったからそんな経験したことなかったし、中学の頃は男子校だったから、チラリズムというよりモロチンリズムに近かったからな。


 俺は自分の理性をなんとか抑制しながら隣のオームに目をやると。


 こいつ、普通にこの状況を堪能してやがる……。

 鼻の下を伸ばして、どうにか服のなかを見ようと一生懸命首を動かしている。


 落ち着け。俺はこんな性欲にまみれた鳥とは違う。セルシカの優しさに触れて心を入れ換えたんだ。


 「おれも牛乳買ってくる」


 視線を前に固定したまま椅子から立ち上がる。


 「おう、いってらっしゃーい。あ、ついでに俺の分も頼むわ。俺フルーツ牛乳ね」

 「てめぇも一緒にくんだよ、この腐れ鳥が」


 泣きながら嫌だと言って椅子から離れようとしないオームを引き剥がして牛乳を買いにいき、もといた椅子とは違う椅子にオームと腰かける。

 

 「うっ……ぐっ……シュート、お前変わっちまったな」

 「お前が変わらなさすぎるんだよ!」


 泣きながらフルーツ牛乳を飲むオームに一喝いれたところで、セルシカが話を切り出した。


 「この後どうする? シュートとオームの怪我が治るまでは次の村にもいけないし、ムーブで一ヶ月近く過ごすことになるけど……」


 「そうだな、特にやることもないよな…………そうだエルの屋敷いってみるか」


 エル。

 それは、ユレ洞窟に入る前に出会った自称この村の村長。

 セルシカが嫌そうに苦い顔をする。


 「もしエルが本物の村長だとしたら、招待状もあるんだし、いい待遇してくれるんじゃないのか」

 「そうですね、どうせ暇だし行って確かめてみましょうか」

 「賛成!」


 時間はいくらでもあるので、後日エルの屋敷に行くことに決定した。


 「我が戦友は元気にしているかな?」


 そういえば、オームとエルが謎に仲いいの忘れてた。

 当日はこいつに調子乗らせないよう気を付けよう。

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