第25羽 見つける鳥はただのカカポ

 「…………なんか肉が少ないんですけど、満足感に欠けるんですけど」


 オームが日に日に量が減っていく燻製肉を見つめながら不満そうにつぶやく。

 

 「お前がアホみたいに肉ばっか食うからだろ! 野菜食え、野菜!」

 

 洞窟に入ってからすでに七日経過していた。

 俺達は、持ってきた食料が底をつきつつあるので肉の量を減らして生活している。

 変異体から肉を取ろうにも、洞窟内にいる変異体はどれも虫のような奴ばかりで、とても肉は取れそうになかった。


 「つうか、鳥の主食って虫だろ、お前はそこに転がってるカナブン食えよ。それならお腹いっぱい食べれるぞ」


 オームの後ろに転がっている、つい先ほど倒した巨大なカナブンの変異体を指差す。


 「自分よりでかい虫なんて食えるか! 大体、おれの主食は肉だ!」

 「お前、猛禽類じゃないだろ! オウムならオウムらしく虫食えよ!」

 「残念、名前にフクロウって入ってますー」

 

 「はいはい、無駄なエネルギーを使わない」


 やれやれといった様子でセルシカが、言い合う俺とオームの間に割って入る。


 「どうにかして食料を確保しなくてはなりませんね……。残りの食料じゃ、いくら少しずつ食べても、もって一週間といったとこですからね」


 少ない肉を少しづつ口に運びながら不安そうにアルカがつぶやく。


 一週間か……。帰りの時間も考えたらあと二日以内に装置を見つけたいところだ。

 だが正直、二日以内に見つけられる気がしない。なんせ装置までの正確な距離がわからないのだ。

 装置の音の間隔は確実に狭まってはいるのだが、具体的な距離がわからないので、もしかしたら、あと五年はかかります、なんて事もあるかもしれない。 

 もし食料が底をつきたらどうしよ。そうなったら本気でオームを調理する事も視野に入れなくては。


 「おい、なぜそんな覚悟を決めたような目をしておれのことを見るんだ?」

 「いや、別になんでもない。安心しろ、ちゃんと美味しく食べてやるから」

 「食べる? どゆこと? なんか身の危険を感じるんですけど、不安なんですけど。まさかおれ」

 「とりあえず今はこの装置を信じて進むしかないな…………」


 オームの言葉を遮るように俺はポツリと呟く。


 この日は、グループ全員が色々な種類の不安を抱えたまま眠りについた。 



*   *   *

 

 

 「シュート、向こうからもきてるわ! しかも大量に!」

 「まだくんのかよ!? 一体何匹いるんだこのアリ共は!」


 今、俺達は大量のアリの変異体と戦っている。すでに戦い始めて二十分は経過していた。

 

 寝ている俺達の周りにいつの間にか涌いて出てきたこのアリ軍団、大きさは三十センチほどと、そこまで大きくは無い。しかし、問題は大きさではなくその数、見た感じ五十匹はいそうだ。


 「おい、なんかまた増えてないか!? さっきより多い気が…………うわっ、なんか変な汁飛んできた! なにこれ臭! 臭いんですけど! …………これアリの体液じゃねえか、気持ち悪! シュート、こっちに汁飛ばすな!」

 「おまえちょっと黙ってろ! アリの軍団の中に放り投げられたいのか!?」

 

 いくら倒しても次々に涌いてくるのできりがない。しかも、大きさの割りに力が強く体も硬いので、俺の小刀では一撃で倒せない。あと体液が臭い。


 「相手にしてたらきりがないわ。ここは一旦逃げるわよ!」


 セルシカの合図とともに全員戦闘を放棄し、洞窟の奥へと走り出す。

 何匹か、リュックにかじりついてきたが、オームが必殺くちばしで叩き落とす。

 


 「ん? うわあああああ! 飛んでる、飛んでますよ、飛んで追いかけてきてますよ! しかもまた数増えてますよ!」

 

 飛んでる!? アリのくせに飛べんのかよ、オームよりよっぽど優秀じゃねえか。羨ましいぜ、コンチクショー!


