第22羽 風を感じる鳥はただのカカポ2
「さあ! 皆さん、朝ごはんの時間ですよ!」
朝からエルがやかましく大声をあげている。
それを見て、鍋を片手にエルの元に向かうセルシカを俺は手で制する。
「落ち着け、もしかしたらユレ洞窟まで行くの手伝ってくれるかもしれないだろ、殴り殺すのはその後だ」
「いやよ! あんなのと一緒に行くの! 毎朝、あの声で目覚めるなんていや!」
セルシカが、鍋を握りしめたまま必死に訴えてくる。
見るとアルカとカシルも生気を吸われたかのようにげっそりとしている。二人とも、一言も発さずに黙々と肉を口に運んでいる。
確かにずっと一緒にいたら頭がおかしくなりそうだ。だがそれを差し置いても、エルはものすごく強い。なんせ巨大な変異体を一撃で倒したんだ。有効活用しない手はない。
「エルはここで何をしていたんだ?」
「私はこれからユレ洞窟の調査に向かうところです」
キターーーーー! 目的地一緒! ラッキー。
「じゃあ、俺達と一緒だな」
「なんと! では共に参りましょう。私が風をユレ洞窟へと導くのです!」
よしよし。これで安全にユレ洞窟に向かうことができそうだ。
* * *
「ぎゃあああああああああああ巨大熊ああああああああああ! エルウウウゥゥゥゥ!」
スパン!
「ぎゃあああああああああああ巨大狼いいいいいいいいいい! エルウウウゥゥゥゥ!」
スパン!
「ぎゃあああああああああああ巨大カマキリイイイイイイイ! エルウウウゥゥゥゥ!」
スパン!
エル、大活躍。
ユレ洞窟に着くまでに襲ってきた変異体を全て一撃で撃破。自前の剣を自由自在に操っていとも簡単に変異体の体を一刀両断。こいつと一緒にいると冒険じゃなくなるな。
よし、この調子で洞窟の中もサクッと攻略しますか!
「おや、あなた達は洞窟内を調査するのですね。私は洞窟の外の調査なので、ここでお別れですね。残念です……まだまだ風と御一緒したかったのですが……」
洞窟に中へと向かおうとする俺達に、エルが残念そうな顔をしてそう告げた。
うそおおおお! この調子で洞窟の中を楽に攻略して、安全にムーブまで帰ろうと思ったのに……。チート武器がここにきていなくなるとは……。
「調査が終わったらぜひ一度、私の屋敷にいらしてください。歓迎しますよ。風の教えを信じる人に悪い人はいませんからね」
そう言うとエルは、リュックの中にいるオームに、招待状のような物を手渡し、言葉をかける間もなくどこかへ去っていった。
渡された紙には『エル・リルレガード』と書いてあり、横に判子のようなものが押してある。
つうか、いつの間に俺達は風の教えを信じる人になったんだ?
「なんか……色々とすごい人でしたね」
「……だな……………………行くか」
気持ちを切り替え洞窟の中を覗く。中は真っ暗だ。
すると、アルカがランプを用意すると言って、虫籠のようなものを取り出した。中を見ると、蛍のような虫が入っている。
「なんだそれ? 蛍か?」
「電蓄虫です。この虫をランプのろうそく代わりにして洞窟の中を照らしながら進みます」
「洞窟の中を照らすには少し光が弱くないか?」
「大丈夫です。こうすると……」
喋りながら、アルカが電蓄虫を握りつぶそうと圧力をかける。すると電蓄虫が眩しいくらいに輝きだした。
「この虫は、命の危険を感じるとものすごく明るく発光するんです。だから、こうやって圧力をかける事でしばらくの間、光を強める事が出来ます。手を離すとゆっくりと光が弱くなっていくので調整がしやすくて便利なんですよ!」
笑顔で説明を続けながら、電蓄虫を握り潰そうとするアルカ。
え、えげつねぇ……少女が笑顔で虫を握りつぶそうとするこの絵面……。なんかこの虫がかわいそうになってきた。
「洞窟内で野宿するときはこの虫に糸を付けて自由に放し飼いにするんです。そうすると、天井や壁に張り付いてまるで部屋みたいに明るくなるんです!」
電蓄虫は死んでたまるかとばかりに、力を弱めようとしないアルカの手の中でもがき苦しんでいる。
なんかごめんな電蓄虫…………こんな少女に捕まったばかりに…………。
俺は、この冒険が終わったら、必ずこの哀れな電蓄虫を解放してやろうと心に決め、洞窟の中へと足を踏み入れた。
一番前をカシルがランプで照らしながら歩き、その後ろを俺とオーム、アルカ、セルシカの順番で進んでいく。
「ねえ、この並び順おかしくない? 普通、遠距離攻撃の私は守られる方じゃないの? しかも私、一応女なんですけど」
最後尾のセルシカが文句を言ってきた。
「馬鹿野郎! お前はうちの主戦力の1人なんだからしっかりと働いてもらわなくては困るぞ!」
「そうだ、そうだ! シュートなんかが最後尾で、襲われでもしたら、対処出来るわけないだろ!」
「はぁ……なんでうちのグループの男はこうも頼り甲斐がないのか……」
隊列を崩さずに慎重に進んでいくと、開けた所に出た。奥の道は二手に分かれている。
どちらに進むのかを決めることも兼ねて、今日はここで野宿することにした。