 酸欠で声の出せない俺は、心の中でアリに嫉妬しながら、ただひたすらに走り続けた。

 変異体はしつこく後を追いかけてきたが、ここ数日歩きまくって鍛えた俺達の足に追い付くことはなかった。




 「ハァ、ハァ、ハァ……なんとか逃げ切れたな……」

 「こりゃまた一段と開けた所に出たな」


 なんとか走って逃げ切る事に成功した俺達は、全く息切れしていないオームの言葉に顔を上げ、自分達がいる場所をを見渡した。

 無我夢中で走っているうちにたどり着いた場所は、野球場ほどの大きさの空間で、周りは岩でできているが、地面だけに砂利のような細かい石が散らばっている。

 進む道は、一本道だったので道は間違ってはいないはずだ。


 走り疲れた俺達は、少し休憩をとることにした。

 猪の変異体に教われた時以来の猛ダッシュ、さすがに疲れた。

 みんなで地面に座り、水分補給をする。 

 

 水分補給を終えた俺は、リュックから装置を取り出し音を聞いてみた。

 音の間隔は狭まっていた。

 奥の方に目をやると次の道は二手に分かれている。

 次に進む道を決めるために、オームを背負ったまま立ち上がって巨大な空間を横切り、装置を道の奥の方へと向ける。

 

 


 「……間隔、広がってない?」

 「…………広がってるな」


 最初は俺の勘違いかと思ったが、オームにも間隔が広がったように聞こえたらしい。

 試しに巨大な空間の真ん中付近に立ち、音を聞いてみる。

 

 「…………おい、これ……」


 さっきよりも明らかに間隔が狭い。

 俺は、音を聞きながら巨大な空間を歩き回り、一番間隔が狭い所を見つけた。

 

 「ここだ……」


 それはこの巨大な空間の真ん中付近。


 ついに見つけたぞ、この場所にルーカスの部下が残した装置がある!


 急いで、休憩していた三人にもこの事を伝え、全員で手当たり次第に地面を掘りまくる。

 が、いくら掘っても装置らしきものは見つからない。

 天井の方にあるのかと思い、オームに体重を軽くして浮かしてもらい、装置の音を聞いてみたが、地面に立っている時よりも間隔が広がったので、やはり地面の中にあるようだ。

 聞き間違いかと思い、辺りを歩き回ってもう一度装置の音を確かめてみると、やはり中心付近で音の間隔が一番狭まる。

 やっぱりこの場所にあるはずだ。もっと掘るしかないか…………。

 全員でまた穴を掘ることにする。


  


 「なんか硬いのがあってこれ以上は掘れないよー」


 穴の中から、自慢の爪でひたすら掘り進めていたカシルの声が聞こえる。


 「音的にこの下にあるのは間違いないはずなんだけど」

 「カシル、爪もっと伸ばせば、たくさん掘れるんじゃないのか」


 オームがなぜそうしないのだと、不思議そうに尋ねる。


 「いや、それだと装置を傷付けかねないわ」


 セルシカの言う通りだ。無闇に掘って装置を壊しなんかしたら元も子もない。もし装置が壊れたらその時点で二つの世界の終焉が確定するんだ。軽い気持ちで掘って壊しでもしたら、ルーカスに地獄に引きずり込まれるに違いない。


 というかそもそも、セルシカの爪で掘れるのか? 見た感じかなり硬そう感じがする。


 そう疑問に思い、中心から離れたところに行って爪で掘れるのかを確かめることに。


 「砕くぐらいの勢いで、思いっきりやってみてくれ」

 「任しといて!」


 そう言うと、カシルは爪を最大まで伸ばし、思い切り硬い部分に突きつけた。


 ガキン!


 「いったーい! ジーンてするーー」


 カシルが涙目で突きつけた方の手をおさえる。

 爪を当てた所を見てみると少し削れている。


 「この地盤かなり固いな、カシルの爪でも少し削れる程度か。もうちょっと掘ってみてくれ。硬い部分がどのくらいの厚さなのか知りたい」

 「ひどーい、こんな痛いの何回もやらせるなんて! これものすんごい痛いんだからね!」

 「ムーブに戻ったら俺とオームの小遣いで好きなもの買ってやるから、ファイト!」


 「え……何で勝手におれの——」

 「もーしょうがないな」


 そう約束をして、一回やるごとに手をおさえながらもカシルは掘り続けた。


 

*   *   *



 「ねーまだーー?」

 

 カシルが手をおさえ、穴の中から涙目で聞いてくる。涙目というかもはや泣いている。

 

 今ので七回目。かなり分厚そうだな、カシルの爪でも掘るのは難しいかもしれない。

 でも掘れないとなるとどうやって装置を探せばいいんだ?

 どうしようかと考えていたその時。

 

 …………何だこの揺れは。


 激しい轟音とともに、地面が大きく揺れ、上から小石が降ってくる。


 嫌な予感がした。前にも一度、この揺れに似たものを経験したことがあるような気がした。

 そう……あれはムーブを出て、ユキトへと向かっていた時……。

 ついうっかり『暇だ』なんて呟いてしまったあの時…………。


 


 「もういやあああああああああああああっ!」

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