見たところ、二つの道に大きな違いはない。全員で周りの壁を調べもしたが、なにも手がかりのようなものは見つからなかった。手詰まりだ。
一度分かれ道の事は諦めて、拠点となるテントを組み立てながら、俺はふと思ったことをアルカに尋ねた。
「そもそもなんでここに王証神器があると有力視されているんだ? ルーカスの部下が命がけで隠したのなら、そう簡単に場所が特定されることはないだろ?」
「私も実際に見たことはないんですが、昔『発見』という能力の人がいて、その人が『この国に三つの願いを感じる』と言って指定して場所の一つがこのユレ洞窟なんです」
電蓄虫の体に紐を巻き付けながら答えるアルカ。
胡散臭! もしその話が本当だったらルーカスの部下ががんばって隠した意味よ。
というか、今のとこ俺がアルカから聞いた情報、全部噂なんだが……。
でも現状、この話以外に手がかりはないのでこの話を信じるしかないな。
…………願い……か。それは王になりたいという願いなのか、それとも例の装置を見つけて欲しいという願いなのか、はたまたその両方なのか。
仮に例の装置と王証神器が同じ物だとしよう。
その場合、見つけて欲しいという割には、見つけるための手がかりが少なすぎる。どこかに隠した、というだけじゃ見つけるのは不可能に近いだろう。
ルーカスが俺たちに残した目に見える手がかり、それはただ一つ、あの袋だ。それなら、あの袋には何かまだ手がかりがあるのではないか?
そう思いリュックから袋を取り出す。袋は無地で何も書かれていない。
袋から例の装置を取り出そうと手を触れる。すると。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。
は?
「なんか爆弾みたいな音しないか?」
オームが辺りを見回して音の出所を探っている。
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ。
「なんか音の間隔、狭まった感じしない?」
ピピピピピピピピピピピピ。
「爆発寸前みたいな音してるんだけど!」
「みんな伏せろ!」
俺はみんなにそう合図し、同時に手で頭を覆いながらうずくまる。
「…………」
「………………」
「……シュート、一人で何してんの……?」
しねえのかよ爆発! しろよそこは! 恥かいたわ!
「やあーねえー、カシルさん見て頂戴あの子。爆発すると思ってブサイクな格好でうずくまってるわよ」
「ほんとっ、『みんな伏せろ!』ですって。プププ」
あの動物コンビは後で燃やす。
そう決意し、俺は何事もなかったかのように立ち上がる。
「何だったのよ、その音」
「わからない何か手がかりがあるんじゃないかと思って触ったらこうなった」
「で、爆発すると思ったと」
「プププ」
くそっ、しばらくはこのネタでバカにされ続けそうだ。
動物コンビの方をにらみながら俺を恥ずかしい目に合わせた装置を拾い上げる。
ピ、ピッピピピピ、ピ、ピ、ピッ。
前と同じで俺が触ると音がなるようだ。音の間隔が一定でなく、装置を動かす度に音の間隔が変わる。
なにか規則性があるのか?
そう思い、逆さにする、振る、回す、しつこく小バカにしてくるオームに投げつけるなどしてみるが規則性らしきものは見つからない。
わ、わかんねぇ……。ああー、なんかおんなじ音聞きすぎて、頭いたくなったきた。なんなんだよこの装置。ルーカスも手がかりを残すなら、もうちょっとわかりやすくしてほしいもんだ。
俺は、顔も見たことのないルーカスに不満をたれながら、装置を改めて見る。
もちろん、形が変わっているなんて事はなく、相変わらず、少しくぼんだ部分のある球体。
…………このくぼみはなんなんだ? オームは『床に置くときに安定させるためだろ』とか言ってたけど、そんなしょーもない機能、ルーカスがわざわざ付けるとは思えない。
と考えつつも、俺は、オームの言った通り、窪みを下にして地面に装置を置いてみる。
なるほど、確かに抜群の安定感だな…………いや、違う違う違う。
俺は頭の中で考えを巡らせながら、何気なく装置をコロンと転がした。
ピピピピピピピピピ。
…………?
何気なく転がした装置から出た音は、今まで装置から出たどの音よりも間隔が狭かった。
なんだ? なんでこんな急に間隔が狭くなったんだ?
立ち上がり、近づいて装置を見てみるが、装置に目立った変化ない。
……転がす前と後で変わった事…………向きか?
今、装置のくぼんだ部分は、次に進む二つの道の方を向いている。
くぼみ…………向き…………アンテナ?
テレビのアンテナは電波を捉えやすいように、皿のような形をしていると聞いたことがあったな。それか?
試しに、くぼんだ部分を洞窟の入り口の方へ向けると、音の間隔が広がった。
一方、洞窟の奥の方へと向けると、再び間隔が狭まる。
俺は確信した。
ある、この先にルーカスの部下が俺達に残した装置が。
ついに活路を見出した。
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